潜入! 辺境都市へ ~スレイン王国辺境伯領動乱編~

第59話 女神を敵視する竜の姫が人間社会で暮らした場合(1)



 はじめまして、で大丈夫なのかな。


 私は、クレア。クレアです。クレアと呼んでください。






 あの日。


 突然の眷族召喚で呼び出され、運命の出会いがありました。


 今から思えば、あれって、陛下なりの気遣いというか、お見合いだったのかな、という気もするんだけれど。


 なかなか、相手は手強く、まだつがいにはなっていません。

 頑張ります。


 しかし、邪魔者が大変手強くて困るというか。

 神族が何してんの? って感じです。


 あれから三年経ちました。

 人族にとっては、それなりに長い時間の経過のようで・・・。


 今では、アコンの村のみんなとは、そこそこ仲良く暮らしてます。

 あの、邪魔者の神族を除いて、だけどね。






 とりあえず、あの日のことから。


 あの日、私はオーバと戦いました。

 怖くて怖くて、とにかく暴れるしかなかった。


 赤竜王さまに傷を負わせた人間なんて、もう人間じゃないわっ!


 全力の炎熱息や火炎弾は、女神の結界を揺さぶることすらできず。


 なんなの、あの、千手守護って?

 火炎弾がことごとく撃ち落とされて消えていくのよ?

 神族の防御力はあり得ないわ!


 そうするとオーバ本人を攻めるしかないのだけれども、こっちも化け物なのよ?

 モーションの大きい踏み潰しはもちろん、牙も、爪も、一番柔軟に動く尾でさえ、かわされ、受け止められ、はじかれて。

 逆に、足や腹、下顎に喰らった拳や蹴りの一撃は、一発で生命力を500以上も削り取るのよっ?


 竜族の防御力だって、かなりのものなの、本当は!


 こっちの攻撃は届かないのに、がんがん生命力を削られていく。

 恐怖でしかないわよ。


 本当は思い出したくもないわね。

 二万以上、生命力を削られて、私は言ったの。


「くっ、殺せ・・・」


 そうすると彼、オーバがあっさりと手を止めたの。


「・・・それ、赤竜の眷族ではやってんの? いや、それはともかく、青竜王との約束で、修行では命を奪い合うことなく、と決められてるしなあ」


 え、これ、修行なの?

 本来は三万近い私の生命力がもう二千も残ってないのよ?


 命の危険しか感じなかったんだけど・・・。


 彼は、オーバは、全力を出せるのはありがたい、また相手をしてほしいって。


 そう言って、私を温かい光で包んで、癒してくれた・・・。


 神聖魔法で。

 その温かさに包まれながら、私は彼に答えたの。


「絶対に、嫌!」


 後にも先にも、オーバのびっくりした顔っていうのは、この時限りだったかも。


 だって、およそ百年ぶりにレベルアップしたと思ったら。


 身に付いたスキルは「苦痛耐性」よ?


 竜族のプライドなんていらないわよ。


 絶対にお断り。

 痛いのは嫌~。






 それからいろいろと話し合って。


 じゃあ送還してよねってなったんだけど。


 よく考えたら、私を召喚したのは赤竜王さまで。

 その赤竜王さまは送還されちゃってて。


 オーバが竜玉を使っても私を送還することはできなくて。


「じゃあ、赤竜王を呼び出すか・・・」


 待って!

 それはダメ! ダメ絶対!


 竜王って、そんな簡単に呼び出すもんじゃないの。

 そもそも、こんなことで呼びだしたら、私がめちゃめちゃ怒られるわよ。


「そんじゃ、竜姫さんは、自分で帰ろうか」

「・・・無理」


「なんで?」

「召喚でここまで呼ばれたから、どっちに竜族の村があるかなんて、分からないもの」


「・・・そういうものなの?」

「そもそも、ここって、「領域」の外よね?」


「ああ、そうだっけ」

「飛んで帰るなんて、私には無理よ」


「やっぱり赤竜王を・・・」

「やめてっ! それだけはやめてっ!」


「怒られるぐらいで・・・」

「そこは価値観の違い」


 そう。


 寿命が異なる私たちにとって。

 互いの価値観が大きく違うのだ。


 何十年と時間をかければ、いずれ竜族の村へと帰ることはできる。


 寿命がきわめて短い人族の何十年と、私たちの何十年は大きく異なる。

 たかが何十年かの時間のために、赤竜王さまを呼び出すなんて、私たちからすると、あり得ないの。


 そういう訳で、私は帰れなくなりました。


 ただし、ここに残っても、オーバの修行に付き合って、痛い思いをするのは嫌。


 え?

 わがままですって?


 それなら、あなたがオーバの一撃を受けてみるといいわ。

 これだけはどのような種族の違いも乗り越えて、分かってもらえると思うのよ。


 オーバもあきらめてくれたみたいで、その代わり、私はオーバに魔法を教えることになった。


 それが、三年前の、あの日の出来事。






 それから、しばらくはオーバが私のところまで通ってきては、魔法について教えてたのよ。


 一か月くらいかしら。


 本当は、私たち竜族は、食事を必要としないのだけれど。

 オーバが持ってきてくれるおいもがとっても美味しくて。


 人化の魔法を使って、オーバと一緒にアコンの村に行ったの。


 石灰岩の台地で出会った人だって、紹介されて。

 赤い髪と赤い瞳がとても珍しがられたけど。


 そもそも、この村はいろいろなところからやってきた人ばかりということもあり。

 オーバに言い含められた邪魔者女神は余計なことを言わなかったし。


 私の正体になんとなく気づいたノイハも、そのことを一切口にしなかったから。

 私は人族のフリをして、アコンの村での生活を始めたの。






 村での生活は、竜族の暮らしとは全く違うものだったわね。

 食べる物を生産しないと生きていけない人族って、面倒だわ。


 ただ、その結果としての食べる物がとても美味しいのは、盲点だったわね。

 そこは、人族の暮らしのいいところよ、本当に。


 毎日行われる修行での手合わせでは、私はオーバの次に強かったわね。


 でも、ジルとクマラ、それからウル。

 この三人は、人間離れした強さだったわ。


 オーバと違って、命の危険を感じるほどではないけれど。

 あんな人間もいるのね、と思った。


 ジルとウルなんて、まだ小さい子どもなのに。


 この村の戦力って、魔の領域ならダークエルフの国を滅ぼせるのではないかしら。

 私一人で滅ぼせるのは間違いないけれど。


 あ、オーバは別腹で。


 どこにも争いがないのに、どうして武力を磨いているのか、ちょっと不思議。






 ノイハをリーダーとして、ジルと大牙虎のタイガがサポートに付いて、猪の家畜化計画が進められたのよね。大牙虎って、人族に飼われるようなものなのかしら?


 力が強いからって、私も強制参加。


 仕留めた母猪は、美味しく頂くのだけれど、親子を引き離すって、残酷だわ。

 子猪は、小さいうちに、狭い所に押し込めて、運動量を減らす。


 なかなか大人しくならなかったのだけれど。

 クマラのアイデアで、子猪と大人しい森小猪を一時的に一緒の場所で生活させると、子猪の動きが大人しくなっていったの。


 不思議なものね。


 猪も、森小猪も、その鼻と牙で農地を耕してくれるので、便利でありがたい存在らしい。


 人族って、賢いわよね。

 三年で、猪が十五頭、家畜化されているの。


 これって、すごいことなのかしら。





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