第48話 女神が友人の結婚に爆弾を埋め込もうとする場合(3)
肉を食べ尽くして、かまどが下火になり、焼き芋の出来上がりを待つ。
そんなタイミングで、ノイハに不意打ちをしかけてみる。
「ノイハ?」
「んー?」
「リイムと結婚する気はあるか?」
「んー・・・って、結婚? リイムと?」
不意打ちは成功したらしい。
「なっ、ななな、なんで、おれと、リイムが?」
「いや、最初に大草原に行ったときから、そもそも、おれは大草原にノイハの結婚相手を探しに行ったんだけれど?」
「えっ?」
「おれには、アイラがいるし、クマラとも婚約してたしな。ノイハやセイハも、相手が必要だろう?」
「・・・リイムは、オーバと結婚しねーのかよ?」
「その予定はないな」
「・・・そーなのか」
「そーなのだ」
「そーか」
「そーだ」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・リイムが、嫌いなのか?」
「ばっ、そ、そんなこたあ、ねーけど、さ」
「・・・この前、毒蛇にリイムが噛まれて、抱きかかえてたよなあ」
「あ、あれは、リイムが、もう動けないって、状態だっての、分かんだろ?」
「・・・左手が、おしり・・・」
「なっ・・・」
「わざと?」
「いっ・・・」
「見たぞ?」
「うっ・・・」
「女の子って、やわらかいよな」
「・・・うー」
おいおい、ノイハ先輩。
あんなに、滝シャワーをのぞきたがっていたくせに。
なんて純情な奴なんだ。
「・・・やわらかいよな?」
「・・・あ、ああ。やわらかくて、あったけーな。あんとき、どきどきしちまったし、な」
「ほほう? どきどきしましたか?」
「くっ・・・。オーバは? アイラにどきどきしねーんだな?」
「おれのことはいいんだよ」
「なんで?」
「もう結婚したんだから」
「そこっ?」
「もちろん、アイラも、クマラも、ケーナも、大好きだけれど?」
「ほ・・・」
「ノイハは、リイムが好きか?」
「・・・」
「・・・」
残り火に照らされたノイハの顔は、ほんのりと赤い。
照れ、だろうか。
気のせい、だろうか。
こういう話、これまでしてこなかったんだな、と。
ノイハが黙ってしまったので、それ以上は追及せずに、おれも静かに、残り火を見つめた。
野営はそのまま、食事をした場所ですることにした。
寝るのは交代で。
大草原は樹木があまりないので、大森林のように、二人とも樹上で寝るという訳にはいかない。
まあ、セントラエムに警戒を頼めば、二人とも寝たとしても、起こしてもらえるのだけれど。
ノイハが先に寝る。
まあ、ステータスから考えても、ノイハの方が疲れているのは当然のことだ。
ゆっくり休んでほしい。
ステータスと言えば、ノイハはレベルアップしていた。
新しく『騎乗弓術』スキルを獲得して、レベル14になった。『乗馬』スキルは身に付かなかったのに、その上位スキルと考えられるものが身につくとは・・・。
まあ、ノイハが弓術に傾倒しているスキル構成だということ。
初めての馬上からの矢を一発で命中させたこと。
このあたりが、今回のスキル獲得のポイントではないかと、セントラエムと話し合った結果、そう考えている。
特に、「初めて何かを成功させる」という点や、「それがもっとも得意なことである」という点は、重要だろう。
さてと。
ノイハは寝ている。
おれは、セントラエムとミーティング。
「セントラエム、アコンの村のようすは?」
・・・変わったことはありません。みんな元気です。
「この周辺の危険は?」
・・・スグルが確認している通り、マダラオオネコや獅子など、何かはいますが、火を起こしている限り、とりあえず大丈夫だと思います。
「そっか。安心したよ」
・・・ノイハは、リイムとの結婚を考えているようですね。
「あ、セントラエムは、そう思ったのか」
・・・そういう表情ではありませんでしたか?
「・・・なるほど。ノイハの奴、照れてたよな」
・・・ですから、早めに、リイムに夜伽を命じて、スグルは一夜を共にすべきです。
「おいおい・・・」
・・・アコンの村の戦力という点から、そうするべきだと思いますが、何か、問題がありますか?
ある。
あるに決まっている。
大問題だ。
おれにとっては。
いや、セントラエムが考えていることとか、セントラエムが目指していることとか、セントラエムが言いたいことは、分かる。
アイラのときや、ライムのときのように。
おれとそういう関係になれば、いくつかスキルを獲得する可能性があるって、こと。
そうすれば、一気にレベルアップして、強くなれるってこと。
数値の上では。
スキルのことで考えれば。
レベルのことで考えれば。
アコンの村の今後のためにも、セントラエムが言っていることに、正しさはある。
しかも、それが、この世界における、男女の関係の、ごく普通のことなのかもしれない。
この、原始的な世界での、当たり前のことなのかもしれない。
実際、リイムはエイムと一緒に、おれの寝床にもぐりこんできたことだってあったしな。
大草原の氏族の中では、族長が自分の嫁を与えるってこともあるらしい、し。
でも、おれの感覚では。
ノイハのお嫁さんになるかもしれないリイムと、おれが、そういう関係を一度持つということは、抵抗がある。
問題がある。
そうしたくないと思う。
この前、ナルカン氏族のテントで過ごした、ライムとのときとはちがう。性欲とは切り離された、おれの中の倫理観が、それはないと言っている。
いくら守護神からのアドバイスだからといっても。
ここは、ちがうだろう?
・・・私と話せるようになる『信仰』スキルに、そこまでこだわらなくてもいいと思います。そもそも、ライムのときには、気にしなかったのではないですか。
いやいや。
そういうことではありませんよ、セントラエム。
リイムに『信仰』スキルがないから、嫌だというのではないのですよ・・・。
確かに、おれと結婚するという場合の条件として、女神と話せることは、要求してます、はい。
・・・リイムとサーラは、まったくちがう性格だと思いますし、スグルがサーラを避けたがったときのようなことは、リイムには感じません。私の感覚が、間違っていますか?
「いや、リイムとサーラは、確かにまったくちがう性格だと思うし、おれが以前サーラを避けたことと、今、リイムとのことでセントラエムの言い分を受け入れたくないってこととは、全然関係ない、まったく別の理由だよ」
そうだ。
サーラと、リイムはちがうし、おれがリイムとの関係に抵抗を感じるのは、おれ自身の元の世界での倫理観と、ノイハとおれとの関係がこじれるのではないかと気になるからだ。
まあ、セイハがサーラとの結婚で、サーラが別の男の子どもを妊娠していることをまったく気にしていないことだったり。
ジッドやトトザが、以前、生まれてくるサーラの子どもをおれの子として育ててほしいと言ってきたことだったり。
アイラが初めて会ったばかりのおれと、そういう関係になることを求めてきたことだったり。
アイラやクマラが、ライムとのことを知っても、そこまで深く嫉妬しなかったり。
そういう経験から、こっちの世界の、男女の間の倫理観は、おれの感覚と大きくちがうってことは、おれもよく認識している。
それでも、これはちがう、と思うし、思いたい。
リイムとノイハが結婚してほしいと思うのであれば、おれとリイムがそういう関係になるべきではないのだ、と。
・・・王や、族長とは、そういうものです。そして、スグルは、大森林の王です。
はいはい。
そういうことは、もうここまで。
今夜のミーティングは、おしまい、です。はい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます