第47話 女神がとある姉妹を冷静に見極めていた場合(3)



 ここはノイハだ。


 ノイハが、大草原の空白地帯を経験し、行き来できるようになれば、猛獣狩りができる、という可能性がある。

 肉好きのノイハにとっても、村のみんなにとっても、魅力的な話だ。アコンの村では、狩りと言えばノイハ。ノイハと言えば狩り。


 これは、今後の食糧事情にも関係する重大事案だと考えられる。


 肉好きは、多い。

 美味しい肉は増えてほしい。

 そういう意見はよく聞く。


 だからノイハだ。


「猛獣地帯を調査して、いつか、そこに棲む猛獣を狩って食べると考えたら、ここはノイハが行くべきだ。ノイハが大草原の空白地帯に詳しくなることは、この先のアコンの村にとって、大きな意味があるからな」


 ・・・というのが、表向きの理由。


 そこまでおれが言い切ると、ジッドもエイムも反論はない。

 その通りだから。


 でも、裏の理由は、ノイハとリイム。

 リイムは、ノイハを意識しているのは間違いない。


 それはもはや、恋、なんだろうと思う。


 あの、毒蛇の一件で。

 命の危機を救ってくれた男。


 もしこれがエイムの仕組んだことだったとしても、ここでノイハとリイムが結ばれるっていうのは、おれにとっても、村にとっても、プラスになる。


 おれと、アイラやクマラやケーナ・・・今後も増えるかもしれないけれど。


 セイハとサーラ。

 そして、ノイハとリイム。


 三家族で、子どもが増えていくことは、村のこれからにつながる。


 だから、リイムがノイハに魅かれている、この時点で。

 一度、二人を引き離してみる。


 おれの予想では、エイムがリイムのノイハに対する恋心を煽るだろうと考えている。


 危険な猛獣地帯へと旅立つノイハ。

 それを心配するリイム。


 危険を乗り越えて、大きく、たくましくなるノイハ・・・というように都合よく行けば。

 この二人って、あっさりまとまるんじゃないかな。


 うん。

 リイムについては、ほっといても、周りがそう動くだろう。


 だから、おれは、ノイハと二人旅で、男同士、語り合ってみる。いろいろと、語り合うのだ。いろいろと。


 そのとき、恋の話も、あるんじゃないか?


 滝シャワーが気になる、ノイハのことだ。


 もっと、いろいろと聞きたがるかもしれない。おかしな情報は与えないし、アイラの個人情報も教えたりはしない。


 でも。

 そんな中で、いろんな話を通して。


 ぐぐっと女性に対する、ノイハのモチベーションを最大にして。

 しばらく離れていたリイムと再会。


 それで、うまくいくといいなあ。

 いまいち、ノイハの考えが、よく分からないから。


 いろんなことを話す時間になってほしい。


 思えば、こっちの世界に来て。

 おれにとっては、ノイハが最初の男友達だ。


 あのころは、命がけで大牙虎と戦っていたから、友情だのなんだの、のんびりと考えることはできなかったけれど。


 とにかく、ノイハとゆっくり、旅をするのも、いいんじゃないか。

 そう考えてみた。


 ま、ゆっくりはできないけれど。






 出発はキリのいいタイミングで、と思って。


 おれとノイハが組んで、二人で、ジル、クマラ、ジッドの三人とタイガの一匹を同時に相手にする訓練を重ねて。


 セントラエムから、あのかばんをひとつ追加してもらって。


 ノイハの矢を大量に準備して。


 ネアコンイモをはじめとする物資をたくさん詰め込んで。


 おれが転生してからちょうど二百十日目。そして、転生して七カ月目。


 おれとノイハは、『長駆』のスキルを使って、アコンの村を離れ、ダリの泉の村を目指した。


 大草原の空白地帯は、おれたちが来ることなど、気にもしていないだろうけれど。

 そこに、どんな猛獣がいるのか、分からないけれど。

 どんな苦労をおれとノイハで分かち合えるか、分からないけれど。


 とにかく、新たな冒険が始まる。


 並んで走りながら、おれとノイハは顔を見合わせ、笑った。

 その笑い顔から、ノイハがわくわくしていると感じた。


 男臭い、男旅が。


 いったいどうなってしまうのか。


 おれたちは声に出して笑いながら、走り続けた。






 休憩を二回はさんで、夕刻。


 大草原を抜けて、虹池の村に到着。


 『高速長駆』ではなく、ただの『長駆』で移動すれば、時間的にはこんなものだろう。『長駆』による生命力、精神力、忍耐力の消耗は、『高速長駆』ほど大きくはない。

 それでも、おれよりもステータスの数値が低いノイハにとっては、かなり苦しい。今夜は虹池の村で一泊する予定だ。


 おれは、イチたちの歓迎を受けつつ、イチたちにノイハを紹介する。馬の群れは、一度屈服した相手であるおれに対して、とても友好的なので、ノイハもあたたかく受け入れてくれる。


 馬の群れと共に過ごす夜は、座り込んだ馬にもたれて寝る。


 馬のぬくもりが心地よくて、焼き芋を半分と干し肉をひとかけらかじったノイハは、すぐに寝てしまった。

 いろいろトーク作戦は、いまだ発動せず。まあ、生命力などが四分の一以下になっていたのだから、かなり疲れていたのだろうと思う。


 この前のレベルアップで生命力などが四ケタに達したおれとはちがい、ノイハの生命力の上限はまだ120だ。一日での消耗が限界に近くなるのも仕方がないだろう。


 おれは、セントラエムといくつかの打ち合わせをしてから、眠った。


 おれに付いてきているセントラエムが十分の一の力をもつ、本体、とのこと。

 どう考えても、その比率で本体だと言い張るのは無理があるけれど、守護神の本体が守るべき存在であるおれと離れている、というのは変だしね。


 まあ、そういうのにも、慣れてきたかな。





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