第46話 女神が本人に告げずに勝手に許可を出す場合(2)



 レベル4は、今後の研究の比較事例が集まっている。


 まずはセイハ。『学習』スキルをついに身に付けた。

 これで『学習』スキルを基礎として、発展・応用スキルが身に付く可能性がある。ただし、成人となる15歳を迎えるので、レベルアップ成長期に関する研究材料としても、セントラエムは注目しているらしい。


 そして、シエラが期待の有望株だ。アイラの妹だが、『学習』スキル、『運動』スキル、『信仰』スキルを3つそろえたので、この先、姉を追い越すのではないかとセントラエムは期待している。

 あと、セントラエムとの話では、おれに懐いている度合いも、気になっているという。確かに、ジル、それにクマラのレベルアップは、そういう部分を感じる。


 シエラとの比較対象とされているのが同い年のヨルだ。『運動』スキルはあるけれど、『学習』スキルと『信仰』スキルはまだない。

 これまでの伸び方も、ゆるやかで、年下のジルに一気に抜かれたし、シエラにもあっさり並ばれた。

 おれの考察では、ヨルは悩みを解消しないと、先に進めないのではないかとセントラエムには伝えている。ヨルの悩みとは、大牙虎問題だ。


 ムッドも比較対象だが、年齢はシエラとヨルよりひとつ下だ。『運動』スキルが身に付き、あとの二つも『運動』スキル系統だと考えられる。

 ただし、クマラと同じように、うちの村ではムッドだけが持つ『好奇心』スキルがある。これがどう作用するのかは予測ができないので、目を離さないようにしたい。

 あと、ムッドは、他の誰よりも父親のレベルが高かったという事実から、遺伝とレベルアップとの関係も考察していく必要があるとセントラエムは語っていた。

 ただし、その証拠となるものを見つけることはかなり困難だろうということも、合わせて語っていたのだけれど。


 スーラもジッドの娘なので、遺伝という視点での考察が加えられる。

 現在、レベル3。兄のムッドよりレベルは低いけれど、『学習』スキルと『運動』スキルの二つがあるという点が期待されている。

 この冬の間に兄を追い抜いていくのかどうか、楽しみである。


 レベル3にはスーラ以外にも、サーラ、リイム、エイムがいる。

 この三人は、全員15歳となって成人を迎える。また、三点セットのスキルをひとつも獲得していないなど、共通点が多く、この先のこの三人のスキル獲得の変遷は、能力値などとも絡めて考察ができる。貴重な存在である。


 あとはバイズがレベル2で、ひとつレベルを上げているが、ラーナはまだレベル1のままというところくらいが、セントラエムの考察の範囲である。


 ウルを始めとする7歳に達していない者は、スキルもレベルもない状態だ。

 ただし、ウルが7歳になるとき、ジルのようなことが起きるのかどうか、セントラエムは「・・・一番の期待はウルです」と言っていた。


 恐るべきことに、セントラエムは、「・・・全員が、一度、スグルの夜伽を務めておくべきだと思います」とはっきりおれに言った。

 それは、レベルアップするから、という理由だ。

 なんだか、おれがレベルアップを加速させる道具のように思われているのではないか、と疑いたくなる発言だ。しかも、「・・・男性も含めて、です」と言いやがった。勘弁してほしい。


 しかし、セントラエムは「・・・考えてみてください。レベル3の後宮女官が集まっていても、しょせんはレベル3の戦力でしかありません。しかし、これまでのアイラも、ライムも、スグルと肌を重ねたあとは、レベルが3つ以上、上がっています。後宮女官を夜伽させていくだけで、平均レベル3だった戦力が、平均レベル6になるのです。

 大草原の氏族たちを上回る戦力が数日間の夜の努力で手に入るのです。行わない理由など、ありませんよ」という感覚だ。


 この先、どういうことを仕掛けられるのか、油断ができない。


 まあ、言っていることは、分かる。


 一晩で、3レベル上昇させることができれば、1か月でとんでもない軍団を動かすことができるだろう。女ばかりのアマゾネス軍団になるけれど。






 ジッドとトトザが、アイラとクマラに根回しをした上で、ケーナを妻に迎えるように、おれに対して正式に申し入れた。


「花咲池の村の者として、また、父として、ケーナを妻に迎えてほしい、オーバ」

「勢力均衡だ、オーバ。アイラも、クマラも、ダリの泉の村の出身。選んだ妻が偏り過ぎている」


 これだ。

 こうなるだろうと予感はしていた。


 しかも、アイラとクマラの了解は得ている。


 それどころか・・・。


「女神さまは、ケーナとの結婚をお認めになっていたわよね?」

「うん・・・ケーナは、頑張ってるから。それに、女神さまも、お認めになってるし」


 ジッドとトトザに根回しされたアイラとクマラは、なんと、セントラエムに問いかけて、おれとケーナの結婚について許可をもらったという。


 そんな馬鹿な。


 ・・・はい。アイラからも、クマラからも相談されて、どちらにも、ケーナとの結婚を認めると告げました。何か、問題でもありますか?


 外堀を完全に埋められている!?

 問題があるとすれば、そういうところだろ?


 いや、おれとしては、ケーナが嫌だって、ことではない。


 年齢は14歳になって、成人まであと一年。どうあがいても、そこまでは断る。断るというか、断れずに婚約者扱いにされてしまうだろうとおもうけれど。


 そもそも、ケーナの気持ちはどうなってんだ?

 一番大事なところだろう?


「オーバとの結婚を嫌がるはず、ないわよね?」

「そう。相手がオーバで、嫌だなんて、言わないと思う」


 いやいや。

 アイラさん? クマラさん?


 それって、推定とか、予想とか、もっと言えば、ただのカンとか、決めつけ、思い込みだよ?


「娘の気持ちは何の心配も要りません」


 マーナまで?

 どうしてそうなる?


 ケーナは、クマラとよく一緒にいるから、自然と顔を合わせて話す機会は増えるが、それでも、クマラの十分の一くらいしか、これまでに話してきていないと思うぞ?


 悪気はないけれど、どうしても、古くからのメンバーとの会話が多い。


 そういうもんだろう?

 それなのになんで、何の心配も要らないんだ?


 くそう。


 大人組のジッド、トトザ、マーナ、それに女神のセントラエム、おれの后であるアイラと、婚約者であるクマラまで。外堀という外堀は埋められている。


 大阪城か?

 徳川家康のあの仕打ちと同じようなものなのか?

 外堀カムバック~!


 誰か、誰かいないか?

 ストッパーになってくれそうな存在は?


 セイハは、クマラの決定には反対しないからダメだ。


 そう、ノイハ!

 ノイハなら!


「おう、オーバ! 後宮の拡張、順調だかんな!」


 こいつ、婚約とか、結婚とかの、さらにその先を行ってやがる?!

 なぜ、今、後宮の拡張工事をしている?


 どうしてノイハの行動が、ジッドとか、トトザよりも先に行く?

 どうすればそういう行動ができる?


「な、なんで・・・」

「あそこの、この前、新しく見つけた竹林、すごいぜ! 切っても切っても、竹がなくなんないって、本当に助かんのな!」


 そこに材料があるから!?

 それが理由か!?


 いや、あの竹林だって、切り倒しすぎたら、いつかはなくなるんだから、気をつけろよ。


 ノイハもダメか。


 しょうがない、クマラがらみでいまいち期待できないが、セイハだ、セイハ。

 セイハはどこだ?


「オーバ・・・」


 見つけた!

 見つけたセイハは、おなかの大きいサーラを支えていた。


「セイハ! サーラも一緒か」

「オーバ。サーラとの結婚を認めてもらえないだろうか?」

「え・・・」


 そっち? 自分のこと?


 あ、そりゃそうか。

 おれとケーナとのことは、セイハにはあんまり関係ないことだしな。


 ・・・って、サーラと結婚!?





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