突入! 猛獣地帯へ ~大草原探索編~

第46話 女神が本人に告げずに勝手に許可を出す場合(1)



 大草原から戻って、しばらくはアコンの村で日々のくらしを積み重ねていった。


 そして、おれがこの世界に転生してきて、百九十日が経った。


 アコンの村は平穏無事なのだが・・・。


 アリとキリギリスの話だと、アリが働くのは、夏。


 いや、もちろん、夏も働く。

 働くけれど。


 冬に、働いておかないと、春から何もできはしない。


 そういう訳で、森小猪と土兎による開墾作業が一段落したところで、われわれ人間たちによる、水田化作業を進めなければならない。


 もちろん、朝の祈りと、体操や拳法、ランニングと水やりは、いつも通りにやった上で、である。


 ただし、ネアコンイモの収穫の間隔は、夏場よりも長いので、冬場に新たな作業が加えられる余地は十分にあるとも言える。

 まあ、陽が暮れたら、ゆっくり休めるんだから、スーパーブラック公務員の中学校教師と比べたら、こんなにホワイトな世界はない。


 話がそれた。


 要するに、今のうちに水田を仕上げておかないと、温かくなってからじゃ、間に合わないということです。


 それで、まずは、小川を超えて、東部でジルたちが見つけた竹林へ。

 ここの竹は大量にあるので、大量に切り倒して、持ち帰る。


 竹は、いろいろな使い道があるので、必要な分だけ、必要な形に製材して、利用していく。今は、あぜをつくるための竹板が一番多い。水田の中に、土が崩れてこないようにするためだ。


 何年か経てば、竹板などなくとも、踏み固められていくことであぜが崩れることはなくなるだろうけれど、最初は、そうもいかない。


 水田の形を保つためにも、竹板が必要だ。

 それをひとつひとつ、丁寧に打ち込んでいく。


 あと、ひとつひとつの区画に、きちんと水が入るように、深さを調整しなければならない。これも実は大変な作業なのだが、まあ、水を入れてみてから、水が届かないところを削ればいい。


 あと、滝からの竹水道を西側にも、設置していく。水田自体がまだなので、水が流れるかどうかの実験もまだできない。


 しかし、備えあれば憂いなし。

 準備は進めておくに限る。


 来年は、米が食べられるようにしたい。


 稲の栽培実験は、寒くなった今も、クマラに続けてもらっている。


 現実的には、三期作は厳しいとしても、二期作は余裕でいけるはずだ。その証拠、という訳ではないが、寒くなってからの土器を利用した稲の栽培実験でも、成長は遅いが稲は確かに育っているのだ。


 来年は、白ごはんで焼肉。

 おれの中での合言葉。

 白ごはんで焼肉。


 今から、楽しみにすることが、冬場の仕事の大きなモチベーションになっている。






 言語学習は、うまくいっている。


 南方諸部族語は、元の大森林のメンバーが教える。

 草原遊牧民族語は、大草原から来たナルカン氏族出身のメンバーが教える。


 教え合う、という形がいいようだ。楽しそうに、言葉のちがいを楽しんで、遊んでいる。

 小学校での外国語の授業みたいなところに、どっかの留学生が来ました、というような状態。


 少しずつ、互いの言葉に馴染んでいる。元々、言語の特性がそこまで大きくちがわないのだから、バイリンガルが誕生するだろうと考えている。


 南方諸部族語の学習の時間に、ジルとウルはおれから日本語を習う。


 そして、日本語の学習日は、おれから習った日本語を、おれから習ったように、ジルとウルがみんなに教えている。十日に二回、南方諸部族語の時間はあるので、二回おれから習い、それを一回、みんなに教える。


 ジルとウルは、実に楽しそうに教える。

 実際、楽しいのだろう。

 誰かの役に立つことをいつも喜びにしている。

 このまま、まっすぐ育ってほしい。


 いや、必ず、そう、育ててみせる。


 今のところ、公用語は「南方諸部族語」ということになるのかもしれない。


 その状況で、リイムやエイムたちも、それほど困っていないようだ。


 ここは大森林。

 メインは大森林の出身者。


 もちろん、仲間の融和は図る。だから、言語の学習の時間が有効なのだ。






 剣術はジッドとおれ。

 弓術はノイハとおれ。

 棒術はジルとおれ、が教えている。


 アイラはアドバイス止まり。


 妊婦に激しい運動はダメですから、絶対。


 拳法は、ジル師範代はもちろん、クマラも既に師範代クラスだ。

 武術関係では、才能の出方は、分かれるらしい。


 リイムは剣術、エイムは棒術が得意で、ケーナは弓術が得意だ。


 女の子ばっかり見てるって?

 そりゃ、そうだよ。おれは男なんだから。


 お腹の大きなアイラとサーラは、修行の間は糸繰りに勤しんでいる。クマラ直伝なので、二人ともいつの間にか、見事な腕前になって、糸を量産していた。






 レベルとスキルについての考察は、全員に改めて話してある。

 新しい発見や、疑問も含めて、考えていることを伝えている。

 初めて聞いたナルカン氏族出身のメンバーは、分かったような、分からなかったような顔をしていたが、ただ一人、エイムだけは、真剣に何かを考え続けていた。


 年長者の大人組は、やはりレベルが上がらない。いつかは上がる、と信じるしかないが、ジッド、トトザ、マーナのレベルは変化なし。

 一通りの生活ルーティーンには参加しているにもかかわらず、である。

 スキル獲得の成長期という期間が、いつなのかはともかく、存在しているのは、間違いない。


 おれを除いて、最高レベルはジルのレベル23だ。これは、まあ、別格。


 次はクマラで、レベル12。

 レベルアップ加速の3点セットだと考えられる、『学習』スキル、『運動』スキル、『信仰』スキルをクマラは全て身に付けている。あと、特徴としては、他の誰も持っていない『論理思考』というスキルがある。

 このあたりがレベルアップにからんでいるのだとすれば、検証は困難になる。


 続いて、ノイハとアイラがレベル11で、二人とも『運動』スキルと『信仰』スキルがある。

 ノイハはまだ『神聖魔法』系統のスキルがないけれど、いずれ、そこも身に付く可能性がある。

 クマラにレベルが抜かれたことから、やはり『学習』スキルの重要性を考えさせられる。


 成長著しいのは、ケーナのレベル5。何人も追い抜いて、レベルアップしてきた逸材だ。クマラを見習って行動しているところも、ポイントかもしれない。

 貪欲に、祈り、鍛錬、農産、学習と、全てに打ち込んでいることが分かる。

 立合いで、クマラと一緒におれのところに挑みに来るという点からも、そういう部分が伝わる。

 本人の強くなりたいという意志の固さもあるのだが、やはり、『学習』スキル、『運動』スキル、『信仰』スキルの三点セットを持つので、今後のさらなる伸びに注目したい。

 ただし、『信仰』スキルの保有が分かった時点で、大人組から、おれとの結婚へと結びつけられてしまいそうなところは、どうしたものかと考えている。





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