第45話 女神が危険を前にしても意外とのんびりしていた場合(2)
夜は、ジルとウルが甘えてくる。
いろいろと、二人の話を聞いて、相槌を打つ。
その中に、気になる話がひとつ、あった。
タイガと毒蛇の話だ。
「タイガが蛇に噛まれた」
「どこで?」
「河原の、向こう側」
「それで?」
「ジルが、毒消し、した」
「ジルが?」
「そう。女神さまに、教えてもらいながら」
「女神に?」
ジルのステータスを『対人評価』で確認する。確かに、レベル23になっている。『神聖魔法』の解毒に関するスキルを得たのだろう。タイガには、『毒耐性』スキルがあった。
「・・・前も、ノイハでそういう話を聞いたな」
「同じ蛇」
「そうか。明日、行ってみよう」
そういう訳で、クマラと二人、毒蛇探しに出掛けた。
クマラを伴ったのは、『神聖魔法:回復』のスキルがあるから。
ウワサの蛇はすぐに見つけた。
四、五匹は、いる。
「クマラ、いつでも『神聖魔法:回復』が使える準備を頼む」
「はい」
小さな声だが、クマラの「はい」という返事には、確実にやり遂げてくれる、という信頼がある。
おれは、蛇を一匹、頭を掴んで捕まえ、すぐに他の蛇から離れた。
そして、そのまま、左腕に、噛ませる。
「オーバっ?!」
ぽいっと蛇は元いた辺りに放り出す。
スクリーンで、生命力の数値を確認。1ポイントずつ、減少している。状態異常表示は、「毒」になっていた。
合計、生命力が20ポイント減少した時点で、減少するタイミングが遅くなる。
それと同時に。
『「毒耐性」スキルを獲得した』
はい。
レベルアップをひとつ、頂きました。
これ、ある意味で、効率良く、レベル上げができるな。
状態異常を我慢すれば、耐性スキルが付くってことだろう?
いや、おれの生命力の数値だから、できることなのかもしれない。
このまましばらく、スキルレベルも上げようと、我慢を続ける。
左腕が紫色になっていく。
「オーバ、大丈夫なの?」
「ああ、まだ大丈夫だ」
生命力の減少が、5ポイントずつに変化した。
あ、毒の影響が強まったのか。
合計で、80ポイント、減少したとき、今度は、生命力の減少が2ポイントずつに。
おそらく、スキルレベルが上がったのだろう。
「セントラエム、解毒の神術のイメージを教えてくれ。クマラ、回復を三十秒ごとに、1回、かけてほしい」
「はい」
クマラが『神聖魔法』のスキルを使って、おれの生命力を回復させる。
・・・そうですね。体の中に満ちてきている汚れを取り除くイメージで、祈りを捧げてください。
汚れを取り除く、イメージ。
おれは右手に意識を集中し、女神への祈りを捧げる。
そして、汚れを取り除くイメージ・・・イメージ。
右手に光が溢れ出す。
光は大きく輝き、それを左手へ。
光がおれの全身を包む。
『「神聖魔法:浄水」スキルを獲得した』
あれ?
なんか違うぞ?
生命力の減少は止まっていない。状態異常も「毒」表示のままだ。
「クマラ、すまないが急いで回復を頼む! セントラエム!」
・・・何か、違いましたね?
「解毒じゃなくて、浄水ってのになった。イメージがちがうぞ!」
・・・スグルが慌てているのは珍しいですね。
「そういうことじゃない! 解毒のイメージを!」
クマラの神聖魔法が完成し、おれの生命力が10ポイント回復する。
「クマラ、連続で頼む!」
・・・解毒のイメージは、さっきのでいいと思うのですが、まあ、別の言い方をするのであれば、体の中で、スグルを傷つけている異物を消していくイメージですか、ね。
さっきと言ってることがちがうじゃねーか!
体の中で、おれを傷つけている異物を消していくイメージ。
右手に意識を集中して、女神への祈りを捧げる。
合計で150ポイント、生命力は減少している。
ここまで減少したのは、一昨日の五時間半の『高速長駆』での減少の次に多いぞ。
クマラの神聖魔法で10ポイント、また回復する。
異物を消していく、イメージ・・・イメージ。
右手に光が溢れ出す。
光は大きく輝き、それを左手へ。
光がおれの全身を包む。
『「神聖魔法:解毒」スキルを獲得した』
ふぅ。
ステータスをチェック。
状態異常の表示は消えている。
毒は、消えたらしい。
・・・毒が消えましたね。良かったです。
いや、それだけ?
もうちょっと、心配とか、してくれてもよくないか?
いざとなったら、セントラエムが神術で助けてくれるのだということは、分かる。
まあ、レベルが一気に3つも上がったのは、かなりお得ではあるのだけれど。
さすがに、あせってしまった。
「オーバ、もう、大丈夫なの?」
「ああ、解毒のスキルは身についたし、毒耐性と、それに、偶然だけれど、浄水ってスキルが身についたよ」
「・・・それは、レベルが三つ、同時に上がったってこと?」
「そうなるな」
「・・・すごいこと、なのよね?」
「うーん・・・」
三つ、一気にレベルアップしたことって、あったかな?
おれじゃなくて、アイラや、ライムがそうだった気がする。
しかし、こうなると、経験値が貯まってレベルが上がるときにスキルが身につく理論には、矛盾があるような気もする。
実体としては、この説が正しいと思っているのだけれど。
「わたしも、やってみても、いいかな?」
「クマラ?」
「ここには、オーバもいてくれてるし、女神さまも、守ってくださるはずだし」
おれは、『対人評価』でクマラの状態を確認する。
クマラのレベルは9。生命力は最大値が90で、今は86。
おれはさっき最大で150ポイント近く、生命力を失った。生命力の最大値が90のクマラが挑戦して、大丈夫だろうか?
そもそも、ジルとの話は、ここの蛇が危ないからなんとかしなければ、という方向の話だったはずなのだが・・・。
どうも、レベルアップのチャンス、みたいなとらえになっている気がする。
いや、そう考えていたのはおれだけれど。
確かに、そうするつもりでここに来たのは間違いないことだけれど。
クマラに、やらせて、いいのか?
「・・・蛇はオーバに捕まえてもらわないと、無理」
「いいのか、クマラ。危険だぞ?」
「レベルが上がる可能性があるなら、頑張りたいの」
声は小さいけれど、決意は固い、クマラの意志。
こうなったら、全力で守るしかない。
「分かった。じゃあ、どこまで、どれだけ頑張るか、相談しよう」
おれは、クマラの手を握る。「絶対に、無理はしないこと。クマラの命が最優先だからな」
「・・・うん。ありがとう、オーバ」
クマラが頬を赤く染める。
おっと。
スキンシップには、気を付けよう。
婚約者とはいえ、節度をもって。
最近、いろいろと乱れた生活面があったから、クマラとのプラトニックが少し崩れそうで、意識を高めておかないといけない。
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