第41話 女神の助言で心配事を確認した場合(3)



 アコンの村までは、『高速長駆』で、ジルとウルを抱いて走った。


 タイガは素直についてくる。

 さすがは「巫女の神獣」だ。

 ジルとウルに従順な獣。


 タイガには『高速長駆』のスキルはないが、おれと同じスピードについてくる。種族固有能力というものがあるらしいとセントラエムが言っていた。それがスキル外スキルなのだろう。そうすると、レベルが上がらないから、損をしているような気もする。


 みんなは河原に集まっていた。


 戻ったおれたちは、久しぶりに三人で滝シャワーを浴びた。以前は当たり前にしていたことも、村人が増えて、ちがう形になっていったんだな、と実感した。


 滝シャワーの時間は、昼過ぎになっていた。一番暑い時間に気持ち良く、ということだ。


 シャワーから戻ったおれをアイラが出迎えてくれた。


「予定通り、だったのよね?」

「そうだな、ジルは、また、レベルを上げたよ」

「・・・子どもの方が、レベルが上がりやすいというのは、きっと正しいわ」


 アイラは、そう言ってうなずいた。


 そう思いたい、という雰囲気だった。






 毎日の生活は、雨が降らない限りは、特に変わりがない。


 だから、特別なことだけを思い浮かべてみると、最近は稲刈りをしたことか。


 ナルカン氏族のところで手に入れた銅剣がとても役立った。

 考えてみると、剣らしい使い方はしたことがない気もする。


 ・・・エイムの残念そうな表情が、印象に残っている。


 刈り取った稲は干している。


 いずれは脱穀して、わらは田畑か、畜産関係で利用する。脱穀した米は、今回は、ほとんどが種もみになる予定だ。


 実験水田は四回に分けて田植えをしたが、アコンの根元の土の影響は、あまりないようだった。稲作にはアコンの力はそれほど影響がないらしい。まあ、苗を育てる段階で、アコンの根元の土の力を借りているから、成長させるときには関係ないのかもしれない。


 実験水田は二メートル×二メートルを四つ合わせたものだったが、次回に向けて、水田は八倍にする予定を立てた。


 今、実験水田があるところを拡張して四倍にする。そして、滝をはさんだ反対側にも、竹水道を通して、同じだけの水田をつくる。滝の両側に、八メートル×八メートルの水田が、それぞれ開墾される予定だ。


 そこに全て田植えをするつもりだから、今回の稲刈りでの収穫は、ほとんどが種もみにするということになったのだ。


 食べたい。

 正直なところ、米が食べたい。


 でも、今回は我慢の一手だ。


 だから、こっそり、ちょっとだけ、おにぎりにして食べた。

 白米にまで精米しての塩むすびは最高だった。


 アイラには気づかれたのだが、一口だけ食べさせて、秘密にさせた。

 びっくりしたアイラの表情から、米のうまさが伝わったと確信している。


 開墾作業は、人力を後回しにした。

 頭脳プレーが優先だ。


 まずは、囲いを用意して、森小猪を放つ。

 そうすると、どんどん土を掘り返してくれる。


 しっかり掘り返してもらえたら、人力で石を排除しながら隣の囲いに森小猪は移して、土兎を放つ。

 土兎は掘り返された土に埋もれた雑草まで、一生懸命、食べてくれる。しかも、囲いの中にまんべんなく糞尿を撒き散らす。


 奈良時代に森小猪と土兎がいたら、普通に暮らしていた人たちはたくさん私有地を手に入れられたのかもしれない。

 そんなのなしさ、743年、墾田永年私財法。


 水田予定地は、動物の力を借りて、開発を進めた。


 どうしても抜かなければならない樹木は、計画的に倒していった。

 材木としての利用はまだまだ難しいので、薪や木炭にしていくことになる。

 一度にたくさん倒しても、無駄になりかねない。


 滝の周辺は、開けた農地になっていくのだった。






 あとは、トマトだ。


 ある日の夕食でトマトを出したのだが、やはりナルカン氏族のみなさんも、トマトに対する反応が薄かった。かぼちゃとかのときは、かなり喜んでいたのだが・・・。


 しかし。

 たった一人だけ。

 エイムがトマトを絶賛していた。


 ついに、おれは味方を一人、見つけたのだ。

 おれたちはトマト同盟を結ぶことにした。


 唯一の同志、エイムよ。


 世界にトマトを広めよう。






 ある日、おれは一人で花咲池へと走った。


 大牙虎のようすを確認するためだ。


 途中、親離れした森小猪を四匹、花咲池につながっていると考えられる小川の西側の森に放した。以前も、何匹か、何回か、こっちへと逃がしている。


 手を離してすぐは、森小猪の子どもたちは、逃げ出したりしない。


 ある程度、人間になれてしまっているからだ。

 あまりにも、動き出さないときは、蹴るふりなどをして、追い払う。


 そうすると一斉に逃げ出すのだが、その瞬間は、ちょっとさみしい。


 互いに頑張って生き抜いてほしい。

 多産動物なのだから、いつかは自然繁殖で、増えていくだろうと思う。


 すでに合計で、二十匹以上、この方面には解き放っている。

 全ては、大牙虎のエサとするためだ。


 人間以外の食べ物がないと、また人間と争うことになる。

 ま、残酷だが、そういうことだ。


 おれが花咲池に近づくと、カタメがおれに気づいて、歩み寄ってきた。

 子虎たちもついてきている。


 カタメは、おれの前に伏せて、腹をさらす。

 おれは、カタメの腹をなでる。


 上下関係を確認する儀式みたいなもんだろうか。


 成虎のメスたちはお腹がふくらんでいる。


 たった一匹だけのオスは、ふん、という感じでおれの近くに来て、仕方がないからだぞ、という表情で、カタメと同じように腹をさらす。

 こっちとしても、仕方なく、その腹をなでてやる。


 それから、子虎たちを抱き上げてオスかメスかを確認したり、高い高いをしたりして、少し遊んで、花咲池を離れた。


 大牙虎には、大きな動きはない、ということを確認できた。





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