第41話 女神の助言で心配事を確認した場合(2)
七歳になるまで、スキルはない。
・・・いや、七歳になるまで、スキルは「現れない」ということなのだろうか。
潜在的にスキルは幼児の中にあって、七歳になったとき、レベルとして現れるのではないか。
また、セントラエムと議論してみよう。
ジルの馬には、タイガが並走している。速さなら負けない、とでもいうように、タイガは疾駆していた。まあ、やきもちをやいているようにしか見えないけれど・・・。
「荒くれ」がおれもおれも、というように、ぶるるっ、とうなる。
おれは、「荒くれ」の首をなでて、もう少し我慢してくれ、と伝えた。
ジルが戻ってきて、くるりと向きを変えて、おれの真横に並ぶ。
「タイガより、高い。ちょっと怖いけど、見晴らしが、とても、いい」
「楽しいか」
「楽しい。風が気持ちいい。タイガに乗るときとも、オーバが抱いて走ってくれるのとも、ちがう。見えるところが、広い」
まあ、森を出ているから、というのもあるのだろう。
圧倒的に視野は広がっている。
「でも、オーバが抱いて走ってくれるのが、一番、好き」
「はは、タイガが悲しむぞ」
「大丈夫、タイガ、強いから」
ちらりと下を見ると、タイガがうなずいているように見えた。
こうしてみると、大牙虎と戦っていた頃が嘘のような気がしてくる。
ま、馬の群れとも、戦ったよな、確か。
ナルカン氏族の成人男性も制圧したか、そういえば。
戦って、分かり合うのかも、しれない。
・・・ちがうな。
戦って、力の差を示さなければ、話し合うことさえ、できない。
いや、話し合いでさえ、ない。戦って、勝った者が正義。負けたら、勝った者の言葉に従うだけ。逆らえばまた打ちのめされる。弱肉強食。
そんなことを考えていたら、ウルが二周目を終えて、戻ってきていた。
「それじゃあ、一緒に走ろうか」
そういって、おれは「荒くれ」の首をぽんと叩いた。
「荒くれ」が動き出す。
ジルの馬がすぐに続く。
ウルの馬も馬首を返して、続く。
三頭並んで、遠乗りをした。
・・・一匹、追いかけてきてます、はい。
速度は抑え気味で。
約一時間、大森林と大草原の境目を、西へ。
「オーバ、どうして、馬に乗るの?」
「・・・それはな、ジル。世界を広げるためなんだ」
馬上で、ジルと、大きな声で言葉を交わす。
「世界を、広げる?」
「おれたちは、アコンの村で暮らしているけど、世界はもっと広いだろう?」
「花咲池とか、虹池とか、オギ沼、とか?」
「今までジルが行ったことのあるところだけじゃなくて、まだジルが見たこともない、広い世界が広がってるんだ」
「広い、世界・・・」
「リイムやエイムは、まだジルが知らないところから来ただろう?」
「・・・大草原」
「そうだ。その大草原の向こうにも、まだ世界は広がってるんだ」
「大草原の向こう・・・」
そうして、思った。
おれは、いったい、どこまで行くつもりなんだろう、と。
自分で、自分が分かっていない、と気づかされたのだった。
約一時間の遠乗りで、ジルが『乗馬』スキルを獲得してレベル22になったことが確認できたので、折り返す。
帰りは、「荒くれ」に全速を指示した。
ジルとウルを乗せた二頭も、全速でついてくる。
タイガも全速で、「荒くれ」を追い越すようにして、「荒くれ」と競い合っている。
おれの方が速いぜ。
いや、おれだよ。
というような感じだろうか。
「はやいーっっ!!」
ウルが叫んだ。
おびえて、ではなく、楽しそうに、だ。
天才かもしれない。
ま、紙一重、とか、よく言われるので、どちらとも言えない。
ナルカン氏族の子たちが馬に乗ったときは、何日間か乗っていたが、スキルが身に付くことはなかった。
ジルは、約一時間でスキルを獲得した。
ちがいは何か。
やっぱり『学習』スキルの効果か、『運動』スキルの効果か、それともその両方の効果か。
実は「基礎スキル」が重要なのではないか、というスキル獲得理論が現実味をおびてくる。
セントラエムとすぐにでも話してみたいところだが・・・。
馬が全速だと、話す余裕はない。
それでも、おれの『高速長駆』の方が速いと思う。『高速長駆』は反則スキルのひとつだろう。しかし、『高速長駆』の場合は、最高速の場合でも、抱いている子と話すのにあまり苦労はない。身体が近く、密着することになるからだろう。
虹池までは、遠乗りの半分くらいの時間で、無事にたどり着いた。
おれは「荒くれ」から飛び降りて、頑張ってくれた「荒くれ」の首をなでて、ねぎらう。
なぜか、タイガがすり寄ってきたので、もう一方の手で、タイガの頭をなでてやる。
馬の「荒くれ」と大牙虎のタイガにすり寄られるというムツゴロウさん状態になってしまった。
「おまえも、「荒くれ」とかじゃなくて、タイガみたいな、名前があった方がいいな」
おれはそう思いついて、口にしていた。
「荒くれ」は何度も首を上下させている。
どうやら名前を付けてほしいらしい。
ジルとウルも、馬から降りて、おれのところまで来ていた。
さて、名付け、か。
「じゃあ、今日から、おまえの名前は「イチ」だ。群れで一番強くて、群れで一番速くて、群れのリーダーとして、「イチ」だ。どうだ?」
イチと呼ばれた「荒くれ」が、ひひひーんっ、といなないた。
どうやら喜んでいるらしい。
・・・しまった、な。
名前の真の由来は別にあるということについては、おれの心の中の秘密にしておこう。
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