第41話 女神の助言で心配事を確認した場合(1)



 翌日。

 朝の祈りから体操、水やりまでを終えて、後のことはクマラに任せた。


 翌日の午前中、おれは別行動で、ジルとウルを連れて出かけた。


 セントラエムには分身してもらって、実体化はさせずに、ついてきてもらっている。

 それと、大牙虎のタイガが走ってついてくる。


 ジルとウルはおれが抱えて、『高速長駆』スキルで全力を出す。


 目的地は、虹池。

 馬の群れのところだ。


 荒くれたちは、元気だろうか。


 ジルとウルはきゃあきゃあ言いながら、『高速長駆』の速さを楽しんでいる。

 いい度胸をしていると思う。


 まあ、おれに対する絶大な信頼、という風に受け取ってもいいかもしれない。


「オーバ、馬って、どんな生き物?」

「うーん、四つ足で、首は長め、大牙虎より大きくて・・・」

「タイガより、大きいの?」

「ん、そうだな。タイガより、大きいな」

「それに、乗るの?」

「そうだ」

「タイガで、いいのに」


 がうがぅ、とタイガもジルに同意したようなうなりを上げた。

 走りながら器用な真似ができるもんだ。


 タイガはすっかりジルのペットと化していた。

 野生はもう残っていないのだろうか。


 タイガがジルを乗せて走ると、おれの全力について来るのは難しいため、今は、おれがジルとウルを抱いて走っている。


 確かに、純粋なスピードなら、馬よりも大牙虎の方が速いのかもしれない。それに、森の中のような悪路も平気だ。


 だが、その大牙虎に乗るというのは、過酷な修行のようなものだろう。

 あんな激しい動きの背中に抱きついておくなんて、尋常ではない。


 いずれ、ジルも成長して、大牙虎のタイガでは乗せられない身長になる。大牙虎の背にまたいだら、足が地面につくのだから。たとえタイガがレベルアップして、かつての群れの主のサイズになったとしても、ぎりぎりの大きさかな、と思う。


 馬に乗る練習をして、『乗馬』スキルを身につけさせて、レベルをひとつ上げておく。これは、ジルの生存確率を高めるために必要なこと。


 ウルは、早期教育の効果を確かめるためだ。ウルが七歳になったとき、ジルのように一気にレベルアップするとすれば、ここでの経験が『乗馬』スキルを与えてくれるのではないか、と考えている。


 まあ、セントラエムとの相談の結果の行動だけれど。


 おれはそのままスピードを落とさず、虹池を目指した。






 結論から言おう。


 ジルは『乗馬』スキルではなく、『並列魔法』スキルを身に付けてレベルを21に上げた。


 どういうことかと言えば・・・。


 虹池の村についたとき、「荒くれ」はおれの到着を喜んで駆け寄って来たのだが、そのとき、大牙虎のタイガの接近にも気づいた。


 タイガが、おれたちの仲間だなんて、考えもしなかったのだろう。


 いつもの仁王立ちになって、タイガを威嚇する。


 そうしたことで、ジルとウルの教育上よろしくない、「荒くれ」の巨大なイチモツがさらされた。


 だから、問答無用で、おれは「荒くれ」のイチモツを思い切り蹴り上げたのだ。

 いつものように「荒くれ」は昏倒した。


 倒れる「荒くれ」を見て、他の馬たちも何事かと寄ってきた。


 おれはタイガに、馬を襲わないよう告げて、他の馬たちを落ち着かせていく。


 そのまま、何頭もの馬をなでて落ち着かせながら、ジルに、「荒くれ」を治療するよう、指示を出した。そのとき、右手で『神聖魔法:治癒』スキルを、左手で『神聖魔法:回復』スキルを、平行して使うようにアドバイスをしたのだ。


 ジルは何度か失敗したものの、最終的に、二つの神聖魔法を同時に行使し、「荒くれ」を癒すとともに、新たなスキルを身に付けたのだった。


 まあ、これもそもそも計画の内にはあったことだから、いいか。

 レベルが上がって、悪い訳がない。


 ただ、ジルがただの少女ではいられない、というのは間違いないことだけれど。


 おれが責任をもってジルを育てる。

 それだけだ。


 ジルの神聖魔法で復活した「荒くれ」に語りかけて、タイガとけんかしないように言い聞かせる。


 不思議と、話が通じたようで、「荒くれ」とタイガは、互いに鼻を合わせるような動きをして、あいさつを交わしていた。あれは、あいさつだと、思いたい。


 レベルが上がったから、もう馬に乗らなくていい、ということでもない。


 おれは「荒くれ」たちに協力を頼んで、おれと、ジルと、ウルを、それぞれ乗せてもらった。


 一人に一頭、馬が寄り添った。


 おれを乗せたのは「荒くれ」だ。このポジションは絶対に譲れない、とでも「荒くれ」は考えているらしい。


 ジルとウルも、それぞれ牡馬が乗せてくれた。


「よし。それじゃ、まず、輪にしておいたロープを馬の背中に」

「ん・・・」


 ウルが器用に輪にしたロープをあぶみにしていく。ウルは感覚的に、よりよい方法を掴んでいくセンスがある。その代わり、ちょっと考えれば分かるようなことに気づかなかったりもする。


 ジルはちょっと手間取っていたが、ロープの長さを調節して、力が入りやすいように足を置いた。


「そうそう。二人とも、それでいい。しっかり座れるようになったみたいだな」

「これ、力を入れやすい。ふんばれる」


 ウルはあぶみが気に入ったらしい。


「次は、たてがみをそっと掴んで、ああ、力は抜いて。強くしてはダメだよ」

「ん、つかんだ」


 ジルが馬上でバランスをとる。


 二人とも、まだ身体が小さいから、ずいぶんと前に寄っている。


 じゃ、動かしてみよう、と言う前に、ウルは馬を走らせていた。

 決して暴走ではない。百メートルくらい走って、大きく円を描いて、戻ってくる。


「オーバ、あれで、いいの?」

「・・・ああ、あんな感じだけれど、できそうか、ジル?」

「馬に、頼めば」

「そうか」


 そう言うと、ジルも馬の首を軽く触れてから、馬を走らせ始めた。


 ウルが戻ってきたのと入れ替わりに、ジルが向こうで円を描き始める。


「オーバ、馬、楽しい」

「そうか。ウルは、すごいな」

「へへ。ウル、すごい?」

「ああ、大したもんだ」

「ふふ・・・」


 ウルはにこやかに笑うと、馬首を返して、もう一度走らせていった。

 あっさり、馬をコントロールしている。


 ・・・おいおい。


 なんで、できてしまうんだ?

 『運動』スキルの影響だろうか?


 いや、ウルはまだ七歳になってないから、スキル自体がないはずだ。





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