第31話 女神の巫女が少女にして戦闘狂だった場合(2)



 次の日から五日間、雨が続いた。


 クマラが続けていた準備が、アコンの村にとってどれだけ有意義なものだったのか、この五日間でよく分かった。


 やはりクマラは、アコンの村には欠かせない、重要な存在だと、心から思った。


 クマラが女性陣と一緒に作った布は、三種類。

 どれも大体一メートル×十メートルというサイズなのは同じだが、たて糸が五十本の「荒目布」、たて糸が百本の「本地布」、そして究極の一品となるたて糸が二百本の「極目布」があった。

 どれも真っ白な美しい布だけれど、やはり、「極目布」は明らかに白さ、それに手触りが違う。


 ジッドに言わせれば、「荒目布」でも、大草原の村やその向こうにある町で、驚かれるような美しい布だろうとのこと。


 交易品として、とても有効なものになりそうだ。


 ネアコンイモはおれたちの生活を変え、支え、豊かにしてくれるらしい。


 クマラは、「極目布」でアイラの服を作ると嬉しそうに話してくれた。


 アイラの服を作るときには、同じ服をクマラ自身の分も作るように、おれは命令した。






 久しぶりに晴れた日、下流へ魚を追い込みに行った。


 雨の間は、イモのスープに食事が偏ってしまうので、いつもとはちがう食材をねらっていこうとノイハが言い出したのだ。五日間の雨は、食事への不満をつのらせる。


 魚を採るのは、前回と同じように、ノイハの指示で支流へと追い込んで行く。


 水量がいつもより多かったので、成人メンバーだけが川に入った。


 やはり今回もノイハの指示は的確で、七匹の大きな岩魚を捕まえた。中途半端なサイズの岩魚はそのまま川へ放置する。いつかまた、大きくなったら頂きます。


 竹串に魚を刺したまま、支流の上流を少し探索しよう、ということになった。


 そこで見つけたのが、胡椒だった。『神界辞典』の画像検索でなければ分からなかった。食べられない野草はないか、いろいろと試していたのが良かったのだろう。


 なんとか栽培して、ウサギやイノシシを食べる時に使いたい。ここは頑張りどころだ。


 それから、とうもろこしによく似た紫色の小さいサイズのトウモロコシを見つけた。これも採集して、栽培実験に加えることは決定した。


 とうもろこしの色が、おれの経験上、紫色というのにはかなりびっくりするような感じだったが、形はまさにとうもろこしだったので、食べてみないと分からないだろうと採取した。


 『神界辞典』によると、やはりこれもとうもろこしで、毒がある訳でもない。食べられるのだから、とにかく栽培していく方向で考えておく。


 また、以前もこの辺りで見かけた覚えがあるのだが、今回も、森小猪ではない大きなイノシシの親子連れを見かけた。

 親一匹に子が二匹だった。こちらを見ても、別に逃げるでもなく、襲いかかってくるでもなく、平然としていた。

 あいつらからしてみると、人間も森の生き物のひとつでしかないのかもしれない。


 ノイハと、いつか罠を仕掛けて捕まえ、食べてみようと話していると、ちらりとこちらを見てから離れていった。

 言葉が分かるということはないので、雰囲気を感じたのかもしれない。


 『鳥瞰図』で検索してみると、黄色い点滅が軽く二、三十は近くにあった。イノシシだけでなく、何かがいるのかもしれない。


 川を下って合流点から戻るのではなく、直接いつもの河原に戻るようショートカットの道を選んだところ、背の低い群木が生えた一帯にたどり着いた。大森林の中では珍しく、よく空が見えた。


 見覚えがあるこの背の低い木の群れには、小さい緑の果実がたくさんあった。


 柚の木を見つけたときから、必ずあるだろうとは考えていたが、意外と近くで見つかった。


 みかんの木だ。軽く五、六十本は生えている。


 これから、果実の皮の色は変化し、果実自体も大きくなっていくのだろう。


 クマラが採取するのか尋ねてきたから、このまま放置と告げた。


 これは冬場をしのぐ、ビタミン豊富な最高の果物のひとつだと教えて、またそのうち様子を見に来ることになるから、と説明した。


 ビタミンって何ですか、というケーナの質問には、うまく答えられなかった。

 実は、以前クマラにも同じことを聞かれて答えられなかったのだが、そんなおれを見てクマラは微笑んでいた。


 いつもの小川とつなげるように芋づるロープを結んで道をつないだ。


 農業と牧畜でこのアコンの村を、大森林を改革していく。


 アコンの村の生産革命は続く。






 立ち合い稽古では、おれとジッド、アイラ、ジルが、みんなの挑戦を受けて相手をした。


 成人メンバーはジルには向かわないようにさせ、子どもたちがジルから学んだ。ジルは、受けながら教えるのが上手なのでびっくりした。


 なぜか、おれのところにはクマラとケーナしか来ない・・・。


 ノイハ、それにセイハ。

 おまえらぐらいは、おれんとこに来ないとダメだと思うぞ・・・。


 クマラは、何の遠慮もなく全力を出しても安心なのに、と不思議がっていた。


 何回か挑戦してきたクマラとケーナをあしらいつつアドバイスもしておいた。


 それから、おれとジルの立ち合いが始まって、子どもたち同士も立ち合いをしていく。アイラとクマラは子どもたちやジルの怪我に備えて待機。


 必要があれば、アイラやクマラからの光に子どもたちは包まれて、傷を癒したり、生命力を回復させたりしていく。

 アイラとクマラのスキルしベルは少しずつ高まっていると信じたい。


 アイラとジル、ジッドとおれの立ち合いの後、ジルとジッド、アイラとおれも立ち合う。おれはもちろんだが、ジルも二人をうまくさばいて打ちのめしていた。ジッドの落ち込みが激しい。


 アイラとジッドの立ち合いが最後だ。今日はアイラに軍配が上がった。


 二人とも、おれから神聖魔法を受けて、骨折を治療する。アイラに苦痛耐性なんてスキルが身に付くのも仕方がないのかもしれない。


 死なない限り、ぎりぎりまでの修行ができるということのすごさと怖ろしさ。


 意識的なスキルの多用によるスキルレベル向上。


 めざせ、強者の村。





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