第31話 女神の巫女が少女にして戦闘狂だった場合(3)



 夕食はかぼちゃスープと焼き芋、そして岩魚の塩焼き。岩魚は分け合う。イモスープではなくかぼちゃスープになったのは、雨の間ずっとイモスープだったから、という単純な理由だ。


 おれはそれに加えて、塩ゆでした紫色のとうもろこしに挑戦。


 ・・・うん。普通にとうもろこしの甘みを感じる。しかし、サイズは小さいのがさみしい。


 色は関係ないのだろうか?


 それに、だ。とうもろこしを食べるのなら、しょうゆがほしくなってくる。


 発酵にも挑戦した方がいいのだろうか。


 とうもろこしはたくさん採取した訳ではないので、興味がある子たちも、とうもろこしを食べることはできなかった。いずれ、栽培に成功する日を待っていてほしい。


 これはもう、勝利をめざして戦うしかない、という戦いなのだ。


 とうもろこしは、とても美味だったのだから・・・。


 なんで紫色なんだろうか?






 滝シャワーの水が、いつもよりも冷たく感じる。


 水温の変化もあるのかもしれないが、何より、気温が少し下がっていると思う。


 まだまだ暑いのは暑いのだが、どうやら真夏は過ぎ、秋へと向けて季節は進んでいくらしい。






 翌日も、あまり変わらない生活。


 変わらない日常の一日というものはすばらしい。

 この日、おれはジルといろいろな相談を重ねた。


 そしてそのまた翌日。

 あとのことは、アイラとクマラに任せて、おれとジルは『長駆』のスキルで旅立った。


 一泊二日の予定で、花咲池の村へ。

 明日の朝には、ジルが大牙虎を狩る。


 おれはジルの護衛。ジルが思う存分大牙虎と戦えるように、ジルに大きな危険がせまった場合だけ、手助けをする予定だ。本当はジルにはレベル8に集中してもらいたいのだが、とにかく、自力で大牙虎と戦うことがジルの希望だった。


 途中、ぶどうの森に寄る。


 ぶどうは残りわずか、という感じだったので、残っているものは全て収穫した。


 実は、ぶどうの栽培実験は思わしくない。

 なかなか難しい壁があるようだ。


 ダム湖にも寄り道。


 大量の水鳥に、ジルの口があんぐりと開けられた。


 川沿いを下って、梨の木の群生地へ向かう途中で、小川の西側、つまり花咲池の村側に、森小猪の子どもたちを逃がす。

 アコンの村で生まれた子たちで、もう親離れは済んでいる。

 捕まえてから、網に入れて連れてきていたので、放した後は一目散に逃げて行った。あとは自分たちの力で頑張れ。大きくなったら、また会う日もあるかもしれない。


 それからもうひと走りして、梨の木の群生地に入る。


 残念ながら、梨は全て落ちていた。

 本気で残念。


 ジルはこれが梨の木だと教えたが、実感がわかないようだ。

 ぶどうとちがって、実がなっていないのだから、それも仕方のないことなのだろう。


「梨が、ない」

「そうだな。でも、アコンの木だって、アコンの果実はもうないだろう?」

「ああ、そういえば、そう」


 梨の群生地で休憩をとって水分を補給する。


 そこからさらに走って、大森林と大草原の境目に到達。

 花咲池の村のテントが見える位置。


 ぶどうと干し肉、それに焼き芋を食べる。水も飲む。


 ジルと立ち合って、ジルを鍛える。物音で大牙虎に気付かれないように、少し森の奥へ移動していた。


 ジルの特訓が終わって、陽が沈む前に、木のぼりロープで樹上に移動し、ハンモックを設置していく。


 二人分くらいなら、これが一番安全に眠れるのではないかと思う。


 ただし寝相は要注意。


 おかしなところから、足が出たり、手が出たりして、おれを笑わせてくれた者も今までにはいたこともある。ノイハとか、ね。


 ジルは、巫女としての威厳を保って、バランス良く、美しく寝ていた。


 うちの村では、ジルとウルが一番、ハンモックに慣れている。村での生活が一番長いのだからそれも当然のことだ。


 おれはセントラエムとこれからのことを相談しながら、眠るジルを見守った。






 翌朝、早く。

 陽が昇ったらすぐに、花咲池の村に向かった。


「ぜんぶ、ころすのは、ダメ?」

「そう、ダメだ。今日は、二匹だけ。あとは、これからも、生かして、利用する」

「オーバが、そう言うなら、そうする」


 『鳥瞰図』で確認したが、八匹、全て村の中央にそろっている。


 これまでの生態を考えたとき、大牙虎は、実は、長い期間、食べなくても大丈夫な動物だと、おれとセントラエムは結論付けていた。


 それにもかかわらず、人間の村を襲った理由は、不幸な接近遭遇戦だったのではないだろうか。


 おれと争わないように移動していった新たな生活空間に、どうやら、人間という少々やっかいな生き物がいた。


 大牙虎からしてみたら、その程度の感覚だった。


 一対一だと、手強いが、群れで計画的に襲えば、やられることもない相手。


 後々、めんどうなことにならないように、やっつけておけば、生活空間が確保できる。


 だから、戦って、追い払っていった。人間の村を。


 ただし、全てを滅ぼさないようにして。

 逃げる人間を見逃しておくことで、いつかの食料にするつもりで。


 これまでの、土兎や森小猪と同じように。


 それが、おれが敵対者として現れたことで、事情が変わってしまった。


 おれが大角鹿から諭されるまで、大牙虎と人間の全面戦争として動いていく。

 本当は、おれも大牙虎を食料として残すべきだと考えていたのだけれど、おれたちの側も、戦える者が少ない分、相手の数を減らしたかった。


 そして、大牙虎も、人間も、なかなか数は増えない。

 だから、互いに減り続けた。





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