第31話 女神の巫女が少女にして戦闘狂だった場合(1)



 全員が大牙虎に対抗できるレベルをめざす、と言ったものの、これまでの基本的な日々の生活の流れが変わる訳ではない。

 これまで続けてきた、地道な努力を継続していくことが大切だ。そうすれば、後は時間が解決してくれる・・・はず。


 女神への祈りに対する真剣さは、質疑応答という、新たな形を生み出した。


 ジルやウル、ノイハやクマラ、アイラが女神から受けた言葉を確認し、質問して、女神の考えをみんなで深めていく。そんな時間になった。


 特に熱心なのはケーナで、アイラやクマラにたくさんの質問をぶつけていた。


 おかげで、クマラとの一件が明らかにされ、おれが恥ずかしさをポーカーフェイスでごまかしていたら、クマラがおれの婚約者であることは女神のお墨付きなのだと、みんなが深く納得することになったり、アイラとおれが結ばれたのは女神の導きだったと認識されたりした。


 体操と、拳法の型も真剣そのもの。


 特に、セイハの顔つきがちがう。

 クマラの意図がうまくセイハに影響を与えたようだ。


 小川との往復ランニングにも力が入る。


 ジルも身に付けた『長駆』のスキルは、これが大切なのだとみんなには説明している。

 そして、その上位スキルである『高速長駆』がなければ、大牙虎から逃げることは事実上不可能だということも説明しておいた。


 ただし、この訓練は、頑張りすぎると耐久力が消耗していくので、三往復以上は走らせない。

 その一方で、ジルやヨルなど、既に『長駆』スキルを持つ者には、今まで以上にスピードを意識するよう、指示している。


 水やりをさせながら、クマラと竹筒栽培の稲を確認する。


 竹筒栽培の稲は、五日ずつずらして栽培していて、その成長度合いから、どのタイミングで育てるのが一番よいかを研究しているものだ。


 まだまだ、実験は長い期間、続けていかなければならないけれど、こういう話し合いをクマラとするのは楽しい。

 ケーナは、クマラよりも年上だけれど、クマラに親しみを感じているようで、こういう場面でも近くにいて、一生懸命、話を聞いている。

 クマラもケーナに友情を感じているようだ。


 ケーナにクマラの近くにいる理由をあえて聞いてみたら、クマラにはこの村に来たときからずっと親切にしてもらっていること、クマラがアイラやジッドのように戦いに秀でている訳ではないけれども、同じようにレベルを上げていること、いろいろと村のことを学んで、村の役に立とうとするのなら、クマラに教わるのがいいとアイラにアドバイスされたこと、などを教えてくれた。


 この子は、伸びる、と直感した。

 ある意味では、なりふり構わず、レベルを上げようとしているとも言える。


「結局、一番実が太るタイミングを探すってことなの?」

「いや、一番のタイミングで、一年間に一度しか栽培できないとすれば、全体の収穫高が高いとは言えないからな。実が太ることだけを判断基準にはしないこと」


「収穫が、一か所で年に二回、三回とできる時期や、総合的な収穫高がどれくらいになるかを考えて計算しなきゃいけないのね」

「今のは、どういうことですか?」

「今のは・・・」


 クマラが丁寧にケーナの質問に答えていく。こういうことを面倒くさがらないクマラは、昨日のおれの話を真剣に理解している。


 こうやってクマラが真剣なケーナの質問に答えることで、ケーナがスキルを身に付けてレベルを上げれば、それは即、アコンの村自体の強化につながるのだ。


「じゃあ、オーバ。一番実が太る時期自体は、気にしなくていいの?」

「それは、ちがう。種もみを一番太る時期に育てておくのは、大切になるはずだから」

「なるほど、そうか、そういうことね」


 クマラ自身も考えを深めていく。

 こんなとき、愛おしいと思う。まあ、まだ婚約のままで、結婚するのは数年先だけれど。






 アコンの幹の穴開けと、ネアコンイモの芋づるからの糸づくりに力をそそぐ。


 作業への集中力は高く、これまでの経験を生かして、アコンの幹に穴を開ける時間はかなり短縮されてきている。


 芋づるからの糸づくりも、順調だ。

 クマラの指揮のもと、少女たちはたくさんの糸を生産している。おしゃれ新時代を夢見て、熱心な作業が続く。


 クマラは、竹の細い部分を駆使して、たて糸を五十本、百本、二百本と、一メートルくらいの幅にきれいな間隔で結んで並べた。

 当たり前のことだけけど、たて糸の本数によって、竹についている目盛りの幅がちがう。たて糸はぴんと伸ばされて、反対側も竹に結ばれている。


 そこに魚の骨を針として結んだよこ糸を上、下、上、下と縫うようにかみ合わせていく。端から端までよこ糸を通すと、ぴんと張ってできるだけ前へと詰める。そして、折り返してまた同じようによこ糸を上下させていく。


 生産した糸を布にしていくのは、大変な作業だと思う。いずれ工夫を考えよう。


 でも、同じ設備を、クマラは西階の地上、東階の地上、後宮の地上にも整備してあった。


 雨の日でも、というより、雨の日には機織りに集中するために。


 アコンの村は女性の比率が高い。


 筋力値が高ければそれほど問題にはならないが、レベルが総じて低い今は、力仕事よりも、機織りのような仕事の方が、村全体としては向いている。


 おれやジッド、アイラ、ノイハとセイハ、そしてトトザが、アコンの幹に大牙虎の牙を打ち込んで穴を開けているとき、クマラを中心に女性陣と子どもたちは、細いネアコンイモの芋づるから糸を採っては機織りに仕掛けている。


 ただ、この糸の白さと強度は、驚くような布になりそうなので、今後のアコンの村の基幹産業のひとつになりそうだという予感はある。


 大牙虎とのケリがとりあえずついたら、大草原にクマラが織った布を持って旅に出ようとおれは考えていた。





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