第30話 女神の信者が人間の範囲を超越しそうだった場合(4)



 これまでのみんなのレベルとの隔絶。

 ありえない数値。


「次に大牙虎を狩りに行くときは、ジルと一緒に行って、ジルに狩らせる。それで、この村はもう、大牙虎におびえなくてもいいと証明する。ジル、いいな」

「分かった」


 ジルは神妙にうなずいた。


「みんなに言っておく。おれたちは、この大森林にある全てのものを狩り尽くさないし、採り尽くさない。それが大森林と共に生きる、ということ。もちろん、大牙虎も狩り尽くさない。だから、大牙虎もこの大森林で生き残る。大牙虎に殺されないだけの力を、全員が身に付けなければならない」


 おれは全員を見回す。


「弱い者は、強い者のエサとなる運命にある。

 大牙虎は人間をエサとした。同時に、おれたちも大牙虎を食料としている。

 残った大牙虎がアコンの村を襲ったとしても、おれやジル、アイラやジッドが生き残る。ただし、弱い者が生き残れるとは限らない。

 おれたちはみんなを守るつもりだが、いつも、それが可能だとは言えない。

 だから、自分を守るために、力をつけてほしい。

 それが、この村の生活のしくみ。

 祈りを捧げ、体操と拳法で体幹を整え、走って体力をつける。

 日々の生活で得意なことを見つけ、自分の才能を伸ばす。

 適切な食事で、健康な体をつくる。

 文字を覚え、知識を蓄える。

 武術を身に付け、戦いに備える。

 そうやって、自分のレベルを高めてほしい」


 そこまで言って、おれはジルを見つめた。


「ジル、前に出なさい。立ち合いをするから」

「・・・はい」


 ジルが立ち上がって、前に出て、おれと向き合う。


 全員の視線が集まる。


 こういう、デモンストレーションが必要なのだと、おれは割り切っている。


 一瞬、全員が息をのむ。


 ジルが動いた、次の瞬間、ジルは動いた方向の真逆に軽く三メートルは吹っ飛ばされた。というか、おれがジルを吹っ飛ばした。


 おれは、その場から一歩も、動いてはいない。


「アイラ、クマラ。ジルに神聖魔法で治癒と回復を頼む」


 慌てて、アイラとクマラが動き出す。

 おれは、みんなを振り返った。


「おれのレベルは、54。アイラを圧倒できるジルでさえ、まともにおれには触れられない。もちろん、おれは大牙虎に囲まれても問題なく撃退できるし、その上、女神の加護も受けられる。おれの力は、みんなを育て、この村を大きく成長させるためにある。それが、王の力、らしい」


 誰も、何も言わなかった。

 何も言えなかった。


「弱い者は、いつか、その命を奪われる。だから、少しでも、自分を高めておこう」


 スパルタ宣言。

 アコンの村は、弱い者が弱いままであることを許さない村となった。






 夜は後宮にアイラとクマラが来た。


 アイラがクマラに相談して、二人でおれと話したいと考えたらしい。

 つまり、レベルやスキルについて、もっと知りたい、ということらしい。


 だから、今夜は、ナニはなし。


 時間の限り、二人の質問に答えていく。そうは言っても、おもに質問するのはクマラだ。


 もちろん、内容によっては答えないし、答えられないものもある。


「オーバは、どうやって、わたしたちのレベルやスキルを確認しているの?」

「おれには『対人評価』というスキルがあって、それを使えば、たいていの相手のレベルやスキルが分かる」


「そのスキルはどうすれば身に付くの?」

「・・・それは分からない」

「自分がもっているスキルのことでも、分からないことがあるのね」


 アイラが首をかしげた。


「あんまりかいかぶられても困るな。おれは、女神に守られて、これまでにいろいろなことを学んできただけだから」

「じゃあ、そのスキルで分かることを教えて?」

「例えば、アイラに『対人評価』を使うと・・・」






 名前:アイラ 種族:人間(セントラ教:アコンの村) 職業:覇王の后、戦士

 レベル10 生命力110/130、精神力106/130、忍耐力92/130

 筋力71、知力61、敏捷70、巧緻69、魔力59、幸運27

 一般スキル・基礎スキル(4)運動、調理、信仰、説得、応用スキル(2)殴打、蹴撃、発展スキル(2)戦闘棒術、苦痛耐性、特殊スキル(1)、固有スキル(1)






「名前、種族、職業、レベルが分かる。それから、生命力、精神力、忍耐力が数値で分かる。最大値と今の数値が、ね。あと、筋力、知力、敏捷、巧緻、魔力、幸運などの能力値が分かる。スキルの数と、基礎スキル、応用スキル、発展スキルは、スキルの名前が分かるな」

「わたしの職業?」


「アイラの職業は、覇王の后で、戦士だ」

「・・・アイラは、覇王の后」


 クマラがつぶやく。


「クマラのことも分かるのよね?」

「クマラの職業は、覇王の婚約者、だよ」

「・・・わたしは覇王の婚約者」


 クマラが頬を赤く染めながらつぶやく。


「・・・オーバは、覇王、なの?」

「そうだ」


 クマラがとても嬉しそうにしている。

 そう言われてみれば、おれの職業は覇王になっている。


 覇王になってから、生命力などの数値はとても高くなっている。レベルアップするとき、30ずつ上昇しているからだ。


「ジルが、いきなり高いレベルになったのは、どうしてなの?」


「・・・女神と話し合って、朝から祈りを捧げたり、体操したり、走ったりしていれば、成長するときにいろいろなスキルを獲得していくだろうって、考えてた。正直に言えば、いきなりそんなレベルになるとまでは予想していなかったんだ」


「女神さまも・・・?」

「セントラエム、どうなんだ?」


 ・・・私も、ここまで効果があるとは、考えていませんでした。


「・・・どうやら、女神にとっても、予想外だったらしいな」

「女神さまも、予想外だった・・・」


 セントラエム、直接クマラやアイラに話せばいいのにな。


 そうか。

 おれと話すのは、耐久力なんかの能力値を消費しないんだ。


 クマラやアイラに話しかけると、消費する。

 余るくらい高い数値なんだけれど・・・。


「いずれ、ウルも、ジルのようになるの?」

「その可能性は、十分にある。ジルとウルは、ほとんど全ての条件が重なっているから」

「そうなったら、アコンの村にとっては、最高の戦力になるわね」


 アイラの言う通りだった。


 圧倒的な力をもった子どもの存在。

 大牙虎より強いというだけでなく、大森林の全ての存在の頂点だと考えられる。


 ・・・おれがいなければ。


 それから、レベルやスキルについて、いろいろとクマラの質問に答え続けた。






 クマラと手をつないで歩く。

 アイラはそのまま、後宮でおれが戻るのを待っている。


 クマラたちのツリーハウスまでの、短い夜道。

 その手のぬくもりに、心まで満たされた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る