第30話 女神の信者が人間の範囲を超越しそうだった場合(3)



 次にアイラが口を開いた。


「わたしも、教えてもらえるわよね?」

「アイラ・・・」


「自分を知らなきゃ、今以上に強くなれないのなら、知るべきだと思うのよね」

「分かった」


 おれは、アイラに『対人評価』をかける。






 名前:アイラ 種族:人間(セントラ教:アコンの村) 職業:覇王の后、戦士

 レベル10 生命力115/130、精神力123/130、忍耐力112/130

 筋力71、知力61、敏捷70、巧緻69、魔力59、幸運27

 一般スキル・基礎スキル(4)運動、調理、信仰、説得、応用スキル(2)殴打、蹴撃、発展スキル(2)戦闘棒術、苦痛耐性、特殊スキル(1)、固有スキル(1)






「アイラのレベルは10。この村に来て、レベルは五つ、上がった。すごく強くなっている。ジッドとの修行では互角の戦いができてるしね。アイラのスキルは『運動』、『調理』、『信仰』、『説得』、『殴打』、『蹴撃』、『戦闘棒術』で、あとは『神聖魔法・治癒』が実際に使える。残りの二つのスキルはまだおれには分からない」


 あとは『苦痛耐性』スキルがあるけれど、あまり教えたくないスキルなので伏せておく。苦しみや痛みに対して我慢強いなんて、ね・・・。


 アイラは、腕を組んで、顔をしかめた。


 おや?


「・・・わたしはレベル10で、ジッドはレベル8なのに、立合いで互角なのは、どうしてなのよ?」


 ああ、そこか。

 確かに、引っかかるところだよね。


「・・・それは、これまでの経験の差、じゃないか?」


 ジッドが答える。「レベルが少し上だというだけでは、埋められないものがあるんじゃないのか? そうじゃなかったら、長生きしてきた意味が薄いな」


「・・・納得できなくはないけれどね。オーバ、どうなのよ?」

「ジッドの言う通りだと思う。言い方を変えれば、レベルではない、「スキルレベル」の部分で、ジッドの剣術が優れているからだろうな」

「スキルレベル・・・」


 アイラはまた考え込む。

 真剣過ぎて、よくないことを考えていそうだ。


「それなら、オーバがジルに、わたしやジッドとの立合いを禁止するのは、やり過ぎよね?」

「確かに、そうなるな・・・」


 アイラの言葉に、ジッドが相槌を打つ。


「今日、7歳になったジルが、スキルを獲得してレベルを上げたからって、これまで修行してきたわたしが負けるとは限らないわね。それに、修行は、強い相手とするべきよね?」

「アイラの言っていることは、正しいな」


 わざとだ。

 この二人は、ジルとの立合いを禁止されたのに、腹を立てている。


 そりゃ確かに、単純なレベル差だけでは、勝敗は決しない。


 レベル差が2というアイラとジッドの間で、勝ったり負けたりが繰り返されるのは、ごく普通のことだ。


 そこまで言うのなら、ジルと立ち合ってみればいい。


「さあ、ジル、わたしと立ち合ってよね!」


 ジルがおれを見上げる。

 さっき、おれに禁止されたばかりなのに、アイラから立ち合うように言われて、困っている。


「ジル。今まで、おれとアイラの立ち合いは、いろいろと見てきたな?」

「はい」


「それなら、今まで見てきたように、立ち合いなさい」

「分かった」


 ジルはゆっくり立ち上がった。


 おれは、心の中で祈る。

 どうか、アイラが大きな怪我をしませんように、と。


 たかが少しのレベル差ならば、アイラやジッドの言う通りだろう。


 実は、アイラとジッドの能力値には、ほとんど差がない。筋力など、ジッドの方が高いくらいだ。その原因はいろいろとあるのだろうけれど、事実として、ジッドとの能力差は僅差であり、戦いにそこまで差が出ないのも当然なのだ。


 アイラとジルのレベル差は8。

 能力値は、そのほとんどが2倍。


 ジルの方が、能力値がはるかに高いのだ。

 それが、戦闘でどうなるのか、というと・・・。


 アイラが、得意の棒術で、その長さを幻惑しつつ、ジルの脳天へと振り下ろす。


 ジルは紙一重で右へかわしつつ、左腕でアイラの棒を叩き落として加速させ、さらに、その棒の上に乗る。


 一歩、二歩、と棒の上を歩く。


 体重をかけられて、アイラのバランスが崩れ、棒は封じられる。


 ジルは、そのまま、アイラの鼻を右手でむにゅっと掴んだ。


 地面に高速で棒を振り下ろしたアイラ。

 その棒の上に立って、アイラの鼻を掴んだジル。


 身長差を埋めるための、アイラの棒の利用。


 一瞬でかわす敏捷性と、棒の上にあっさりと立つバランス感覚。


 ジッドが。

 クマラが。

 そして、アイラ自身も。


 呆然とするしかなかったようだ。


 ジルが鼻を掴んでいた右手を離すと同時に、棒から飛び降りた。


「オーバ、これでいい?」

「・・・ああ。それでいい」


 ジルは、天才かもしれない。


 ジルが勝つことは、疑っていなかった。

 それは能力値の差で、ジルが勝つものだと、おれは考えていた。


 でも、実際に起こったことは。

 これまでの、修行の成果のあらわれ、だった。


 何回も、何回も、繰り返してきた型の動きと、その応用。

 見取り稽古で見てきたこと。


 相手を苛立たせながらも、あきらめさせる、手加減の仕方まで・・・。


「アイラ、もういいだろ」

「え、ええ。よく分かったわよ。まるで、オーバにやられたときみたいだったわ」


「ジル、オーバと立ち合いたい」

「あとでね」

「いや、今、見てみたいわよ、それは」


 なぜか、アイラが懇願する。「ジルの、レベルはいくつなの? オーバは? わたしはレベル10で、大牙虎が相手でも、ジッドと同じでなんとか戦えるってことよね。じゃあ、大牙虎を無傷で狩ってくるオーバや、わたしを圧倒できるジルのレベルはいくつなのよ?」


 アイラの言葉に、クマラや、セイハもうなずく。


 仕方ない。

 どうせ、この近辺には、もうおれたちしか人間はいないんだから。


「繰り返しになるけれど、アコンの村の全員のレベルについて教える。静かに聞くこと。

 そして、誰にも言わないこと。

 それに、これから、レベルは上がっていくはずだからな。成長すればいいだけだ。

 まだ7歳になっていない、エラン、セーナ、ウルにはレベルはない。

 レベル1なのは、シエラ、マーナ、ケーナ、ラーナの四人。

 レベル2がヨル、セイハ、ムッド、スーラ、サーラ、トトザの六人だ。セイハとスーラは、アコンの村に来てから、ひとつレベルが上がったんだから、この先もまだまだ成長できるはずだ。

 レベルが2までのみんなは、大牙虎とは決して戦わないこと。木のぼりをしっかり練習して、すぐに木の上に逃げるんだ。

 クマラとノイハは、レベル6。女神の加護もあるだろうけれど、この成長は、二人の努力も大きいと思う。みんなも、この二人のように成長してほしい。二人は、大牙虎との接近戦は避けること。

 ジッドのレベルは8。これは、これまでのジッドの戦士としての生き方によるもので、この村でレベルが上がった訳じゃない。おれの考えでは、年齢が高くなると、レベルは上がりにくくなる。ジッドは十分に強いが、これからも、修行は続けてほしい。

 アイラはレベル10。これは、この森のほとんどの生き物と対等に戦える。でも、アイラも、大牙虎の群れのリーダーなんかの、一部の強敵には注意してほしい。

 アイラとジッドは、大牙虎一匹との接近戦は大丈夫だ。それでも、無理はしないこと。

 そして、ジルのレベルは18」


 そこで、ざわついていたみんながシーンとなる。





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