第30話 女神の信者が人間の範囲を超越しそうだった場合(2)



 ここまで、クマラが言い張るのは、何か、理由があるはずだ。


 自分が知りたいだけでなく・・・。


 ・・・みんなが自覚して、明日からの修行の効果を高めるためか。


 ・・・いや、それもあるけど、その中でも、セイハのことか。


 まだ、女神を本気で信じ切れていないセイハ。

 運動から逃げて、楽をしようとするセイハ。

 修行は見ているだけで、参加しないセイハ。


 妹として、兄に、生き抜く強さを身につけてほしい。

 そのためには、セイハに今の自分のレベルを自覚させたい。


 クマラは自分が先頭に立って、レベルを聞くことで、他のみんなも自分のレベルを聞き易くして、その上で自覚させていこうとしている。


 クマラは自分を高めようという意識が高く、今の自分はアイラよりもはるかに弱いと自覚していて、もっと強くなっておれの役に立ちたいと考えている。


 そういうところが、クマラのすばらしいところなんだろうと思う。


「分かった」


 おれは、クマラに『対人評価』をかける。






 名前:クマラ 種族:人間(セントラ教:アコンの村) 職業:覇王の婚約者

 レベル6 生命力57/60、精神力52/60、忍耐力45/60

 筋力37、知力54、敏捷40、巧緻45、魔力48、幸運20

 一般スキル・基礎スキル(2)信仰、学習、応用スキル(1)栽培、発展スキル(1)論理思考、特殊スキル(2)、固有スキル(0)






「クマラのレベルは6だよ。この村に来たときは2だった。他に知りたいことはあるか?」

「どんなスキルが身についているのか、教えて」


「分かる範囲でなら。『信仰』と『学習』、それに『栽培』、あと三つのスキルはよく分からないけれど、おそらく、『神聖魔法・回復』のスキルがあるはずだよ。実際に使えているから」


 おれは『論理思考』スキルのことは伏せた。クマラと二人で話すときに伝えればいい。


「それ以外の二つのスキルは、オーバには分からないの?」

「そうだね」


「お兄ちゃんは、どうなの?」

「セイハか・・・」


 おれは、セイハを見た。

 セイハが、少し身じろぎをして、うなずいた。


「オーバ、ぼくのレベルとスキルについて、教えてくれ」


 後悔するなよ、と心の中で思った。まあ、これはクマラのねらい通りなのだろうけれど・・・。


 おれは、セイハに『対人評価』をかける。






 名前:セイハ 種族:人間(アコンの村) 職業:なし

 レベル2 生命力14/20、精神力17/20、忍耐力17/20

 筋力12、知力18、敏捷12、巧緻16、魔力17、幸運10

 一般スキル・基礎スキル(0)、応用スキル(1)作炭、発展スキル(0)、特殊スキル(1)、固有スキル(0)






「セイハのレベルは2だ。スキルは『作炭』と、もうひとつはおそらく土器づくりに関するものだろうと思う」

「レベル2・・・」


 そう言ってセイハは絶句した。

 妹よりも、四つもレベルが低いのだ。


「この村に来てから、ひとつレベルが上がったんだ。その時に身に付いたスキルが『作炭』だったはずだな」


 おれは、止めを刺した。


「ダリの泉の村に住んでいた頃は、レベル1・・・」


 セイハはうなだれている。

 いい薬になればいい。


 クマラの願いに気づいてほしいと心から思う。


「わたしのレベルとスキルも教えてください」


 ケーナは真剣な表情だ。おれは、ケーナに『対人評価』をかける。






 名前:ケーナ 種族:人間(アコンの村) 職業:なし

 レベル1 生命力7/10、精神力6/10、忍耐力6/10

 筋力7、知力10、敏捷8、巧緻8、魔力8、幸運8

 一般スキル・基礎スキル(0)、応用スキル(1)聞き耳、発展スキル(0)、特殊スキル(0)、固有スキル(0)






「ケーナのレベルは1。スキルは『聞き耳』がひとつだけだ」

「・・・大牙虎のことは、オーバは知っていますか? レベルとか」


 何か、理由があるのか、ケーナは大牙虎のレベルが知りたいようだ。


 花咲池の村に戻りたい、とか言われたら嫌だな。

 ケーナはやる気のある期待の新人なので。


「大牙虎のことは、誰よりもおれがくわしいと思うよ。大牙虎の生き残りは、だいたいレベル6から8までだ。群れのリーダーだけはレベル12。こいつは身体も大きくて、要注意だ」

「大牙虎に殺されないためには、どのくらいのレベルになればいいですか?」


「ジッドと同じくらいになれば、生き残れるかもしれないね。ジッドは実際、生き残ってサーラとエランを助け出したからね」

「ジッドのレベルは?」

「それは・・・」


 おれはジッドを見た。

 ジッドは肩をすくめた。


「オーバ、おれのレベルとスキルを教えてやってくれ。その子、ケーナは大牙虎に負けないくらい強くなりたいんだろう?」

「分かった」


 おれは、ジッドに『対人評価』をかける。






 名前:ジッド 種族:人間(アコンの村) 職業:戦士

 レベル8 生命力76/80、精神力69/80、忍耐力64/80

 筋力73、知力59、敏捷68、巧緻62、魔力49、幸運21

 一般スキル・基礎スキル(3)運動、調理、説得、応用スキル(3)殴打、長駆、剣術、発展スキル(1)戦闘視野、特殊スキル(1)、固有スキル(0)






「ケーナ、よく聞いておくように。ジッドは大草原から旅をしてきた、剣の達人だ。そのレベルは8。アイラやジルの力が成長するまでは、大森林の周囲の村の中では、もっとも強い存在だった。ジッドのスキルは『運動』、『調理』、『説得』、『殴打』、『長駆』、『剣術』で、あとの二つはおれには分からない」


 本当は『戦闘視野』という発展スキルがあると分かっているのだが、それは伏せておく。


「実は、虹池の村が大牙虎に襲われたとき、なんとか互角に戦えたんだ」


 ジッドはケーナと目線を合わせて、真剣に話しかけている。「でも、反対側からも、さらには別の方向からも、大牙虎はあらわれて、動揺して、結局最後には、ほとんど何もできなくなった。おれの力程度では、大牙虎の群れには立ち向かえない。一対一なら、まだ自信はあるのだが」


「・・・そうでしたか」


 ケーナは黙る。ケーナのレベルは1で、ジッドのレベルは8。それでもジッドは立ち向かえないという。ケーナのめざす先はまだ遠い。





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