第30話 女神の信者が人間の範囲を超越しそうだった場合(1)



 とりあえず、その場ですぐに、ジルにはおれ以外との立合いを禁止した。


 アイラが、えっ、という顔をしたが、ここは何も言わない。


 ムッドが生きていたのは、とっさにジルが手加減をしたからだろうと考えている。そして、立合いの中でジルがとっさに手加減すれば、それはすぐ、アイラも気付く。説明する必要はない。


 この日は、修行をストップして、全員を座らせた。


「この話は、2回目になる者もいるが、よく聞いておいてほしい・・・」


 そして、スキルとレベルについて、説明していく。


 得意なことが、スキルであること。

 スキルには種類があること。

 スキルを身につけた分だけ、レベルが上がること。

 レベルが上がると、生命力や精神力が高くなり、生存確率が高くなること。

 それとは別に、スキルそのものも上達していくこと。

 人間は、7歳でスキルを持つようになること。


「ジルは今日、7歳になって、スキルをいくつか獲得した。それで、昨日までとはちがう強さを手に入れた。だから、今のジルとは、簡単に立ち合ってはいけない」

「ジルは、強くなったの?」

「そうだよ、ジル。強くなったよ。もう、大牙虎を怖れなくてもいいくらいにね」


 おれはそう言って、ジルの頭をなでた。


「・・・どうして、そんなに強くなれたんですか?」


 そう発言したのは、ケーナだ。


 その答えは、よく分からないところも多い。

 でも、強くなりたいと願うこの子に、おれは考えていることを伝えるべきだろうと思う。


「・・・これは、正しいとは言い切れないので、答えとは言えない話だと前置きさせてほしい。

 おれは、女神と話し合って、これまでの村の方針を決めてきた。

 ジルとウルを引き取ってからずっと、毎日、祈りと修行と学問を繰り返してきた。

 そうして、今、ジルが通常では考えられない強さを得たことで、女神と話し合ってきたことが間違いではなかったと考えている。

 スキルを獲得するには、

 文字を学び、知識を増やすこと。そうすれば学習関係のスキルが身につく。

 運動をしっかりすること。これは、運動や戦闘に関するスキルが身につく。

 神を信じ、祈りを捧げること。信仰によって、神の奇跡の力を借りるスキルが身につく。

 この三つが基本となる。

 学習と運動と信仰だ。

 しかし、普通は、文字を学んだり、運動や修行をしたり、神に祈りを捧げたりしないで生きているはずだろう。

 花咲池の村ではどうだった?」


「文字を学んだことも、体操や修行をしたことも、なかったと思います。アコンの村に来てからです。神への祈りとはちがうかもしれないけれど、花咲池への感謝の祈りは、欠かさなかったはずです」


「自然崇拝だね。オギ沼の村でも、ダリの泉の村でも、虹池の村でも、水への祈りはあったはずだろうね。生きるために欠かせないものへの祈りは必ず起こるはずだ。

 自然がありのままの姿でいれば、おれたちに恵みも与えてくれるけれど、例えば、嵐なんかの強い雨や風、猛烈な日照りなど、災害も起こるものだろう。

 でも、女神への祈りは、根本からちがうものになる。

 女神への祈りは、女神の神力を借りて、実際におれたちの怪我を癒したり、疲れを回復させたりすることができる。女神の持つ力を、おれたちは使えるようになる。そういう祈りだ。

 それは、心の底から女神を信じていないと、使えるようにならない。

 おれは、直接、女神の守護を受けている。だから、信じるも信じないもなく、女神がいることはおれにとって、当たり前のことだと言える。

 だから、おれにとって、女神の力を借りるのはとても自然なことなんだ」


「では、わたしたちも、この村で、文字を学び、運動と修行を重ね、女神を信じることができれば、オーバやジルのように、強くなれますか?」


「そこはまだ、分からないところも多い。

 ただし、ジルは特殊な状態だとしても、例えばクマラは、ここに来てから二か月で、四つのスキルを身に付けてレベルを上げているし、アイラも実はレベルが五つ上がっている。元々の才能も関係しているとは思うけれど、努力による部分も大きいはずだ。

 だから、ケーナにも、強くなれる可能性はあると思うよ」


 ケーナはゆっくりとうなずいた。


「オーバは、わたしたちのスキルやレベルが分かるの?」


 いつもの小さな声で、クマラが問う。


 実はこれ。

 大きな問題点なんだ。


 誰かのスキルやレベルが分かる者がいる、ということの重大さ。

 誰が強いか、誰が弱いかを見抜くことができるということの重要性。


「おれは、全てではないけれど、みんなのスキルとレベルをある程度なら把握できる。女神は、女神を信じている者については、その力のほとんどを見抜くことができる」

「じゃあ、わたしのレベルを教えて」


「クマラ、スキルとレベルは、おれたちが生きていく上での、もっとも重要な情報のひとつだ。

 相手が自分よりどれくらい強いか、弱いかを知られるということは、命にかかわることなんだ。

 だから、誰がどのくらいのレベルで、どんなスキルをもっているというのは、そうそう言えないことなんだ」


「ここにいる人たちは、わたしの命をねらったりしないと思うの」

「それは、そうだよ。もちろん」


「それに、この村の外の人に、そういう話をすることもないはず。それから、オーバは、この二か月でレベルを上げたって言ってくれたけど、わたしはこれからもまだまだ成長するの。だから、今、ここで、教えてほしいし、今のスキルとレベルがわたしの全てではないと思うの」


 クマラはおれをまっすぐに見つめて、そう言った。





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