第29話 怒った女神が姿を現した場合(3)



 実際には信仰スキルを獲得している者、または、それと同等の信心を持つ者に、セントラエムの言葉は届く。


 しかし、あの姿は、さっきその場にいた者、全員が見ることができた。


 女神を信じている者は、その美しさ、神々しさに。

 女神を信じていなかった者は、その存在に。


 ただ、ひたすら、驚嘆した。


 まあ、クマラは、セントラエムのおしゃれさに打ちのめされていた。

 毛皮関係で露出が多く、色も単調な今の衣類。熱心に糸づくりをしているのは、おしゃれ革命のためだ。今は無理でも、いつか、ああいう服を作りたいのだ、と。


 アイラは、セントラエムの美しさに打ちのめされていた。

 あんなに美しい女神がオーバを守っているのか、と。オーバはずっと、あんな女神と話し合ってきたのか、と。


 女神の声が聞こえずによく分からなかった人たちは、ウルが、女神と何を話したのか、問い質した。もちろん、幼いウルでは、十分な説明などできるはずがない。


 フォローが大変だった。


 なぜなら真実は、女神なんかいないと言われたセントラエムが、サーラに腹を立てて、自分の姿を見せつけるために、現れた、というだけなのだろうと思う。


 しかも、ジルとウルに服をプレゼントした。


 シエラやスーラが、これ以上は開かないだろうと目を見開いて、ジルとウルの服をまじまじと見ていた。それを見たクマラが決意を高めていたとか・・・。


 ノイハやジッド、ムッドを中心に、女神の美しさを絶賛して、わあわあと盛り上がり続け、女性陣を少しいらだたせていたとか・・・。


 アイラが「スグルって何?」と疑問をぶつけてきたとか・・・。


 ややこしいことこの上ない。

 まったく、何を考えてるんだ、もう。


「セントラエム。どうして、我慢できなかったんだ?」


 ・・・我慢する必要があったとでも言うのですか。


「サーラに腹を立てたんだろ」


 ・・・もちろんです、スグル。私の存在を否定するだけでなく、健気に私を信じ、オーバに従うかわいいウルを困らせて。ウルが言い負かされそうになって、泣きそうになっていて、そんなウルを助けるために、私は・・・。


 もちろんですって、さ。

 いやいや、認めちゃってるよ、この駄女神さまは?


 子どもか?

 みんな、子どもなのか?

 簡単にけんかしすぎですよ?


「いつのまに、そういうスキルを身につけた?」


 ・・・スグルがレベルアップする度に、わたしもレベルアップしますから。今回のスキルは本当に最近です。花咲池の村で、スグルが大牙虎を一撃で倒したあの時です。


「何のスキルだ?」


 ・・・さっき、姿を見せたのは『神姿顕現』というスキルです。私の姿をどこかに投影することができます。


「他には、どんなことができるようになった? おれには、セントラエムのスキルまではなかなか見られないから、教えてほしい」


 ・・・『分身分隊』のスキルでは、私の分身を生み出すことができます。分身には、私の力を何分の一か、を分け与えることが可能です。


 これは、使えるかも。


 セントラエムの生命力、精神力、耐久力は神族補正で抜きんでている。精神力なんて、五ケタだ。十分の一にしたとしても、四ケタの数値になる。そもそも、そういう分身を生み出す前提での能力値とも考えられる。


 そうなると、問題は・・・。


「分身の、スキルはどうなる?」


 ・・・スキルは、分身であっても、全て使えます。もちろん、能力値の限界を超えては使えませんけれど。あと、スキルによっては、分身でも、本体でも、守護神としてスグルに対してしか使えないものは、スグルが近くにいないのであれば、意味がありません。


 そりゃそうだ。

 守護神だからね。


 あとは・・・。


「分身は、本体に戻れるのか? それと、時間制限とか、分身の数とかは?」


 ・・・本体に戻るとか、そういう心配はいりません。いつでも分身は消すことができますし、消せば分け与えた能力が本体へと戻ります。時間制限も特にありません。分身の数について、おそらくスキルレベル次第ですね。今は一人だけ、生み出せます。


「分身は、おれから離れても、問題ないってことだよな・・・」


 ・・・そのための、スキルだと考えられます。守護すべき対象以外に守るべき者がいる場合に、必要となるスキル。つまり、信者からの信仰を獲得した守護神がもつべきスキルです。スグルが私の信者を増やそうとしましたので『信者加護』のスキルを獲得して、いろいろとできるようになりました。スグルが興したセントラ教を信じる者は、戦いにおいて私から『神力付与』を受けて力を増すことも、『治癒神術』や『回復神術』で治療や回復を受けることもできます。クマラに水袋を渡した『神器授与』や、さっきジルとウルに神官衣を授けた『物品授与』も行使できます。


「・・・本物の神様みたいだな」


 ・・・本物の神ですが、何か?


「いや、セントラエムは、ドジ神さまの方がかわいいんだけど」


 ・・・そ、それほどでも、ないと、思います。


 かわいい、だけに反応してやがる。

 ドジ神の部分は無視かい。


 女神のくせに都合のいい耳だよなあ。


「まあ、転生の時に会ったときも、きれいな女神さまだと思ったけど・・・今日は、久しぶりに会えて嬉しかったよ」


 ・・・今も、姿を見せましょうか?


「いや、見えないはずの神さまを見るためのスキル獲得の訓練は続けたいから、いつも通りに前にいてくれるだけでいい。それに、村の人たちに何度も何度も姿を見せていたら、女神のありがたみってものが薄れるしね」


 ・・・なるほど、そうですね。


「神さまなんて、語り継がれていけばいい。本当の姿なんて、信じる方にはどうだってよくて、自分の中に勝手にセントラエムを創り上げていくだろうさ」


 実際、夜のステータスチェックで、ノイハが『信仰』スキルを獲得して、レベルを6に上げていた。さっきの出来事が影響しているのは間違いないはずだ。


 明日からの朝の祈りも、また、ちがった感じになるだろう。





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