第28話 女神の加護を受けた村人たちがぜいたくをした場合(2)



 続いて、フルーツ盛りを出す。ぶどう二粒、梨一切れ、パイナップル三かけら、すいかは八分の一サイズ。


 果物好きのノイハが、目を回しそうになっている。ノイハを配膳係にしなかったのは正解だった。


「続いて、果物だ。梨は知っていると思うが、他のも楽しんでくれ。それぞれ、どういう果物か、説明してもらうといい」


 そう言いながら、おれは虎肉を焼き始める。

 じゅう、という音と、肉が焼けるにおい、そして煙が河原を包み込む。


 いつの間にか、ジッドとノイハは、少し離れたところに座り込んでいる。近くにいたら、我慢ができないのかもしれない。いや、単に、すねているだけかも・・・。


 マーナがアイラにいろいろと聞いているが、答えられないところは、アイラはクマラに話を振ってうまくかわしているようだ。食べ物ならクマラに聞けば間違いない。


 ビワの葉に、焼けた肉をのせていく。トトザ、マーナ、ケーナまでは五枚の肉。ラーナとセーナは三枚の肉だ。


 ジルたちがトトザ一家の前に肉を届ける。


「これは、大牙虎の肉だ。干し肉は食べる機会も多いが、生肉を焼いたものは、おれたちもめったに食べられない。ぜひ、味わってくれ」

「大牙虎の・・・」


 トトザが絶句している。


 小さい子の方が、怖れないらしい。ラーナとセーナが真っ先に食べて、おいしい、と叫ぶ。


 トトザとマーナは顔を見合わせ、それから焼肉を口に含んだ。

 ケーナはクマラによく噛むように言われて、ゆっくり味わっている。


 ノイハとジッドの目が、大きく見開かれているが、ここも、相手にしない。


 おれはアコンの実に石で二カ所、穴を開けた。

 セイハ特製のコップに、琥珀色の液体を注いでいく。


 アコンの実のジュースその一だ。その二は、実の下の方にたまっている白い液体を水で薄めたものになる。どちらも美味しい上に、疲労回復の効果が高い。


 まずはその一、琥珀色のジュースを提供する。

 これも、満足してもらえたらしい。特に、マーナが気に入ったようだ。


「みんな、待たせたな。ここからは俺たちも食おう! トトザたちも、まだ食べたい物があったら、こっちに残っているから、自由にとってくれ」


 おおっと叫んで勢いよく立ち上がったのは、もちろん、ノイハとジッドだ。

 この二人は、もう、どうしようもないのかもしれない。


 でも、アイラやクマラ、ジル、ウルたちはもちろん、サーラまで、みんな笑顔で、今日の料理を分け合って食べた。


 きのこと豆が入った玄米粥も、大人気だった。


 ノイハとジッドには、肉の制限を付けるのを忘れなかった。二人が泣きそうな顔になっていたが、そこは完全にスルーした。






 食べ終わった後は、いつもの修行に入る。


 トトザ一家は見学だ。


 今日は、拳法の組み手の後に、ジッドから剣術の指導を受ける。

 ジルやウル、ムッドなど、年少の子たちの真剣さに、セーナとラーナがびっくりしていた。


 ジルにぶっ飛ばされたムッドの手当をアイラが『神聖魔法・治癒』で行い、ムッドが光に包まれると、マーナが目を丸くした。

 さらに、今日は消耗したムッドの生命力をクマラが『神聖魔法・回復』で回復させている。

 これはおれの指示で、スキルレベルを高めるためだ。おそらく、その使用頻度で、レベルアップ時の能力値の上昇にも補正がかかるはずだ。


 剣術は、ジッドの教える型を大きな声を出しながら、繰り返す。

 男の子も、女の子も、関係なく修行する姿に、花咲池の村出身の娘たちは驚きっぱなしだ。

 花咲池の村の平均レベルは低かったので、こういう鍛え方は想像もできないことなのだろう。


 クマラがおれと立ち合っている間に、ジッドとアイラが真剣に立ち合いを続ける。ジッドとアイラの勝負は見応えのある真剣勝負なので、大人しそうなケーナが思わず握りしめた拳を見て、ちょっとおれたちの方も驚いた。


 あとでクマラが、ケーナにその話をしたところ、ケーナは、女の人が男の人と互角に戦うのがとても嬉しかったのだと言ったらしい。

 まあ、ぶちのめしたい男どもがいた、ということだろう。


 今日は、ジッドの辛勝だった。二人とも、片腕、片足の骨折で、ほぼ痛み分けという感じだ。


 おれが『神聖魔法・治癒』で二人の骨折を治す。


 トトザ一家は、目の前で続く、修行と治療の光景に、半ば呆然としていた。ただ、ケーナだけは真剣に見ていた。


 アイラとジッドの強さに、感動していたトトザたちだったが、そのアイラをあっさりと、ジッドを軽々と打ち倒したおれを見て、五人家族が口を開けたまま、呆けることになった。


 おれは、明日からは、特に子どもたちは、同じように修行を積んでもらうと告げた。ケーナは子どもたちという枠の外だったのだが、一緒にやりたいと申し出てきた。


「強くなりたいんです」


 ケーナのその言葉は真摯なものだった。「自分を守れる強さがほしいんです」


 断る理由はないので、もちろん許可する。

 そういうやる気は大歓迎だ。


 それからは文字の練習をしたり、いろいろな話をしたりして、女性陣から先に、おれたちは後から滝シャワーを浴びて、アコンの群生地へと戻った。


 滝シャワーは、マーナとケーナに大好評だったらしい。

 アコンの群生地へ戻る途中、何度も滝シャワーのことを興奮しながら母娘で話していた。


 アコンのツリーハウスでは、それぞれの家へと戻る。


 おれは、アイラを呼んで、後宮へのぼった。シエラは、今日は我慢させている。

 昨夜の、ナニはなくとも、アイラとクマラに添われて寝たのも良かったが、まあ、アイラと二人で、優しく肌を重ねて求め合うのも、もちろん良かった。


 祭りの夜の独り寝はさみしいので、アイラの寝息を聞けて、おれは幸せだった。次は、シエラが一緒に来たいといったら、アイラに連れて来てもらおう。





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