第27話 女神との悪だくみで人としての一線を踏み越えた場合(3)



 アイラとクマラは顔を見合わせ、それからおれを振り返って、二人とも、頬を染めたまま、ゆっくりとうなずいた。


 いや、ナニはなし、ですから。

 本当ですって。


 二人同時にとか、あり得ません。

 それに、まだクマラは成人してません。

 ナニはなしです!


 ナニはないけれど、驚いたのは、疲れたおれを癒そうとおれの腕をもみほぐしていたクマラが突然光をまとったと思ったら、おれの生命力がある程度回復したことだ。


 『神聖魔法・回復』のスキルを使うとこんな感じだったと思い、『対人評価』でクマラのステータスを確認したら、クマラのレベルが6に上がっていた。






 名前:クマラ 種族:人間(セントラ教:アコンの村) 職業:覇王の婚約者

 レベル6 生命力45/60、精神力32/60、忍耐力34/60

 筋力37、知力54、敏捷40、巧緻45、魔力48、幸運20

 一般スキル・基礎スキル(2)信仰、学習、応用スキル(1)栽培、発展スキル(1)論理思考、特殊スキル(2)、固有スキル(0)






 やはり、学習スキルの効果で、クマラのスキル獲得が加速しているのかもしれない。


 アイラは、クマラが女神の力を借りられるようになったことをとても喜んだ。


 その夜、おれたちは、川の字に並んで、眠った。






 朝、起きたら、右にクマラ、左にアイラが眠っていた。


 クマラの寝顔をじっくり見るのは、初めてだった。実にかわいい。もちろん、アイラの寝顔も。


 ちょうど、転生してから百日目。

 幸せな時間だ。


 『神界辞典』のスキルを使って、スクリーンを出し、視界の右下隅に固定する。一度寝ると、スクリーンの固定は解除される。だから、毎朝、必ずスクリーンを固定する。


 『鳥瞰図』で地図を広げ、『範囲探索』で大森林の現状を確認。


 大牙虎を示す赤い点滅は、かつて花咲池の村があったところを占領していた。


 その近くの森の中には、何も点滅していない。

 逃げられた者はいなかったようだ。


 夜襲をかけられたら、とてもじゃないが、逃げられるはずもない。


 しかし、どうしてこういう急な動きになったのか。


 おととい、肉を狩ろうと、一匹、虹池の村で、群れには気づかれないように、仕留めた。数を減らして、動きを鈍らせようと考えていたのだが、どうやら、逆効果だったらしい。


 これ以上、数が減る前に、村を攻め落とそうと考えたようだ。

 変化への対応が、なかなか鋭いということに、今さらながら、驚いてしまう。


 トトザたちはかなり離れているので、無事なようだ。サーラがトトザたちから離れた様子もない。


 クマラとアイラの寝顔を堪能して、二人を起こさないように、おれは村を出た。


 『高速長駆』で、急いでトトザたちのところへ向かう。


 暗くない今、そこまでの時間は三十分もかからない距離だ。


 土器と、かまどに使った石を回収してかばんに入れ、トトザとマーナを起こした。子どもたちはマーナに起こされ、サーラは少し遅れて自分で起きた。


 水を全員に与え、出発を促す。


 ここからアコンの村までは、およそ三時間から四時間程度。

 あと少し、なのだ。


 一晩寝たにもかかわらず、生命力の回復が十分ではないトトザに『神聖魔法・回復』のスキルを使って、回復させる。

 トトザのレベルは2。あの村は、一人ひとりのレベルが低すぎる。花咲池の周囲が豊かだったからだろうか。ぜいたく慣れしているのか、一人ひとりが鍛えられていない。


 驚きを隠せないトトザやマーナ、ケーナに、サーラが自慢気に、「オーバは女神の癒やしの力が使えるわ。私も傷を跡形もなく、治してもらったのよ」などと言っている。


 別に、『神聖魔法』のスキルを自慢したいのではなく、トトザに自分の足で歩いてもらいたいだけなのだ。


 そうすることで、セーナやラーナが疲れた場合に抱き上げて歩き、この一団のスピードを上げたいだけなのだ。


 もともと、トトザとマーナは「森の人」とか、おれのことを呼んでいて、おれを神聖視する傾向があった。

 森の食べ物にくわしいこととかも、それに拍車をかけていた。

 さらに、『神聖魔法』のスキルでの癒やしを見たら、どうなるか。完全に女神を信じる者へと導ける、はず。


 全ては演出と実利、だけではないけれど、かなりの部分はそれ。


 ・・・小さい二人の女の子は、これからとしても、大人の二人と、年上の姉は、これでオーバの言葉を無視できないでしょう。


 セントラエム。


 この状況では、おれは何の返答もできないよ。


 大牙虎が花咲池の村を襲った事実を伝え、森の奥へと急ぐように促して、歩くペースを早くさせる。小さな二人も、一生懸命に歩く。


 小さな歩幅を、倍に動かして。


 一時間くらいで、下の妹セーナのペースが落ちて、おれが左腕で抱き上げる。昨日も抱き上げて歩いたので、セーナも慣れたものだ。


 それをうらやましそうに見ていたラーナが、それから三十分くらいでペースダウン。ラーナは右腕に抱き上げる。


 トトザとマーナが、一人は自分たちで、と申し出るが、それよりも歩く速さを求めたら、おれに二人ともを任せてくれた。


 スクリーンで動きを確認しているが、大牙虎は花咲池の村にいる。こっちには来ない。

 でも、それを知らない者にとっては、一刻も早く、大牙虎とは距離をおきたいのだ。


 おれが二人を抱き上げていることで、隣にケーナが歩いて、いろいろと妹たちを指導している。


 きちんとお礼を言いなさい、とか。

 しっかりつかまって、落ちないようにするのよ、とか。

 オーバ、本当にありがとう、あなたたちももう一回、お礼を、とか。


 二人の妹、というより、おれの近くにいたい、感じだろうか。

 トトザとマーナも、それを穏やかに見守っている。親としては、アリ、という方針のようだ。


 サーラは、不機嫌そうだ。まあ、そっちはどうでもいいし、ケーナと二人の妹たちのおかげで、サーラと無駄に話をせずに済んで助かっている。


 やれやれ、強さがモテ要素なのは、この世界の鉄則だけれど、ここまで女性の人数が多くなった村で、おれはいったいどうすればいいんだ?


 セントラエムが、暴走して、クマラのときみたいなことをしないように、しっかり話し合っておきたいと思う。


 こうして、出戻りを一名と、新しい村人五名が、アコンの村に加わった。


 昼前に、村に戻れたのは、本当に幸運だった。







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