第24話 女神と話しているうちに怖ろしい可能性に気づいた場合(3)



 翌日からの祈りの時間は、おれは信者の信仰心を感じ取るように、見えないものを見ようとする修行を始めた。


 これは、セントラエムのアドバイスによるもので、神族との戦いを前提とするのなら、神族が見えない今の状態では、いくらレベルが高くとも、攻撃を当てることさえできない。


 それでは、戦いにならない。


 だから、「鑑定」系のスキルのうち『対人評価』や『物品鑑定』、『範囲探索』などの上位スキルである「心眼」系スキルか「神眼」系スキルを身に付けることが必要になる。


 そう教えられたのだ。


 ちなみに、セントラエムは『神眼看破』という特殊スキルによって、その気になれば、スキル名からこれまでの経験を書き記した「ログ」まで、見破ることが可能なのだという。


 言われた通り、素直に修行していると、確かに、一見全員が集中して祈っているようで、祈りの想いの大きさや純粋さに、いろいろな差があるように感じられた。


 おれは、見えない何かは、確かに存在していると思う。


 それは、前世で、いろいろな部活動を担当しているとき、「不思議な勝ち」を感じたことで、いつもそう思うようになっていた。


 一生懸命、努力した先にある、何か、突き抜けたものの存在。

 論理や科学では、説明がつかない、神秘としか思えないこと。


 この世界では、話ができる神さまが、疑いようもなく、存在しているしね。






 水やりランニング終了後、みんなと分かれて、『長駆』スキルを持つノイハ、ヨル、ジッドとおれの四人で、前回の探索で見つけたばかりの遠い竹林を目指して走った。


 移住予定者用の住居を造るための竹を確保するためだ。


 みんなで歩いて行って、竹林で一泊して戻ろうと思っていたが、それで子どもたちを連れて歩くよりも、ノイハとジッドとおれで、竹の太い部分を中心に運び、ヨルには先の細くなっていく部分を中心に運ばせることで、その日のうちに行って戻れるという計算が立ったのだ。


 大牙虎には動きがない。


 花咲池の村は、いろいろとおかしな動きをしているみたいだけれど、おれたちへの影響はない。


 大牙虎以外の相手なら、アコンの村はアイラがいれば十分守れる。


 近くの竹林では竹が少なくなってきている。

 全滅はさせない、というのがこの森の生き方だ。


 だから、この遠い竹林を利用するしかない。


 おれたちは一番遅いヨルのペースに合わせて走った。マラソンで言えば、「サブスリー」とかいう、三時間切りでゴールできるペースだろうか。


 三時間くらいで竹林に着いたら、ヨルには休憩をとらせ、その間に竹を切り倒していく。


 ノイハは十本なら持って走れると言い、ジッドは十五本だと言う。おれは両肩に十五本ずつ、合計三十本持つことにした。

 切り分けた細いところは、ノイハ、ジッド、ヨルで三等分にした。

 竹林荒らしになってしまったが、全滅はさせてない。まだ、この倍は切り倒しても余裕があるだろう。


 明日も来ることにして、おれたちは走って戻った。


 予想していたよりも早く戻れたが、切り倒してきた竹は、新居の建設予定地に置いて、小川にいるみんなと合流した。


 ヨルはくたくたで、武術修行は休憩。


 ノイハはくたくたなふりをして、武術修行はお休み。


 そういうところだよ、ノイハ。


 見えないものを見るって、こういうものも含むのだろう。


 時間にゆとりがあったので、明日は少し、寄り道をしよう。


 食事、勉強、武術、シャワーといういつもの流れ。


 シャワーはいつも以上に気持ちが良かった。


 夜、セントラエムと話すときは、セントラエムには前にいるように頼んで、セントラエムを見ているつもりで、話をするようにした。


 これも修行の一環なのだが、セントラエムが本当に前にいるのかどうか、そこは謎だ。






 翌日も、水やりランニングの後、同じメンバーで出発した。


 ノイハは嫌そうな顔を露骨にしていたし、ヨルも元気がない。


 ジッドは、さすが、年長者だ。無表情で走っている。喜んではいない、な。


 しかし、『長駆』では、話をするゆとりはないので、全員の呼吸だけが聞こえてくる。


 昨日とは違うルートなのだが、そもそも、この森の中を移動するとき、ちがいがはっきり分かる者はいない。当然、三人とも、ルートが違うことには気づかない。


 おれが立ち止って、休憩を告げた。


「これって・・・」


 ヨルが見上げて、あるものを見ている。


「おい、オーバ、これ、この前の、ぶどうじゃねーか!」


 ノイハが満面に喜びを浮かべて、叫んだ。


 ジッドは・・・。


 ・・・おっさん。


 なんで、既に、もいで、食ってんのさ・・・。

 この食いしん坊オヤジめ。


「まあ、今回の特別任務での、ごほうびみたいなもんだ」

「うおうっ、やったぜぃ」


 ノイハもジッドに続く。

 ヨルも嬉しそうだが、背が届かないので、おれがひと房、採って手渡した。


 ジッドはもう三房目に突入している。


 おれはお土産用に三房、かばんに入れた後、自分用にひと房、もいで、食べた。


 前回、おれが持ち帰ったときは、一人三粒か四粒ずつくらいしかなかったので、今日はたくさん食べられる。少ない量だったが、大人気だったフルーツだ。


 マラソンのごほうびとしては、いいものだろう。






 昨日と同じように、河原でノイハはくたくたなふりをして修行をさぼり、本当にくたくたなヨルは休憩をした。

 ジッドは、二日目はさすがに疲れたのか、アイラとの立合いを断っていた。

 残念そうに、アイラがおれを見たので、今日はおれが二回、アイラと立ち合った。


 三日目の焼肉も大変美味しく頂いた。大牙虎には、ある意味感謝したい。煮詰め続けている大牙虎ブロックも、既にとろとろな状態で、明日のとろとろ肉スープも楽しみだ。


 毎日、朝夕と食べているが、梨はまだまだ根強い人気を保っている。この調子なら、在庫は消費されそうだ。


 お土産のぶどうはやはり好評で、クマラがぶどう栽培に野望を抱いているようだった。


 今日も、アコンの村は平和だった。






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