第23話 女神の黙認の元、殴り込んだ場合(2)



「そんな池が、森の奥に・・・」

「その池で待っていれば、今日から七日後には迎えに行く。森の奥で二日、生き延びられるように。まあ、じっとしていれば、二日間ぐらいは問題ない」

「・・・分かりました」


 おや、信じるみたいだ。

 まあ、実際に、森に入るには勇気がいるだろうから、あきらめるなら、その時はその時だ。

 おれが知ったことではない。


「あの、森で迷って、池にたどりつかなかったら、どうすればいいでしょうか」


 マーナは、やはり賢い女性なのかもしれない。

 その場合も想定しておかないと。


「迷って、今日から七日後になったら、そこから動くな。じっとしていれば、別に池以外でも、森の中なら女神に尋ねて迎えに行く。いいか、迎えは七日後。それを忘れるなよ」

「はい・・・」


 おれは、トトザとマーナの夫婦と別れて、花咲池へと歩いた。

 せっかくここまで来たのだから、池くらい見ておこうと思ったのだ。


 花咲池は、池の周りにたくさんの種類の花が咲いている池だった。名前の通り、美しい光景なのだが、そんな名前の村がセクハラ村なのは残念だ。


 村人が二人いたので会釈をする。

 なぜだかビビりながら会釈を返してきた。


 なんでだろう?


 そこで見つけたのは自生している「苺」と「瓜」だった。


 どちらも、竹筒を使って、土と苗を採集し、実も収穫し、味見をした。


 村人は何かを言いたそうにしていたが、結局、何も言わずに去っていった。

 たぶん、勝手に食べないでください、とか、そういうことを言いたかったのだろう。


 ちなみに、咲いている花の中に「ひまわり」もあった。

 これも、いつかは採取して、種を土兎のエサにしよう。






 池を離れて、森に入る。


 帰りも探索しながら、うろうろと動く。


 「柚」の木を見つけたが、一本だけだった。まだ青実なので、場所は覚えておいて、いつかまた来ることにする。秋ぐらいに栽培できるかどうか、努力してみるとしよう。柚があるなら、どこかにみかんがあるかもしれないという期待も持てた。


 竹林を発見したが、アコンの群生地からはかなり遠い。さっきの夫婦が移住してきたら新しい家が必要になるから、それを造るために、一泊二日で大量に竹を切り倒すタイミングを探すことにしよう。


 セントラエムを通じて、ジルにもう一泊することを連絡。


 大牙虎の動きを確認するが、特に異常なし。


 苺と瓜、梨を食べて食事代わりとして、いつものように樹上で休む。


 セントラエムとの話は、割と難しい内容になってしまった。






 翌日、朝から三時間くらいは探索して、大きなきのこ類の群生地をひとつ見つけた。きのこステーキができそうな、エリンギの大きい感じのきのこだ。


 たっぷり採集して、あとはアコンの群生地へと走った。


 午後、みんなが小川でいろいろとやっているところに合流すると、アイラがとても喜んだ。


 ジッドと真剣勝負ができるからだ。


 おれがいない間の、アイラとジッドの立ち合いは禁止している。


 骨折レベルの怪我を治せるのはまだおれだけらしい。


 セントラエムが自分でやればできるはずだけれど、なぜか、それはまだしてくれたことがない。早くそういうところを解禁してほしいものだ。

 それでも、ジッドは、信仰の関係で、セントラエムの神力が届かないから、おれが神聖魔法で治すしかない。という訳で、おれが戻らない限り、アイラの戦闘ジャンキーなところは満たされないのだ。


 二人の立ち合いは、かなり進化してきている気がする。

 棒術と剣術のスキルレベルが上がっているのは間違いない。結果は、勝ったり負けたりという互角の状態なので、鍛錬としては最高の組み合わせかもしれない。

 ただし、腕や足にかなりの大怪我をするので、そろそろ、夫としてはやめてほしいと思っている。


 食事には、ぶどうと梨とトマトを追加で出した。


 トマトには微妙な表情も見られたが、ぶどうと梨はやはり大好評で、クマラとどうやって栽培をするのか、真剣な議論になった。


 水鳥の羽は、ノイハを大喜びさせた。大興奮で、矢に羽を取りつける作業に没頭している。女性陣の滝シャワーに全く反応しないノイハを初めて見た。


 滝シャワーの後、アコンの群生地に戻ったら、栽培実験室で、ぶどう、苺、瓜、かぼちゃ、梨の栽培実験を進めながら、明日の農場での苺、瓜、かぼちゃの苗を植える作業について、クマラと話し合った。

 暗くなる前にアイラが顔をのぞかせたが、その後ろから来たジルが、「今日はジルとウルがオーバと寝る」と宣言したので、アイラは笑って戻っていった。


 樹上で、おれの両脇で甘えてくるジルとウルの話を聞きながら、スクリーンを操作する。

 地図上に、あれ、と思う光点があった。大牙虎は虹池の村から動いた気配がない。それにもかかわらず、花咲池の村の方にある森の中で、赤い点滅と黄色い点滅がある。


 気にはなったが、アコンの村には影響がなさそうなので、とりあえず放置することにした。


 ジルとウルが満足そうに眠り、おれはセントラエムに話しかける。


「セントラエム、明日、大牙虎のところに行こうと思う」


 ・・・何をしに行くのですか?


「一匹、狩ってくるつもりだよ」


 ・・・一匹、ですか?


「そう。みんなで食べるためにね」


 ・・・そんなことができるのは、スグルだけですからね。


「まあ、そうなんだけれど、一応、考えてるのはさ、大牙虎の群れとしての力は、削っておきたいってことなんだ」


 ・・・それで、一匹、狩ってくる、というのですね?


「そう。ついでに、他の大牙虎にも、ちょっとずつダメージを与えられたらいいかな」


 ・・・全滅は、させないのですか?


「全滅はさせない。でも、のさばらせも、しない」


 ・・・何を考えているのですか?





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