第21話 女神との相談があまり必要なくなってきた場合(3)



 この頃、多くのメンバーのレベルが上がっていた。


 アイラはレベルをひとつ上げてレベル10となり、おれをのぞけばこのあたりでただ一人の二桁レベルの存在となった。

 后補正で生命力・精神力・耐久力も少し高く、神聖魔法の治癒が使えることや戦闘棒術のスキルと合わせて考えれば、単独で大牙虎と戦って勝利できる力は既にあるはずで、複数を相手にできるところまで近づいている気がする。


 ノイハとセイハ、それにクマラの3人も、レベルが上がっていた。

 ノイハはレベル5、セイハはレベル2、クマラはレベル4になった。妹より兄の方が弱いというのは悲しいが、スキルの数がレベルというこの世界のしくみでは仕方がない。

 ちなみに、スーラもレベルアップして、レベル2になった。スーラはまだ7歳の女の子だ。それが成人間近のセイハと同じレベルだというのは、セイハにとっては残酷な現実だ。


 この世界のスキル数がレベルというしくみは、年齢という差を一切感じさせないのかもしれない。


 セントラエムは、この村でのいろいろな努力の成果が上がっているのか、ごく普通のスキル獲得なのかは、どちらとも言えないと言っていた。

 まだまだ、多くの事例を必要とするのだろう。

 ただし、成人前のクマラがこの先もスキルを増やしていくとしたら、スキル獲得の成長期のような期間が人生の中にあるのかもしれない、ということだった。






 みんなは小川で訓練や勉強をしてもらって、おれは下流に向かった。


 そして、下流から戻ったおれは、手に入れた稲穂に石斧をちょうどよい角度にあてて、稲穂を引っ張ることで脱穀していった。

 今回は、試食するためにある程度の量を収穫している。脱穀したもみは、竹筒の中に貯めていく。そして、竹筒六本分のもみを確保した。七~八合くらいだろうか。


 大きな平石の上にもみを並べて、小さな丸石で少しずつすり潰して、削っていく。

 クマラが興味深そうにのぞきこむが、おれの集中度合いをみて、質問は遠慮していた。


 削ってもみがらが外れ、玄米になったものは、セイハから受け取った土器の鍋に入れていく。これ以上精米すると、栄養が落ちるので、味よりも栄養を優先した。


 竹筒二本分の玄米を土器の鍋に入れて、水を玄米よりも人差し指分くらい多めに入れて、しばらくそのままにしておく。その間に、ジッドやアイラ、クマラと一度立ち合った。


 1時間くらい経って、土器の鍋を直火にしかけた。


 沸騰して、湯気が立ち、水分が少しずつ蒸発していくようすを見ながら、ジルとウルに神聖語と神聖文字を教える。


 途中で、皮をむいて小さく切り分けたネアコンイモと、削った岩塩、ちぎった干し肉やきのこを鍋に加えていく。


 そろそろいいかな、というところで採取しておいた野生のヨモギや野生のネギなどの野草を追加。


 徐々に火が弱まるが、燃料は追加しない。

 そのまま火が消えるまで放置する。


 クマラとの3回目の立ち合いを終えた頃、火は完全に消えていた。


 セイハ特製の土器に、土器のおたまでよそっていく。


 玄米粥だ。

 久しぶりに米のにおいをかいだ。


「オーバ、これが、滝のそばや、畑の竹筒で育てている、「コメ」なのね?」

「ああ、そうだよ。これは玄米といって、まあ、うまみは落ちるが、栄養は豊富な状態の米だね。よく噛んでたべること」


 おれは一番に、土器スプーン、というか、もはやレンゲだけど、レンゲで玄米粥を口に運んだ。


 ・・・うん。米の味がする。


 噛んで、噛んで、中の白米の部分は、甘い。ネアコンイモの甘みとは異なる甘み。

 ああ、ずいぶんとこの味から離れていたんだな、と思う。


「オーバ、泣いてるの?」


 ジルが隣でおれの顔をのぞきこんだ。


 あれ?


 言われて、気付いた。

 どうやらおれは泣いているらしい。


 そのままおれは、泣きながら玄米粥を口に運び続けた。


 米はおれにとって、郷愁そのもの。


 周りは親しい者だけだ。

 自然に出てくる涙を止める理由はない。


 おれは泣きながら、食べ続けた。

 おれがこの世界に転生して、ちょうど九十日目のことだった。






 玄米粥は、ネアコンイモのスープ以上に好評だった。


 初めての味だったというのもあるかもしれないが、感想の多くが、おなかが一杯になったというものだった。


 ここでの生活は1日1食で暮らしている。


 満腹感はかけがえのない精神的充足を与えてくれるのかもしれない。


 この後、クマラは実験水田の栽培成功に向けてありとあらゆる努力を惜しまなかった。

 その努力の理由が、米の味によるものだったのか、おれの涙によるものだったのか、それはクマラにしか分からないことだった。


 いつか、生産量が十分に確保されたら、一度、みんなに白米を食べさせてみたい。


 焼肉を白米で。

 それは、奇跡のごちそうとなるのかもしれない。






 今日は大邸宅で横になった。当然、アイラはシエラと一緒だ。


「セントラエム、おれは決めたよ」


 ・・・何を決めたのでしょう?


「おれは、ここを豊かな国にしていく。米はもちろんだけれど、それだけじゃない。森小猪や土兎の畜産も、スイカや豆の栽培も、ネアコンイモも、きのこやパイナップル、びわだって、みんなが今みたいな1日1食じゃなく、1日2食、1日3食、食べられるような、食料の豊かな国にしていく」


 ・・・みんなが1日3食、食べられる国、ですか。


「そのためには、大牙虎とも戦わなきゃならない。だけど、大牙虎も全滅はさせない。大牙虎はおれたち、アコンの村の住人の貴重な食料だ。今、人間の村を襲っている中心的に群れの頭は必ず潰す。でも、全滅させずに生き延びさせ、必要に応じて定期的に狩る」


 ・・・しかし、それではこの村の弱い者が犠牲になるかもしれませんよ?


「そうだよな。だから、この村から弱い者がいなくなるように、この村の大人は、一人で複数の大牙虎の相手ができるようになるまで、鍛え抜く。目標とする村人の平均レベルは15。スキルを15個、獲得するまで鍛え抜く」


 ・・・成人はそのレベルを目指すということですか。しかし、そうはいっても、簡単なことではないですよね。今でも、アイラを除けば、クマラとノイハが二つレベルアップをしただけで、あとは1レベルしか変わっていません。ジッドはもともとレベル8で、そのままです。大牙虎を複数相手にできる強さとは、ジッドをはるかに上回るということです。


「その可能性は、結局、学習スキルにあると思う。とにかく、村のみんなに学習スキルが身につくように、これからは試行錯誤を繰り返すよ」


 おれの決意は変わらない。


 できるかできないかではなく、やる。

 決めたからには実行する。


 この大森林の奥地は、元々の素材を生かしながらも、豊穣の農地へと変えてみせる。


 アコンの村は、いずれ都市にしてみせる。


 転生して、通常ではないレベルを得たのは、ひとつの国をつくるためだと、思うことに、おれは決めたのだった。



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