第21話 女神との相談があまり必要なくなってきた場合(2)
学習面は、大きな成果がある気がしている。
ジルやウルは、早期英才教育の成果なのか、小学生四年生くらいまでのレベルの漢字は、既にクリアしていた。
漢字仮名交じりの文を書いて、南方諸部族語でどういう意味になるかを教えて、日本語の発音で音読させる。
この繰り返しで、かなり日本語が分かるようになってきた。
それと同時に、カタカナで南方諸部族語の音をそのまま表現させるようにも教えてきた。そのおかげで、おれも南方諸部族語と日本語の違いがよく分かるようになった。言語論文が書けそうだ。
難し過ぎる漢字は特に必要がない。そのため、ジルとウルは覚える字がなくなってきたので、最近は『神界辞典』を開いて、神聖語と神聖文字を教えるようにしている。
辞典にのっている言葉と意味を1日ひとつ、教えて書き取らせ、音読と書き取りを繰り返させる。
計算もよくできて、足し算、引き算、九九は、ジルもウルもばっちり覚えている。それに九九ができるので、割り算もこなす。最近は筆算で桁が大きくなっても計算ができるようになっている。
そして、ジルが先生役を務めて、ヨル、シエラ、ムッド、スーラ、エランなどの子どもたちはもちろん、セイハ、クマラ、アイラなどの年長者まで、文字や計算を教わっている。
ウルはジルを上手にサポートして、理解が遅い者に手厚く教えていた。ジルも、ウルも、役に立つのが嬉しい、という顔で頑張っている。
体が小さく、レベルもまだない6歳以下の二人は、村の役に立てるこの瞬間がとても嬉しいらしい。
そういう子どもたちに対して、悪い見本が二人いる。ノイハとセイハだ。
ノイハは勉強からは逃げているようだし、セイハは運動から逃げている。うちの男連中は、ちょっと情けないかもしれない。
武術の鍛練は、一応、拳法、棒術、剣術、弓術の四つを全て行う。
拳法は毎朝、個人の型、夕方に組手の型、そして組手の立合いを行う。子どもたちは必須。
剣術と棒術は日替わりで夕方に個人の型を繰り返す。
弓術は五日に一日だけ、ひたすら練習する。弓術の日は、棒術と剣術はやらない。
最近、クマラが望んで、おれに拳法の組手の立合いを挑んでくる。アイラのように、強くなりたいのだと言う。
剣術や棒術、弓術の方が、相手との間合いがとれていいのだけれど、クマラの考えでは、いつも武器が手元にある訳じゃないから、とのことだった。
せめて、剣術か棒術のどちらかは頑張るようにと伝えたら、意外なことにアイラから棒術の指南を受けていた。
クマラとアイラは、おれが考えているよりもはるかにいい関係を築いているらしい。どっちが正妻だとか、争われなくて本当に良かった。
おれは、まあ・・・レベル差のせいなんだけれど、アイラには棒術で、ジッドには剣術で、ごく当たり前のように勝てるようになっている。
そのことによるアイラとジッドの落ち込みようは、かわいそうになるくらいだった。
弓術もノイハの上に、と思っていたが、これだけはノイハには及ばない。不思議だ。ノイハの持つ特殊スキルの関係かもしれない。
アイラが、手加減なしで戦ってほしい、と懇願するので、一度だけ、という約束で、本気の立合いをすることになった。
そうは言っても、手加減はする。でも、本気は出す。
勝負は一瞬。
棒を振りかぶったアイラの袈裟掛けの打ち込みに対して、一瞬で間合いを詰める。敏捷の能力値が200以上違うのだ。アイラがどれだけスキルなどの補正で頑張っても、基本の身体能力に差がありすぎる。
おれはそのまま、棒ではなく、アイラの手首を左手で押さえる、そして、それとほぼ同時に、右手でアイラのあごを揺らす。
脳震とうを起こして、ふらり、と倒れるアイラをそのまま抱いて支える。
からん、からん、からから、と棒が地面に落ちる。
手加減なしとは言われても、妊娠しているかもしれない自分の妻をところかまわずぶん殴れる訳がない。だから、真剣な立合いを一瞬で終わらせるために、あごを狙って脳を揺すった。
アイラは何をされたのか、よく分からなかっただろうと思う。それでも、いつもと違って、鼻をつまんだり、耳を引っ張ったりするのではなく、倒れるだけの攻撃を受けたことで、手加減はしていないと考えてくれたらしい。
その日の夜は、新居でアイラを迎えたが、不思議とおれたちはいつも以上にお互いを求め合った。
四軒目のツリーハウスが完成した時、竹林での竹の伐採は1日1本だけとして、あとは原則として禁止することにした。
これ以上、竹を消費し続けると、竹が全滅してしまうかもしれない、と考えたからである。
竹はとても便利な素材だ。加工も、他の木よりもはるかにやりやすい。というか、他の木を加工して木材にするには、道具が不足している。
そして、使い道が幅広い。
だからこそ、大切にしていかなければ、おれたちは自分で自分の首をしめてしまう。
それに、タケノコもまだ、見かけていない。いつか、どのタイミングなのかは分からないけれど、必ずタケノコは食べるつもりだった。食料としても期待できるので、他の場所にもあるのなら、積極的に探したいものだ。
四軒目はノイハ、セイハ、クマラに使ってもらうつもりだ。
一軒目の大邸宅は、今のところ、いわば王宮。
アコンの木8本分もぜいたくに使い、倉庫も、トイレも、貯水室もある。バンブーデッキも東西に三段ずつ設置されている。
村が攻撃を受けたら、ここに籠城するので、おれたちにとっては城でもある。
普段は、おれと、ジル、ウル、ヨル、それにアイラとシエラが住む。
トイレは共用で、他の住宅にいても王宮のトイレを使うようになっている。いろいろな理由でそうしていた。
二軒目の住宅は、アコンの木を3本使った、スタンダードタイプ。
これ以降は同じ形で造ってある。3本の木の中央には、竹板で造ったバンブーウッドデッキが三段重ねになっている。1段目が3メートル、2段目が6メートル、3段目が9メートルの高さだ。3段目は晴れていれば床だが、雨が降れば屋根となる。3本のアコンの木の樹上空間も、それぞれ屋根が設置されていて、利用できる。
部屋数は晴れれば6、雨なら5だ。今は、ジッド、ムッド、スーラの親子とエランが住んでいる。
三軒目の住宅は二軒目と全く同じ造りだ。ここは、今、いわば、後宮。まあ、要するに、おれが、アイラを誘ってナニするための家だ。どの部屋でしているかは・・・気分次第だが。
もし花咲池の村から移住してきて人口が増えたとしても、空き部屋はまだある。慌てて五軒目を建設する必要はない。
しかし、そこまで寒くはならないとしても、冬には備えなければならない。
だから、アイラとジッドという肉体系部隊を中心に、大邸宅の中心にあるアコンの木の幹に穴を開ける計画が始動した。
大牙虎の牙の先端をアコンの幹に押しつけて、石でたたく。大牙虎の牙なら、アコンの幹を削れる。
『神界辞典』で調べて、アコンの幹は中が空洞になっているということは確認できている。幹がどれくらいの厚みがあるかは、穴を開けてみないと分からない。
アイラには地上からの入口となる穴を、ジッドには6メートルのバンブーデッキ2段目との出入り口となる穴を、おれは3メートルのバンブーデッキ1段目との出入り口になる穴を開けるように奮闘していた。
この作業は、1日約2時間、他のメンバーも手が空いている時は手伝いながら、筋トレ代わりに行われることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます