第21話 女神との相談があまり必要なくなってきた場合(1)



 アコンの村に戻ったジッドには、途中、立ち寄ったダリの泉の村のことを話してもらった。


 生存者はいないこと。

 骨は、かつておれがオギ沼の村でやったように、ダリの泉に沈めたこと。

 大牙虎の骨が四体分、あったこと。

 頼まれた通り、牙を回収してきたこと。


 分かっていたことではあったが、ノイハも、セイハも、クマラも、アイラも、シエラも、複雑な思いを抱いて、受け止めた。






 みんなが作業に戻った後、おれはジッドと二人で話した。


 ジッドが回収してきた使えそうな道具の中に、オギ沼の村と同じで、やはり銅のナイフがあった。ダリの泉の村からは二本、銅のナイフが手に入った。


 この世界の「金属」について、知っておきたかった。


「ジッドは、このへんの村が、どこから銅のナイフを入手したのか、分かるか?」

「大草原の民から、だな。何年かに一度、交流して、いろいろなものを交換しているはずだ。銅の武器は貴重なものだから、それこそ、大角鹿の角や毛皮とか、かなり珍しい大森林の産物と交換したはずだな」


「大森林の周縁部では、金属加工はしていないのか?」

「・・・オーバは、物知りだな。大森林の周縁部の、虹池の村、オギ沼の村、ダリの泉の村、花咲池の村では、金属加工はしていない。大草原の民も、金属加工はできない。大草原のさらに向こう、スイレン王国の辺境都市アルフィまで行けば、やっているだろうけれど」

「スイレン王国、辺境都市アルフィ、か」


 大草原のさらに向こうには、王制の国があり、都市があるという。


「ジッドは、行ったことがあるのか?」

「いや、ない。聞いたことがあるだけで、そういう機会はなかったな」

「そうか」


 いつか、大草原の向こうまで、行く機会がおれにはあるのだろうか。


 まあ、まだ、アコンの村で、みんなが安心して暮らせるという状況には届いていないのに、そんな遠くの世界に憧れている場合でもないだろう。


「指示通り、ロープはオギ沼が見える範囲で一番奥だと思える木まで結んだ。まあ、今のところ、おれにしか分からないだろう。いや、サーラがそういう気で考えていたなら・・・」

「サーラは、そういう気が回らないだろうな・・・。花咲池の村が大牙虎に襲われるとなったら、ジッドはどうする?」

「どうもしない。そのためにエランをここに残すようにしたんだからな。オーバも、サーラのことは忘れてくれていい」


 おれは、冷たく割り切っている。

 というか、おれよりも、アイラやクマラの方がよっぽどサーラに同情している。


 まあ、あの話し合いの時に、サーラだけおれにふられてざまあみろとでも思うような女性だったら、こちらからお断りしたいくらいだ。

 あの二人からサーラを助けてほしいと言われたら、全力を尽くすしかない。


 とりあえず、今回のジッドの旅で、アコンの村から大森林外縁部のオギ沼の近くまでのロープの道はつないだ。

 それを知っていて、その気があれば、アコンの村へと迷わずに来ることが可能になったのは大きな成果だとしたい。


 ここにいる者も、そのロープをたどっていけば、大森林を抜けてオギ沼へたどり着けるはずだ。


 戻るのは簡単ではないように、オギ沼が見えるぎりぎりくらいにしてもらっている。無関係な者がここまでくるのはあまり好ましくない。


 おれたちの村のツリーハウスは壁がない。それは、この大森林が壁代わりだからだ。


 気候は亜熱帯で今はその中でも真夏くらいの時季だ。


 壁があったら暑くてやってられない。しかし、壁がない、塀がないというアコンの村の状態は、外敵に対して無防備だ。大牙虎は、木のぼりができないから、今の状態で対処ができるというだけだ。


 これからのことを考えたら、そろそろさらなる工事に取り組むべき時がきたのかもしれない。






 食料関係は、革命期がきたのかもしれない。


 アコンの果実で森小猪が繁殖期に突入することが判明したため、ジッドが戻る前から、ノイハ隊長の指揮下で森小猪捕獲大作戦が実行に移されていた。

 午前中を二日間、狩りにあてた戦果は、森小猪のメスが六匹、オスが七匹だった。


 一時的にメスだけ、オスだけに分けて囲っておいたが、メスの数だけ新たな囲いが完成したら、オスとメスを一匹ずつ、同じ囲いに入れて、ようすを見た。


 余ったオスは、解体して、焼肉と化した。草食、虫食のせいか、腸がきれいで、ついにホルモン焼きが実現した。

 大牙虎とはちがう美味しさがそこにはあったが、残念ながら肉の量は大牙虎の半分以下だった。


 つがいになるよう閉じ込めた森小猪たちは、一日待っても、一切、交わらなかった。お互いに無視しているかのような、ただの空気かのような、それぞれが勝手に土を掘り返しているだけ。


 次の日から、アコンの果実を投入。アコンの果実は、一日ひとつという制限を、一日ふたつへと、六日間だけ追加で収穫するようにして、森小猪の繁殖に使った。囲いの中にアコンの果実を放り込み、棒や石で割ってみた。


 そうすることで、アコンの果実の中のコハク色の液体や、ヨーグルト状の液体を飲んだ森小猪たちは、途端にところかまわず交尾をはじめるようになっていった。


 実験として、一日、一か所ずつ、アコンの果実を投入していった。

 分かったのは、投入してから四日間から五日間は、さかんに繁殖行動が行われること、そして、その期間が過ぎると、再び、まるで赤の他人かのように、それぞれが自由に土を掘り返すこと。

 なんてドライな夫婦関係だろう。


 一緒にする意味がないので、竹で新たな囲いをつくり、繁殖行動を終えたオスをそこに集めた。ここから先は、このオスたちには「開墾部隊」として頑張ってもらうことと、少しずつ食料になってもらうことにする。


 メスは一か所一匹で、しっかり土を掘り返しながら、たくさん食べてもらいたい。そして、元気な赤ちゃんを産んでもらおうと思う。


 土兎は三匹ずつ産んだが、森小猪はどうか。森小猪のメスの乳首の数が多いから、多産系の動物であると考えてはいるのだが、どれくらい生まれるのかはまだ分からない。


 たくさん生まれたら、どういう方法で畜産、放牧をしていくのが効率がよいか、真剣に検討して、来年以降の食料計画を立てたい。



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