第17話 女神を心から信じる少女に後押しされた場合(3)
「だから、オギ沼の村が全滅したのも、ダリの泉の村が全滅したのも、わたしのせいなの」
ヨルの涙が止まらない。
誰も、何も言わない。
別にヨルのせいではない。
そんなことは、みんな分かっている。
でも、ヨル自身がそう思う限り、それはヨル自身の中で真実となるものだ。
まあ、ヨルの言葉通りだったとすれば、そもそも大森林の奥地から大牙虎が出ていったのは、おれが突然現れたせいなので、泣いて謝らなければならないのはおれの方だろう。
おれは、そのことを自分からみんなに告白するつもりは一切ないけれどね。
その時、口を開いたのは、ジルだった。
「オーバ。この村は大丈夫。女神さまが守るって言った。だから、スーラのお父さんを助けてあげて」
「ジル・・・」
本当にセントラエムが話しかけたのか、それとも、ジルの優しい嘘なのか。
おれ以外に言葉をかけるときのセントラエムの声は、おれには聞こえない。だから、その部分の真実は分からない。
でも、スーラやムッドの気持ちも、ヨルの気持ちも考えて、小さなジルがそう言うのなら。
ジッドを助けに行くしかない。
それに、ジッドの力は借りたいしな。
大牙虎による被害には、おれ自身も責任を感じない訳じゃない。
「分かった。でも、この村を守る準備をしてから、おれは行く。みんな、手伝ってくれ」
まずは小川で、投石用の石集めだ。
大き過ぎず、小さすぎず、樹上から投げ落として、大牙虎に小さくてもダメージを与えられるサイズのものをたくさん集める。
目標としていた二百個の石を集めて、アコンの群生地へ戻る。
樹上に持って上がるのに何往復ものぼったりおりたりしなければならなかったのが大変だったが、籠城戦になればこれが子どもたちでも扱える中心的な武器だ。ただし、バンブーデッキの下に入られたら、狙えなくなるけれど・・・。
続いて、竹の伐採。もちろん竹林までは走った。
いつもより多めに切り倒して、アコンの群生地に運ぶ。
今のメインは細くなっていく竹の先の方から矢を作ること。
作業の人手は余るので、ついでに二分割の竹板も製材しておく。
ノイハの弓の腕なら、大牙虎を追い払うことができると思う。
それから、ネアコンイモの収穫だ。
いつもなら五日に一度、アコンの木一本分の周囲にあるだけを収穫しているのだが、種芋の芽が十分に育っていることもあったので、籠城が長引いた場合に備えて、今回はアコンの木三本分を収穫し、そこに種芋を植え直した。
太さの違う芋づるように使う種芋も、アコンの木の根元に使ったのだ。
折れた木の枝や木片、薪になるようなものは大量に拾ってくる。
水は竹筒全てに満たした。
それから、おれがいない間の活動の確認ときまりをつくった。
子どもたちは全員、木のぼりロープを常備すること。
ツリーハウスの根元以外では基本的に地上で活動しないこと。
どうしても必要があってツリーハウスを離れるときは、年長者がアイラを護衛にして二人で行動すること。
祈り、体操、その他の鍛練と、文字の勉強を必ず毎日すること。
そんなことを話し合って決めた。
おれが戻るまで、または十日間は、基本的に樹上生活をする。
まあ、大牙虎は、今回夜間行動をとっている。
昼間に、うかつなことをしなければ、おれが戻るまでくらいは大丈夫だと思う。
おれは、みんなの見送りを受けながら、お昼前にはアコンの群生地を出た。
出発後すぐは、歩きながらのスキル使用だ。
『神界辞典』でスクリーンを出して固定、『鳥瞰図』で地図を広げて、『範囲探索』で大牙虎の現在地を確認。
アコンの群生地を目指している赤い点滅以外は、大森林の外縁部の草原との境目の森の中にいる。
一方はダリの泉の村と虹池の村との中間地点くらいにある。もう一方は、花咲池の村にかなり近づいたところにある。
もともと、ダリの泉の村から、花咲池の村の方が近いのだから、その差は当然のことなのかもしれない。
昼間は休んで、夜中に動く。
人間とちがって、暗視能力があるからだろう。
だから森の奥へと入ったところにいる赤い点滅も、今は動きがない。
最初の狙いはこいつらだ。
うちの村をターゲットにしたことを後悔させてあげよう。
地図の縮尺を変更して、狙いを定めた大牙虎だけを含む地図にする。
スクリーンは消さずに、『高速長駆』で走る。
どんどん赤い点滅へと近づき、その度に縮尺を変更する。
三回目の縮尺の変更で、赤い点滅が三つあることが判明した。
偵察隊だ。
本隊じゃない。
さらに走って、トータルで約二時間。これ以上縮尺を変えられないというところまできて、止まる。
地図の端に赤い点滅が三つ。そこから最大範囲へ地図を広げて、大牙虎全体を確認。二時間前と変化はない。再び最小範囲の地図にして三つの赤い点滅を確認。
木のぼりロープを使って樹上へ移動。もちろんロープは回収。
『跳躍』スキルで、木と木の間を跳び移り、大牙虎へと近づいていく。五メートルくらいは楽に跳べるから、スピードを考えなければ、けっこう便利な移動方法だ。
大牙虎三匹を目視で確認。
木の根元で、体を横たえて休んでいる。野営の仕方は人間と変わりない。
『対人評価』でチェックする。
名前:大牙虎(固有名なし) 種族:猛獣 職業:なし レベル7
生命力92/95、精神力30/33、忍耐力45/49
筋力34、知力58、敏捷40、巧緻21、魔力15、幸運14
一般スキル・基礎スキル(3)、応用スキル(2)、発展スキル(1)、特殊スキル(1)、固有スキル(0)
名前:大牙虎(固有名なし) 種族:猛獣 職業:なし レベル9
生命力125/130、精神力45/50、忍耐力58/62
筋力45、知力63、敏捷51、巧緻25、魔力20、幸運16
一般スキル・基礎スキル(3)、応用スキル(3)、発展スキル(2)、特殊スキル(1)、固有スキル(0)
名前:大牙虎(固有名:カタメ) 種族:猛獣 職業:なし レベル7
生命力92/95、精神力30/33、忍耐力45/49
筋力36、知力59、敏捷42、巧緻20、魔力15、幸運15
一般スキル・基礎スキル(3)、応用スキル(2)、発展スキル(1)、特殊スキル(1)、固有スキル(0)
カタメがいる。
確か、虹池の村の近くで戦ったときに、逃がした奴だ。
固有名があったので印象に残っていた。
ステータス値をいちいち覚えていないが、レベルが上がっている気がする。
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