第16話 女神との対話で考えてきたことを説明した場合(2)



「つまり、オーバは、わたしたちのスキルを確認するスキルを持っているってことでしょう?」


 やはり、クマラは賢い。


「そうだ。だけど、そのことを誰にも言わないこと。これを忘れないでほしい。もちろん、自分の得意なことも、仲間以外にはできるだけ隠すこと。他の人の得意なこともね」

「しかし、得意なことは、自然と分かることだろう?」


 セイハが言う。「この中におれより上手に土器を作る者はいないんだから、おれは土器づくりが得意ってことは分かってしまう」


「ある程度、そういう得意分野が他の人に伝わるのは仕方がない。でも、それを誰かにわざわざ話さなくてもいいってことさ」

「お兄ちゃんが土器づくりを得意としているのは、お父さんが土器作りを得意としていたから・・・スキルって親子で似たりするのかしら?」


 クマラが首をかしげながら、小さな声で言う。

 おれへの質問という訳ではないようだが、答える。


「身近な人に教えてもらうことは、そのスキルが身につき易くなることだとおれは考えてる。セイハとクマラのお父さんは土器づくりが得意で、セイハも得意だというのは、そういうことだろう。クマラはお父さんから教わったのか?」

「わたしは教えてもらってない・・・」


「あ、だからわたしに、ムッドたちに棒術を教えるように言ったのね」

「教えてもらうことで、スキルが身につくかもしれないからな」

「この前、竹のところまで、走らされたのも、それか・・・」


 セイハがつぶやく。


「がんばる・・・」


 ウルが短く、でも、強く、決意を言葉にする。

 ジルもうなずいている。


「そして、そのスキルっていうのは、同じものを持っていても、その人、その人で、差があるんだ」

「・・・お兄ちゃんもお父さんも土器づくりのスキルを持っているけど、お兄ちゃんよりも、お父さんの方が土器づくりが上手ってこと?」


「そうだ。それは、スキルレベルの差だ。得意なことが同じだったとしても、そこに差があるのは当たり前のことだろう? スキルは慣れて、使いこなしていくことで、より力を発揮する。そうして高まっていく。努力を続ければ、スキルレベルはどんどん高くなる」

「スキルレベル、ね」


 アイラが考え込む。「得意なことをどんどんやっていけば、もっともっと得意になっていくってことよね」


 年少組は真剣に聞いている。分かりやすく話したいが、それにも限界はある。でも、これからの毎日でやること全て、自分のためだと理解して行動してほしいから、伝わらないこともあるかもしれないが、しっかりと話していく。


「スキルを身に付けて、スキルレベルを高めれば、生き抜いていける可能性も高まる」

「しかし、土器づくりが得意だってだけでは、大牙虎とは戦えないと思うが・・・」


 セイハが自己分析をして言う。

 まあ、その通りだ。


 だから、いろいろな訓練が重要になる。

 できるだけ、たくさんのスキルを獲得させるために。


「もうひとつ、大切なことがある。それは、レベルだ」

「レベル・・・スキルレベルとは、違うものなのか?」


 セイハがこの話にとても喰いついている。いい傾向だ。


「少し、ね。おれたちは、いくつかのスキルを持っていて、その数は人それぞれだ。そして、その人が持つ、スキルの数が、その人のレベルということになる」

「スキルの数が、レベル・・・」


 ジルが復唱する。


「レベルの違いは、その人の生命力、精神力、忍耐力の差となって、現れる。スキルがひとつ、という人のレベルは1とすれば、生命力は10という感じになる。スキルが二つある人は、レベル2になって生命力が20というように増えていく。スキルが三つある人は、レベル3になって生命力は30という感じになる」


 おれはレベルについてそのまま説明を続けた。


「レベルが高くなることは、生命力を高めるのだから、生きていくために必須となる」

「それで、毎日、おれたちにいろんなことをさせていたんだな」


「そういうセイハは、あんまりやらないけどな」

「うっ・・・」

「お兄ちゃん・・・」


「毎日、拳法の修行をしたり、文字を書いたり、走ったりするのは、全てスキルを手に入れるため。スキルさえ手に入れば、それがレベルを高め、生命力を高める。そして、生き抜くことができる」


 おれは全員をゆっくりと見回した。

 みんな、真剣にうなずいた。


「だから、これからは、体操も、修行も、できるだけ真剣に頑張ってほしい」

「はい!!」


 元気良く、ジルが返事をした。






 それからの訓練は本気度がこれまで以上だった。

 やはり、説明して正解だった。


 これまでとは違う竹林まで走っても、セイハは文句を一言も言わなかった。


 一生懸命、竹を切り倒す。


「これも、スキルが身につく可能性があるからな」


 そういうだけで、どんな作業にも力が入るようだ。

 こっちの竹林はまだまだ豊富に生えているので、たくさん切り倒す。

 そしてそれを村まで運び、分割する。


 新居の一段目を完成させ、小川に移動する。


 かまどを子どもたちが用意して、クマラとアイラがイモスープの準備をする。火起こしはセイハとノイハがやった。


 上流の滝に移動して、二分割して節を削った竹の水道を設置していく。


 急流にならないように、地面に突き刺した竹の高さは少しずつ下げている。





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