第14話 女神が見ている前で一線を越えてしまった場合(2)



 重傷過ぎる!


 おれは慌てて、患部に手を触れる。そして、『神聖魔法:治癒』を連発する。


 右足の傷、ふさがった。

 左足の骨折、つながった。

 右脇腹、もう大丈夫。

 右腕の骨折、完了。


 ステータスの怪我という状態は消えるが、衰弱と昏倒はそのままだ。


 引き続き、『神聖魔法:回復』を行う。

 生命力が5ポイント回復するが、衰弱と昏倒が消えない。


 もう一度・・・。






 名前:アイラ 種族:人間(ダリの泉の村) 職業:戦士

 レベル5 生命力13/50、精神力9/50、忍耐力6/50

 筋力29、知力21、敏捷27、巧緻27、魔力19、幸運14






 アイラのステータスから状態異常が消えた。


 どうやら、おれの『神聖魔法:回復』は、一度に5ポイントしか生命力を回復できないようだ。


 大きな雨音に消されてしまいそうな、二人の小さな小さな寝息が聞こえた。


 どうやら、命の危機は去ったらしい。


 おれはかばんから大牙虎の毛皮を取り出して、そっと二人にかけた。雨とはいえ気候は熱いが、消耗して衰弱の状態にあった二人の身体は冷え切っていたのだ。


 同じ木に、角度を少し変えて、別のテントの一方を結び、もう一方を地面へと斜めに伸ばして、重しの石を置いた。


 土器と石を取り出して、井型に組んだ石の上に土器をのせる。


 ネアコンイモを小さく輪切りにして、皮をむいて、土器に放り込んでいく。


 大牙虎の干し肉は、できるだけ小さく刻む。量は多めでも、形は小さくすることが大切。


 ・・・以前、よもぎを集めていましたね。それと、キシメジもあったはずです。薬効があるので、材料に加えてあげましょう。


「小さく切る方がいいかな」


 ・・・そうですね、その方がいいでしょう。水は多めで、イモをとにかく柔らかく。衰弱の原因は怪我だけでなく、空腹も重なっていたようです。


 セントラエムのアドバイスに従って、よもぎをちぎって追加。キシメジも、ばらばらにして土器の中へ。岩塩を削って、獣脂を少し。水袋から、水はたっぷり。


 土器の周囲にかばんから取り出した薪と竹炭を並べ、獣脂をぬった小枝と、枯れ葉を添える。

 火起こしはすぐにできた。やはりこのかばんは便利だ。この雨の中で燃料を探していたら、いつまでたっても火などつかないだろう。


 左を向いて、二人のようすを確認する。

 疲れきってはいるようだが、顔色はさっきまでとは違うものだ。


 しかし、このアイラという女性は、レベル5か。


 これまで会った人たちの中で、ジッドの次にレベルが高い。しかも、職業が「戦士」というのも驚きだ。


 大森林外縁部の水源に暮らす人々は、森の恵みを糧に平和な暮らしをしていたはず。村々が争っていたことなどなかったようなのだが、戦士の役割とは何だったのだろう。


 しかも、ダリの泉の村の出身だ。


 ノイハたちの話では、ダリの泉の村は主戦派が中心で、大草原へと迂回して虹池の村へと逃げたセイハやクマラと、他にも花咲池の村へ逃げた者がいる、ということだった。

 方角から考えると、この二人は花咲池の村へ逃げたはず。戦士が逃げる、ということも違和感がある。まあ、レベル5で大牙虎に対抗できるかどうかは分からないけれど。


 スクリーンで地図を開いて、大牙虎の動きに変化がないこと、アコンの村にも変化がないことを確認した。ついでに、自分のステータスを見ると、精神力と忍耐力が100ポイント以上も消耗していた。


 神聖魔法を連発したし、対人評価や鳥瞰図、範囲探索もかなり使ったからだろう。


 ・・・それにしても、スグルのスキル獲得の速さは尋常ではありません。


「そうかな、久しぶりだった気がするけど」


 ・・・その久しぶりという感覚が、あなただけのものだと思います。さっきアコンの木を離れて、すでに三つのスキルを連続で獲得しています。転生した時、レベルは36でした。あれから一か月半、今はレベル45です。私たち下級神が聞いていた話では、あり得ないことです。


「そう、かもね。まあ、今まで会った中で、一番レベルが高いのはジッド。それでレベル8だった。そう考えたら、確かにおれのレベルは異常に高い。それは今まで話し合ってきたことだし、納得もできるよ。だから・・・」


 ・・・実はスキル獲得には、基礎スキルが重要だ、ということでしたね。


「そう。それで、セントラエムが言ってた通り、上級神が言っていることは、やっぱりおかしい気がするよ」


 ・・・転生時、基礎スキルや応用スキルを獲得させないように仕向けているという、私の考えに賛同してくださるのですね。


「転生者のレベルが守護神のレベルアップにつながるから、レベルアップさせないように、固有スキルや特殊スキルを選ばせている、というのは、あり得るだろうね。


 そもそも、固有スキルと特殊スキルを選んでレベル4で転生したとしたら、おれの『鳥瞰図』は忍耐力を16も消耗するんだ。


 レベル4だったとしたら1日に二回使えば限界だよ。


 それじゃ、使用回数が制限されて、スキルレベルも上がらないし、慎重にスキルを使わなければ生きていけないはずだ。まあ、その方が人間らしいとは思うけど」


 ・・・スキルによっては、忍耐力だけでなく、使うことで生命力や精神力を消耗するものもありますね。まあ、何も消耗せず、常時発動しているのが基礎スキルや応用スキルに多いのも確かです。


「単純に生きていくだけなら、便利な固有スキルや特殊スキルよりも、レベルが高い方が絶対に有利なはずだしね。そう考えたら、固有スキルよりも取れるだけ基礎スキルや応用スキルを選んだ方が、転生後の生存確率は高くなるはずだからね」


 土器の中が沸騰して、ぐつぐつと煮えてくる。


 いい匂いがする。


 おれはセントラエムとの話を切り上げて、そっと目を閉じた。





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