第13話 女神と相談して、人命救助に向かった場合(3)



 東階の下で雨を避けて、切り倒しておいた竹を四本分、四分割にしてから、芋づるでしばってまとめる。


 クマラと二人でその竹板を持って、ウサギとイノシシのところへ急ぐ。竹四本分の竹板はクマラにはかなり重そうだ。


 雨は冷たいが、基本的には熱い気候なので、少し降られるくらいならかえって気持ちがいいもんだ。


 ウサギもイノシシも、少しでも雨に濡れないように、囲いのすぐそばに寄っていた。クマラが気づいてくれて良かった。四分割にした竹が、屋根になって雨よけになるように、囲いの上に斜めに並べていく。竹板の下に、ウサギもイノシシも移動してくる。


 今は、とりあえず上にのせただけなので、晴れたら、きちんと雨よけを設置しよう。


 四か所とも、竹板を置いたので、アコンの群生地に戻ろうとしたところ、空が明るく光った。


 雷だ。

 悲鳴をあげたクマラが抱きついてきた。


 音は遠い。

 そっと抱き寄せて、木蔭に入る。


「大丈夫だ。音が遠い時、雷も離れているはずだ」


 クマラはおれから離れない。


 また、明るく光った。

 クマラの腕の力が強くなる。


 おれは、さっきよりも少し強く、抱きしめる。


「怖いか?」

「うん・・・」

「もう少し、我慢すれば雷も離れていくから」

「うん・・・」


 雨がその強さを増す。

 ごろごろという音は続く。


 一分も経ってはいないとおもうけれど、一瞬強くなった雨が、すぐに弱まっていく。


 おれは、クマラを抱きしめていた腕をゆるめて、その頭をなでた。


「よし、今のうちにアコンの群生地に戻るぞ」

「うん・・・」


 おれが走り出すと、クマラもその後を追いかけてきた。


 ツリーハウスでも、雷で大騒ぎだったようだ。

 ここに転生してきてから、自然の偉大さばかり、感じてしまう。


 雨と雷くらいで今はまだ済んでいるが、これが台風とかになると、本当にどうなってしまうのか、想像もつかない。ある程度、覚悟を決めておかなければならないだろう。


 東階の二段目に集まったみんなは、おれとセイハ以外で女神へのお祈りを始めた。ヨルは初めてのお祈りということになる。


 その後の体操からは、一段目の下に降りさせて、いつも通り、やらせた。拳法修行も、同じようにやらせた。ノイハとセイハは参加していない。セイハは、ノイハに頼んで、ハンモックを体験していた。やれやれ、これではどっちが子どもなんだか。


 あとは、それぞれ、休息をとるように伝えたのだが、ジルとウルが文字の練習を始めて、他の全員がそれを取り囲んだ。

 一人一人の名前をカタカナ、ひらがなで書いていくジル。ジルの書いた字を書いて練習するウル。ムッドとスーラがすぐに真似をして、自分の名前を教えてもらって、喜んでいた。

 ノイハはすぐにあきて上へ行ったが、セイハは一緒になって字を書いていた。ヨルやクマラも興味をもったので、おれもアドバイスをしながら、近くで見守っていた。


 それぞれが、お互いの名前をカタカナで書けるようになった頃合いで、おれは食事の準備に行った。

 調理室は、おれが使うつもりだったけれど、クマラとヨルが手伝いたいというので、ついて来させた。アコンの木を火事にしないためにも、安全な使い方を覚えてもらわなければならない。


 調理室のかまどは、一番下に大きめの平石がふたつ、並べられている。これが灰受けになる。燃え落ちた灰で木が焼けないようにするためだ。そこに、少しだけ、うっすらと水を張って、さらにいくつかの川石をおいていく。

 その川石の上に薪と竹炭を並べ、獣脂を十分に塗る。これで燃料は濡らさず、燃え落ちた灰は消火できる。その上に別の平石を置いて、かまどの準備はできた。


「すごい。こんなことができるなんて。灰は平らな石の水の上に落ちるのだから、これで、木の上で火を使っても、燃えないのよね」


 クマラがこの仕組みに納得して、ヨルに説明している。


「もちろん、火を強くしすぎないようにしないとだめだね。じゃあ、竹筒に干し肉とイモのスープを作る準備をして、火を起こそうか」


 平石の上で煮るには土器よりも竹筒の方が熱しやすい。土器は直火で煮込めるのだが、土器を川石では安定させられないから、仕方がない。


 ただし、直火ではないので、石が熱くなって、竹筒が温められるのはさらにその後だ。薪と竹炭をタイミングよく追加していく必要がある。


 おれたちはかまどを囲んで座り、おれがクマラの稲作、畑作、牧畜に関する質問に答えるという形を中心に、いろいろな話をした。


 食後の『鳥瞰図』での範囲探索で、虹池の村に異変はなく、大牙虎の群れもダリの泉の村から動いていない。ところが、西の森の中にいた黄色い点滅に異変があった。「怪我」「衰弱」という表示が加えられていたのだ。


 黄色は敵でも、味方でもない、存在、ということらしい。


 今は、人間と大牙虎を意識して探索しているのだから、この黄色は人間、のはず、だ。昨日の時点では狩りに入ったのだろうと思っていたが、かなり奥深い森の中にいる時点で、何か事情を抱えているのは間違いない。


 雨の中、動くのはかなり難しい。

 しかし、知ってしまった以上、放っておくのも、後味が悪い。


 おれだけが全力で移動すれば、今日中に行って、戻っては来られる。ただ、助けて、連れ帰るとなると、今日中とはいかないだろう。


 大牙虎の群れは、まだ、ダリの泉の村から動く気配がない。


 ジルたちがアコンの群生地でツリーハウスにいて大人しくしていれば、特に問題はなさそうだ。





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