第12話 女神のアドバイスで周辺を探索した場合(2)



「ネアコンイモは、まあ、植えてからだいたい一か月で十分な大きさに育つ。ただ、食べるためだけじゃなく、その芋づるを利用するために育てている分は、イモが小さくなる。この人数だと、十分とは言えない」

「やっぱり、ウサギとイノシシがいいんじゃないか?」


 ノイハが土兎と森小猪にこだわる。肉好きなのか、職業が狩人となっているからなのか、どっちなんだろう。


「実は、ウサギとイノシシも、育てられないかと、考えてるんだが」


 これに反応したのは、またしてもクマラだった。


「土兎と森小猪も育てられるの?」


 目を輝かせているが、クマラの声はとても小さい。


「やってみないと、分からないけれどね」

「まずは、生け捕りにすることから、か。ノイハなら、できるんじゃないか?」


 セイハがノイハに話を振る。


「おう、なんとかやってみよう」


 ノイハが立ち上がる。


 行動が速過ぎるって。


「待て待て。まだ準備ができてないから、明日以降、相談しながらやっていこう。それに、だ。ノイハがどこかに狩りに行って、大牙虎と出会ったら大変だろう。今日は、虎肉とイモのスープを食べられるし、明日までは肉も安全だ。それから、干し肉づくりも忘れずにやる。食料確保はおれたちの重大な問題だけど、半年以内に解決できれば十分だ」

「教えてくれたら、頑張るから」


 瞳には強い決意が見えるけれど、声が小さいクマラ。


「ジルも手伝う」

「ウルも!」


 難しい話には参加しないが、決意表明はできるジルとウル。

 一緒になって立ち上がるムッドとスーラ。


 いいな、仲良くできそうだ。


 解体した虎肉は、ハツとレバーを一番先に食べた。それ以外は、今日は一人二枚までで、イモのスープを飲んだ。スープは好評だった。特にヨルの表情が、美味しさにゆるんだ。


 明日用の焼肉を年長一人六枚、年少一人四枚、ビワの葉に準備しておく。

 煮炊きができそうな土器をオギ沼の村で手に入れたので、薄切りにせず、ある程度の大きさのブロック肉も用意しておく。

 明日から煮込んで、明後日の食事になるだろう。残りは干し肉にできるように準備する。


 下流で、腸を裏返しにして、丁寧に洗い流す。焼いて食べようと思っていたが、洗い流した糞の汚れを見て、断念した。牛ホルモンの下処理って、どうやってんだろ。肉食じゃなくて草食だから、そこまで糞の汚れが気にならないのかもしれない。今後は、肥料にしていく工夫を考えたい。


 舌を焼いてみたところ、これは好評だった。虎タンだ。


 頭骨を割って、中身、つまり脳を食べようと、ノイハが言い出したが、賛否両論となった。

 とりあえず、ということでノイハが頭骨の中身を取り出したが、その見た目でおれはアウトだった。

 ノイハは直火で脳を焼き、セイハと二人で食べた。クマラも少し食べたが、美味しくない、とすぐに止めた。セイハの結論は、食べられるけれど、わざわざ食べなくてもいい、ということだった。ノイハは食べられるのなら食べるべきだと主張した。


 ノイハが、ここまで食べるところがあるんだから、大牙虎を育てるのはどうだ、と冗談を言うと、セイハが、あんな怖ろしいものを育ててどうする、と真剣に答え、みんなが笑った。


 こうして笑えるのも、生きていて、なおかつ、食料に困っていないから、ということだろう。


 合間の時間には、倉庫から持ってきた材料を使って、みんなでハンモックを作った。


 土器がほしい、というおれのつぶやきを聞いたクマラが、お兄ちゃんは土器づくりが得意だよ、と教えてくれた。

 セイハが、どんな土器がほしいのか、と聞くので、いろいろと注文をつけてみたら、出来るというので、近いうちにやってもらうことにした。


「任せてくれたら、土器づくりはやっておくけれど?」

「それはありがたいが、おれたちの行動は、基本、団体行動でいく」

「へ、なんで?」


 間抜けな声を担当するのはノイハだ。


「大牙虎・・・」


 クマラがつぶやく。


「ああ、そうだな、その通りだ」


 クマラのつぶやきにセイハが納得する。


「セイハ、どういうこった?」

「大牙虎と戦えるのは、オーバだけだ。ぼくたちがそれぞれで行動して、大牙虎に出会ったら、ひとたまりもない。オーバから離れたところで大牙虎に襲われた時、たとえ木の上に逃げられたとしても、その後、助けに来てもらえるとは限らないだろう?」

「そっか・・・」


 実際には、『鳥瞰図』と『範囲探索』のスキルで、ある程度安全は確保できるのだが、それにも限界がある。


 ノイハも納得して、この話は終わった。






 食後の片付けも済んだので、滝へ移動した。


 いつものように、おれは服を脱いで、滝に入る。久しぶりの滝シャワーは最高だ。


 ジルとウルも、いつものように続いてくる。ムッドとスーラも一緒だ。


 おれもおれもと、ノイハもやってきた。さらに、セイハも一緒に滝へ入った。


 水浴びを終えて戻ると、クマラとヨルが恥ずかしそうにしている。思春期か? クマラはともかく、ヨルはちょっと早い気がする。おマセさんなのか?


 服を洗って、ざばっと振って水を切り、身に付ける。


「おれたちがいない間に、水を浴びといで。子どもたちを頼むね」


 ノイハとセイハが戻ったので、そう一声かけて、一緒に滝を離れる。なんで? みたいな感じのノイハは引っ張って連れていく。


「クマラは・・・」


 セイハが何かを言いかけて、おれを見た。


「ん?」

「いや、なんでもない」


 何かあるなら、言えばいいのに。


 セイハの態度が少し気になったが、もともと、いろいろな課題を抱えたタイプなのだと割り切って考えることにした。





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