第9話 癒し系女神がいるから大きな怪我でも大丈夫な場合(3)



 三日目の昼に、『範囲探索』で赤い点滅が出た。三つあるから、また三匹一組か。


 反応は森の中、草原との境目だ。

 おれたちの目的地でもある、虹池の村の近く。


 目視範囲ではないから、もう少し進んでから、ジルたちを樹上に避難させよう。


「ジル、ウル、ノイハ。ロープを用意しておいて。木のぼりの準備だ」

「・・・いるの?」


 ジルが声を落として、聞いてくる。


「ああ、大牙虎が、三匹、いるようだな」

「・・・こっち方面にもいるってのは、予想外だったな」


「まあ、元々、森の中にいた連中だ。いても不思議じゃないよ」

「そうだな」


 ノイハは自分で立てた予想が外れたので、悔しそうだ。


 赤い点滅に動きはない。

 こちらにはまだ気づいてないのだろう。


「しかし、オーバはなんで、そんなにカンがいいんだ?」


 カン?

 ああ、そうか。


 ノイハたちには、スクリーンが見えない。

 おれがスキルで敵を見つけているなんて、考えられないことだろう。


「さあな」


 おれは、はぐらかして、再び歩き出す。

 ジルたちも、警戒しながら、ついてくる。


 足音はできるだけ立てない。

 自然の中を歩くのだから、どうしても音は出てしまうけれど。


 しっぽが見えた。

 頭隠して、尻隠さず、ですか。


 手を広げて、三人を止まらせる。

 距離、およそ二十メートル。


「木にのぼれ」


 うなずいたジルがすぐに行動を開始する。


 ジルとウルはすいすいと樹上へ。


 ノイハも頑張るが、この二人ほどの速さはない。でも、前回戦った時は、のぼれずに危険な状態だったことを思えば、干し肉の旗を持ったままのぼれるんだから成長したと言えるだろう。


 タイガースも気づいたようで、こちらを向き直る。


 奇襲は断念せざるを得ない。

 まあ、いい。真っ向勝負だ。


 スクリーンは消す。視界を確保。

 『対人評価』で強さをチェック。






 名前:大牙虎(固有名なし) 種族:猛獣 職業:なし

 レベル6

 生命力74/78、精神力24/26、忍耐力38/43

 筋力32、知力49、敏捷38、巧緻19、魔力12、幸運11


 名前:大牙虎(固有名なし) 種族:猛獣 職業:なし

 レベル8

 生命力103/110、精神力35/40、忍耐力52/56

 筋力39、知力58、敏捷47、巧緻23、魔力18、幸運15


 名前:大牙虎(固有名:カタメ) 種族:猛獣 職業:なし

 レベル6

 生命力56/78、精神力14/26、忍耐力22/43

 筋力31、知力51、敏捷37、巧緻18、魔力13、幸運13






 うおっ、と。


 固有名ありだ。カタメだと?

 確かに、右目に刀傷みたいなものがある。

 そのまんまじゃん。


 能力値も、筋力とかまで分かるようになった。この数値で、おれが負けるなんて考えられない。しかし、まあ、獣のくせに一番高いのが知力って、無駄じゃねーか。


 ・・・また、レベル8に、レベル6が二匹セットか。


 ぶちのめすのは、一番強いレベル8。


 そんで、後は逃げていく、と。


 こっちに突進してきたので、身構える。でも、適度に身体の力は抜いている。


 こいつらは、いつも二、三メートル手前で跳びかかって・・・うわっ!


 五メートル以上前で、レベル8が跳び上がる。今までとは違う、高さと距離。


 まずい!

 慌てて、前に低く飛びこみ、前回り受け身でそのまま立ち上がる。


 すぐ、レベル8に向き直る。


 左肩が熱い。

 左腕が上がらない。

 血の匂いがする。


 後方、左右にレベル6がいる。左がカタメか。


 囲まれた。


 油断していた。いつも通りなんて、考えが甘かった。前回だって、『威圧』スキルを使ったやつがいたというのに。


 こいつはおそらく、『跳躍』スキル持ちだ。すごいジャンプ力だった。


 爪で肩をえぐられた。


 油断のツケは、高い支払いになった。

 今まで、運が良かっただけだ。


 しかし、だからといって、負けるつもりはないし、負ける訳がない。

 なぜなら、おれには最強の味方がついてるんだから。


「セントラエム! 頼む!」


 ・・・はい。まずは『治癒神術』から。


 おれは青い光に包まれ、肩の怪我が消えてなくなる。


 ・・・『回復神術』も使います。


 今度は緑の光に包まれ、生命力が回復していく。


 ・・・『神力付与』で支援します。


 セントラエムがそう言うと、淡く、白い光が、おれの全身を包む。

 ダメージは全回復の上、身体は強化された。


 大牙虎たちも、驚いているように見える。


 残念だったな。

 もう、油断はしない。


 三匹同時に跳びかかってくるが、レベル8だけ、高さが違う。


 合わせればいいものを。


 右、後方のレベル6に向き直りながら、全力の回し蹴りで蹴り飛ばして、もう一匹のレベル6にぶつける。


 レベル6が二匹もつれて倒れる姿を確認しながら、蹴り飛ばしたやつがいたところに身をかわして、レベル8の爪と牙をスルー。


 レベル8の着地に合わせて、距離を詰め、左右の正拳突きで六連打。


 少し下がったレベル8を一歩追って、そのまま左前足を踏むと同時に左前脚の膝を蹴り砕く。


 なんか、うめいてるけど、そのままレベル8の後方へ抜ける。


 のたうち回ってやがる。間違いなく骨が砕けた。女神の癒しで完治した左肩の恨みだ。


 しっぽを引っ掴んで、ぐるんぐるんと振り回す。


 跳びかかろうとしたレベル6が飛び出せずに腰を引く。


 そのまま回しながら、木にレベル8の側頭部をがつん、がつん、がつんと三度ぶつけて、手を放す。


 腰を引いていたレベル6が、レベル8を避けて横へ。


 避けたところには、もうおれが詰めている。


 前蹴りでのどの奥のあたりを思い切り蹴り上げ、浮かび上がった大牙虎の腹部に、渾身の右ストレート。


 もう一匹のレベル6が、急加速して逃げていくのが見えた。カタメだ。


 木に背中をぶつけ、その反動で頭もぶつけた名無しのレベル6が、落ちる。


 その首を踏み砕く。


 左肩の怪我で消えていた『対人評価』を再度使用する。






 名前:大牙虎(固有名なし) 種族:猛獣 職業:なし

 レベル6 状態:麻痺

 生命力5/78、精神力24/26、忍耐力38/43

 筋力32、知力49、敏捷38、巧緻19、魔力12、幸運11


 名前:大牙虎(固有名なし) 種族:猛獣 職業:なし

 レベル8 状態:麻痺

 生命力14/110、精神力30/40、忍耐力48/56

 筋力39、知力58、敏捷47、巧緻23、魔力18、幸運15






 レベル6の生命力はカウントダウン。

 4、3、2、1、0。

 一匹、倒した。


 さて、状態が麻痺でも、もう油断はしない。

 かばんを開けて、木のぼり用のロープ石を取り出す。


 ぐるんぐるんと振り回して、石を回転させる。

 少し離れたところから、がつん、がつん、と繰り返し、レベル8に石をぶち当てる。

 生命力が0になるまで。


 今回も勝利した。


 油断のせいで怪我をしてしまったが、終わってみれば、やはり圧勝だ。


 ・・・いや、油断はもうしないよ?


 『神界辞典』、『鳥瞰図』、『範囲探索』で、カタメの赤い点滅が西へと消えていったのを確認。


 レベルの高いやつを確実に仕留めることで、やつらの戦力を削ぐ。


 最終的には、レベルの低いやつを少しだけ生かしておく。


 そんで、適度に繁殖して増えたら、またレベルの高いのを仕留める。


 もちろん、虎肉を確保するためだ。


 まあ、おれが仕留めたのはまだたったの五匹だけどね。全部で二十以上はいるらしいし、後、十匹は仕留めないと。


 木から大慌てで下りてきたジルがおれに飛びつく。


「オーバ! 痛い? 大丈夫?」


 かわいい子だ。

 おれはジルの頭をなでる。


「大丈夫だよ、ジル。すぐに女神さまが傷を癒してくださったからね」

「・・・よかった」


 ジルが安心したようにつぶやく。

 ウルもジルの横に立つ。ウルの頭も優しくなでる。

 下りるのがこの子たちより遅いノイハも、おれのところにくる。


「・・・あれは、女神さまの癒しの光だったのか。今度からはおれも、まじめに祈りを捧げよっかな」


 おい。

 昨日も、今日も。


 セントラエムへの祈りはまじめにしてなかったのか。


 ま、それもノイハらしいか。


 おれは、倒した二匹の大牙虎をかつぐ。


「さあ、行くよ。虹池の村は、すぐそこだ」


 おれたちは、再び歩き出した。


 この後、おれは、自分自身の慢心と油断を後悔することになるとは考えてもみなかった。


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