第9話 癒し系女神がいるから大きな怪我でも大丈夫な場合(2)



 まだ問題があるのか・・・。


 皮の次は、赤身に少し脂肪分を残しながら、皮下脂肪を削り、竹筒に詰め込んで保存する。

 獣脂は、食事の隠し味にしたり、熱した平石に肉が焦げつかないようにしたりするだけでなく、着火剤にも、道具作りにも使える優れ物だ。

 完全に赤身を露出させると、肉が傷みやすくなる、気がして、少しは残すようにしている。


「オギ沼の村の前に、東にある、虹池の村が襲われたのか、襲われてないのか。それが分かるといいんだが・・・」

「ここから東に、村があるのか?」

「ああ、そうだ」


「次に狙われるのは、西の、花咲池の村という可能性が高い。知らせなくていいのか?」

「知らせてやりてーけど、それにはあいつらが居座ってる可能性がある、おれの村の近くを通らなきゃならん。それは、おれたちの命が危ない」


 確かに。

 その通りだ。


 話を聞きながらも作業の手は止めない。

 獣脂を削り取った後は、ある程度、肉を切り分けておく。


 前回、生肉は二日くらいと設定したが、あの時の感覚で、四日くらいは生肉も大丈夫だと感じた。

 だから、明日以降の食事用に、四人で三日分の赤身を切り分けて、二枚のビワの葉にはさんでつる草で結んでおく。


「だが、東の虹池の村なら、もしオギ沼の村よりも先に襲われていたとしても、もうあいつらはいねえよな。まだ襲われてないのなら、あいつらが来るって教えてやれる。だから、オーバ、虹池の村に行かねーか?」


 安全性が高く、虹池の村がまだ無事なら、危険が迫っていることも伝えられる。

 なかなかいい案だ。


 しかし、花咲池の村を見捨てるようで、心苦しい気もする。


「花咲池の村は、おれが一人で行こうか?」

「いや、オーバがいなくなったら、残ったおれたちは三人とも、危ないんじゃねーか?」


 そうでした。

 その通りです。


「それに、うちの村から、虎が来る前に逃げた連中の中に、花咲池の村をめざした奴もいたはずさ。虎の話はもう伝わってるだろ」


 それならいいか。


 その一言で、おれたちは東へ向かうことにした。






 仲間が一人増えただけで、旅の様子がここまで変わるとは思っていなかった。

 まあ、おれとノイハは歳が近いという点で、親近感がある。


 ジルとウルに対しては、保護者というか、父親代わり、兄代わりのような感じで、護衛の旅みたいだったところが、友だちとの旅になったような。


 しかし、訓練不足で、ノイハはまだ、ジルやウルほど上手に木のぼりできないし、樹上で身体を支えるのもうまくいかない。まあ、これは繰り返せばできるようになるはずだ。


 移動スピードを上げるため、森の中ではなく、草原を歩いてみた。速く歩けるが、太陽光がなかなか厳しい。

 一度、休憩した後は、やはり森の中、草原との境目で、日陰を歩くことにした。


 ある程度の大きさに切って、竹槍に刺した肉片は、ノイハが担いでいる。何列にもなって垂れ下り、肉の旗のようになっている。

 このまま、二、三日で干し肉になるはずだ。夜は木の枝に竹槍をひっかけておけばいい。


 最初の夜は、設置したハンモックにノイハが入った後、ジルやウルと同じように、みの虫状態にしようと考えていた。しかし、ジルとウルのようすをみて、ノイハが拒否したので、そのままにした。

 残念なことに、寝返りをうった拍子に、揺れたハンモックから落ちそうになって目を覚まし、わたわたと慌てて、ハンモックのいろいろなところから手足が伸びた状態になった。


 おれも、ジルも、ウルも寝ていたので、脱出できず、ノイハはそのまま寝ることにしたらしい。


 翌朝、一番に目を覚ましたおれが、ノイハの状況を見て、爆笑したのは言うまでもない。次の日からは、ノイハも、みの虫状態を受け入れたので、結果としてはいい。


 ノイハの回復状況を確認しようとして、『対人評価』スキルを起動。






 名前:ノイハ 種族:人間 職業:狩人

 レベル3

 生命力30/30、精神力30/30、忍耐力30/30

 筋力16、知力24、敏捷22、巧緻18、魔力11、幸運11






 どうやら、寝相がどんなに悪くても、生命力などは一晩寝れば回復するらしい。


 もちろん、怪我が治癒したから、だとは思うけれど。


 ・・・って、あれ?

 なんか、増えてないかい?


 おれは、ジルとウルにも『対人評価』のスキルを使ってみる。






 名前:ジル 種族:人間 職業:なし

 レベルなし

 生命力10/10、精神力10/10、忍耐力10/10

 筋力6、知力6、敏捷6、巧緻6、魔力6、幸運6


 名前:ウル 種族:人間 職業:なし

 レベルなし

 生命力10/10、精神力10/10、忍耐力10/10

 筋力5、知力5、敏捷5、巧緻5、魔力5、幸運5






 やっぱりだ。間違いない。

 能力値が分かるようになっている。


 スキルレベルの向上だろうか。

 まあ、他には考えにくいか。


 二人は相変わらず、レベルなし。


 スキルとともにレベルが決まる七歳までは、生命力などが10、筋力などは年齢の値になるのだろう。


 しかし、ノイハの能力値は7の倍数という訳ではない。


 あれか、ダイス二個分の数値か。

 7が平均だよな、確率的に。


 レベルアップの筋力などのステータス上昇は、運任せなのかあ・・・。

 ドキドキしながら、自分自身に『対人評価』を発動した。






 名前:オオバスグル 種族:人間 職業:なし

 レベル42

 生命力420/420、精神力420/420、忍耐力404/420

 筋力231、知力294、敏捷244、巧緻169、魔力199、幸運101






 ああ、なるほど。


 ほとんどの能力値がノイハの十倍以上もある。

 これで弱いはずがない。まさに桁違いの強さだ。


 忍耐力が起きてすぐなのに16ポイント減っている。これは『対人評価』スキルを四回、使ったからだと考えられる。『対人評価』スキルは一回4ポイント、忍耐力を消費するのだろう。数値は余裕があるので気にせず行動しよう。


 しかし、平均7ポイントにしては、全体的に能力値が低い気がする。何か、他の法則があるのだろうか。ま、分からないことを気にしていても始まらない。


 今日も一日、旅を楽しもう。


 『神界辞典』でスクリーンを起動する。

 スクリーンで見えるように、自分自身に『対人評価』を発動した。


 タブに触って、ステータスを確認。






 名前:オオバスグル 種族:人間 職業:なし

 レベル42

 生命力420/420、精神力420/420、忍耐力392/420

 筋力231、知力294、敏捷244、巧緻169、魔力199、幸運101







 『対人評価』スキルは忍耐力4ポイントだったから、『神界辞典』は8ポイント消費らしい。

 さらに『鳥瞰図』を使う。忍耐力が376になった。『鳥瞰図』スキルは16ポイントも忍耐力を使うらしい。

 続いて、『範囲探索』を使う。忍耐力は372になる。4ポイント消費か。


 スキルの種類で消費する忍耐力が違うのかもしれない。おそらく、固有スキル16、特殊スキル8、発展スキル4、応用スキル2、基礎スキル1、というところか。確証はない。


 タブに触って、地図と探索結果を確認。

 赤い点滅なし。あとは中心に青い光があるだけ。


 安全な旅が続きそうだ。


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