第6話 女神の助言に従って獣の群れと戦った場合(3)
それから、縄梯子を寝室にしっかり結んで、下まで垂らした。
休憩させていた二人に、縄梯子を上る練習をさせる。最初はジル、それからウル。落ちても大丈夫なように、おれは下で待機。
三度、上り下りをさせて、大丈夫だと確認できた。
今度は、樹上間の移動をさせようとして、手すりのロープの高さが、この子たちの身長に合っていないことに気づいた。その場で子ども用の高さに手すり用ロープを設置していく。
ここでも三度、移動ができることを確認した。
これだけの高さがあるのに、ジルも、ウルも、あまり恐怖心を抱いていないようだった。
それでも、セーフティネット代わりに、低い方の手すりに結んだロープをつり橋の下を通して、反対側の手すりに結ぶ。
何本か、並行に結ぶだけでなく、交差もさせながら、滑った時に落ちずに引っかかるようにしておく。
そのまま、トイレへ移動し、トイレの使い方を教える。トイレトレーニングは重要。今後の農業生産や疫病対策にも関係することなので、念を押して教えた。
再び、小川へ戻る。
今度はウルも、最後まで歩くことができた。
かまどの火はとても小さくなっている。
登り窯の周囲は、熱量がちがった。
竹筒を小川で冷やして、二人が手に持てるようにする。スープも少し冷めるだろうが、気にしないことにする。
いもが煮崩れて、いい感じでどろどろになったスープだ。芋がゆみたいなものか。とても甘いにおいがする。
「飲んでみなさい」
まず、ジルに渡す。
ジルは何のためらいもなく、竹筒に口をつけて、傾けた。信頼されている、という気がした。いや、空腹だっただけかもしれないけれど。
「・・・甘い」
「おいしいか?」
「うん」
「ウルも!」
見ていたウルがほしがったので、ウルにも竹筒を渡す。
ウルも、ジルと同じように、スープを飲む。
ウルは言葉では表現しなかったが、満面の笑顔をおれに向けてくれた。満足の味だったようだ。
おれも、かまどから焼き芋を取り出して食べた。
ウルがほしがったので、少しだけ、口の中に入れた。
これにも満面の笑みが報酬として支払われた。
ジルが何かを言いかけてやめたので、同じように少しだけ、口の中に入れようと近づける。
恥ずかしそうにジルが口を開けた。
「おいしい・・・」
「甘いか?」
「うん。こっちの方が甘い」
そうか、煮るより焼く方が甘いのか。理由は分からないが、煮た方が甘いにおいはさせていた気がする。甘み成分が気化したのかもしれない。
明日はおれの分もスープにして、甘さ控え目の味を感じてみようと、心に決めた。
食後は、虎肉の皮はぎに挑戦した。
思っていたよりも、簡単に、まるで服を脱がすかのように、毛皮が分離していき、白い脂肪分が露出してくる。冷たい水でよく冷やされていたからかもしれない。どうしても分離しにくいところだけ、小さめの石斧を使った。
毛皮の内側にこびりついた脂肪は、小川の丸石で削り落とした。
『「解体」スキルを獲得した』
いつもの、どこからかは分からない声が聞こえてきた。
また、レベルアップをしてしまった。
まあ、強さが増して、悪い訳がない。気にせず、作業を再開する。
虎の皮下脂肪の小さなブロックと、一口サイズの赤身を5枚、小さめの石斧で切り取る。この石斧はナイフ的扱いができて都合がいい。
火が弱まっていたかまどに小枝と薪を追加し、再び火を強める。
熱されてきた平石の上に、脂肪ブロックをのせ、菜箸代わりの小枝で動かす。
じゅう、と脂が溶けていく。
赤身をのせる。
じゅうっ!
ああ、たまらない。
焼肉の音だ。
今さらなので、食の安全だのなんだのは、忘れることにする。
ただし、レアはだめ。必ずウェルダンでいく。
岩塩を削ってかける。
そうやって、じっくり焼いた塩味の1枚を口に運ぶ。
・・・。
・・・。
・・・うまい。
久しぶりの肉だから、というのもあるが、うまい。
タレはないけど、うまい。
とにかく、肉はうまい。
ごくり、という音が、背後から聞こえた。ジルだ。
続けて、残りの肉も平石にのせていく。
「ジル、ウル、食べるか?」
「うんっ!」
「久しぶりの食事だから、よくかんで食べろよ。それと、1枚だけだからな」
「うんっ!」
もはや会話はいらない。
おれたちは虎肉をじっくり味わって食べた。
それから、頭蓋を大きな石で破壊して、立派な牙を四本、手に入れた。これからの解体や他の作業でも使えるだろうし、護身用の武器にもいいかもしれない。そういえば、アコンの樹皮に傷をつけていたくらいだし、居住スペースの新たな展開が考えられそうだ。
竹やりに突き刺した虎肉を担いで、おれたちはアコンの群生地まで歩いた。
虎肉は、獣脂と肉塊に分けて、明日の分の焼き肉十数枚と、肉じゃがビワ茶スープ用の細切れだけは丁寧に切り分けた。あとは大まかに、切り裂いていく。
ここの気候では、生肉はそんなに保たないだろうし、腐った肉を食べることで危険な目には遭いたくないからだ。
大まかに切り分けたそれなりのサイズの肉は、調理室に干していく。このまま、干し肉にしたり、スモークしたりしてみるつもりだ。
明日も、竹炭をつくろうと考えているので、かまどや登り窯の上に、大きめのサイズに切った肉を干してみようと考えている。
内臓部分も干しておく。
肉を干し終えたら、獣脂を何本もの竹筒に詰めて保管し、再び小川へ。
食事で回復したのか、ウルは今回も最後まで自分で歩くことができた。
今度は滝シャワーだ。
おれが滝つぼで洗濯するのをマネして、ジルとウルが毛皮の服を洗っている。毛皮は、洗っても大丈夫なのか?
まあ、ダメになったとしても、大牙虎の毛皮で、作り直せばいいけれど。
そして、三人で汗を流して、アコンの群生地へ戻った。
一日の疲れと汚れが落ちる気がする。
やはり滝シャワーは気持ちがいいものだ。
二人も、そんな顔をしていた。
三人と一柱の新生活が始まった。
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