第4話 女神とともに半月過ごして話しやすくなった場合(3)



「・・・セントラエル、危険はないか?」


 ・・・はい。あり、ま、・・・せん。


 セントラエルとの会話力が向上してる?


 なんでだ?

 この子たちの言葉のスキルを獲得したからか?


 いや、それはともかく、どこまで、話ができるか、が重要だろう。


「セントラエル、話が、しやすくなったと思うけど、そうなのか?」


 ・・・はい。話、は、しやすく、なって、・・・います。


 おおお、こっくりさんモードを限界突破らしい。

 なんだ、このスペシャルボーナスは!


 しかし、なぜだろうか?


 この子たちと話して、『共通語』のスキルレベルが上がった可能性がある。さっきも思いついたけど『南方諸部族語』のスキルを獲得したからかもしれない。でも、セントラエルの言葉が南方諸部族語ってことはないだろう。


 やはり『神意拝聴』や『古代語読解』のスキルレベルが上がってきているのかもしれない。もしくは、これらの総合的なものか。


「セントラエル、なぜ、話しやすくなったのかな?」


 ・・・守護神、セントラエル、は、下級神、から、中級神、セントラエム、へ、進化、しまし、た。神、力の、大幅、な、向上、が、・・・えいきょ・・・して、いると、考え、・・・ま、す。


 あ、おれの能力向上じゃなく、セントラエルの進化が原因なのか。

 いや、あれ、名前もなんか、変わったみたいだな。


 中級神になったって、ドジ女神なのは変わらないのかもしれないけど・・・。

 中級神、セントラエム、か。


 なんにせよ、守護神の力が強くなるってのは、ありがたいことだけど。


 ・・・オオ、バの、スキル、レベル、の向上も、合わせ、て、・・・会話、し、やすく、なり、・・・ま、した。


 おお、おれの頑張りも!

 良かった。


「それじゃ、あれだ。転生前に、説明不足だった、この世界のこと、説明してもらえるかな?」


 ・・・はい。もち、ろん、です。それ、は、わたしの、責任、です、か・・・ら。


 そこからは、眠る二人の子どもを運びながら、セントラエル・・・もとい、セントラエムから、この世界についてのレクチャーを受けた。


 話しやすくなったとは言っても、言葉は途切れ途切れで、時々、質問をしながら、説明を受ける。


 まずはスキルについて。


 一般スキルや特殊スキルは、転生後の生活の中で身につくこともあるが、固有スキルは身につかないこと。

 既に、『住居建設』や『南方諸部族語』というスキルを獲得しているので、今さらだけど、固有スキルが身につかないというのは初耳だ。

 もちろん、セントラエル・・・もとい、セントラエムはドジ女神なので、そうではない可能性も考えられるけれど・・・。


 所有しているスキルは熟練度を高めることでスキルレベルを向上させることができること。

 そして、スキルレベルが向上すると、そのスキルでできることが増え、生活が向上すること。

 転生前に基礎スキルはレベル最大にしてもらったけど、地道な努力で他のスキルもレベルアップができるということが確認できた。

 これは、セントラエル・・・もとい、セントラエムとの会話が少しずつ進化してきたことなど、いろいろと実感がある。


 転生後の人生でさまざまな挑戦を繰り返し、新たなスキルを獲得した時、レベルが上がること。

 それから、所有するスキルの数がレベルの高さであること。レベルが上がれば、生命力、精神力、忍耐力、筋力、知力、敏捷性、魔力など、さまざまな能力が高まること。


 レベルがあるのか、と。


 そうすると、基礎十種類、応用十種類、発展十種類、特殊三種類、固有三種類の合計三十六種類のスキルをもって転生した上に、このおよそ半月で、ふたつのスキルを獲得したから、おれのレベルは現在三十八、ということになる。


 それが、高いのか、低いのか。


 よく分からないと思ったが、セントラエル・・・もとい、セントラエムによると、かなりの高レベルらしい。


 おれはこれまで、何度も何度も、セントラエル・・・もとい、セントラエムに、危険はないかと確認してきたが、セントラエムからすると、この大森林で最強の存在がおれなので、危険はないか、と訊くこと自体が、あまり意味がないと思っていたらしい。


 転生したばかりの頃、アコンの群生地の近くにいた大きな鹿やら虎やら熊なんかが、ごっそりと逃げ出したらしく、逆に弱い動物が周辺に集まったらしい。


 おれが強い、という実感はないが、思い返せば、さまざまなサバイバル作業を難なくこなせるほど、前世は力がなかった気がする。

 そう考えると、この半月間の労働はあっさりこなせ過ぎていたような感じがある。


 ところで、なんで女神の名前が変わっちゃってんのか、よく分からないけど、言い間違って、面倒だ。


 セントラエム、セントラエム、セントラエム、セントラエム・・・。


 間違えないように、何度も心で繰り返す。


「ところで、セントラエル・・・じゃなかった、セントラエム。この子たちの怪我を癒してもらえないかな?」


 ・・・それは、でき、ません。守護、神は、守護する、者に、与力、するも、の・・・なので、その他の者に、加護をあ、たえ、られ、・・・な、い、ので、す。


「そうか・・・」


 言い換えると、おれが怪我をした場合は、頼めば治療してもらえる、ということでもある。

 つまり、セントラエル・・・もとい、セントラエムは、癒しの力はもってはいるが、それをおれ以外の人間には使えない、ということだ。


「・・・じゃあ、この子たちの怪我を癒す方法を、教えてもらえるかな?」


・・・それは、オオバ、が、でしょうか。


「うん、おれが、この子たちを癒す方法、あるかな?」


 ・・・ない、訳では、ありません。しかし、そ、れは、どう考えるべきか・・・。


 おや、セントラエ・・・ムが、何か、考え込んでいるらしい。


 つまり方法はあるってことだ。


 さっきのこの子の話では、おそらく怪我をしてから五日。

 それまで治療らしい治療は受けていない。

 いわゆる医療行為的な治療は、既に遅い気がする。


 このままでは、化膿して、発熱、ひどい場合は、死ぬだろう。


 ・・・薬草、などを使って、癒す、方法、ならば、時間を、か、け・・・れば、オオバ、にも、可能です。しか、し・・・わた、しが神、力で、おこな、う・・・治癒、の神術、と、いうので、あれ、ば・・・オオバ、の、力、次第、で、す。


「おれ次第で、女神が神術でやるような治癒が、できるかもしれないってことか?」


 ・・・はい。


「どうすれば、いい?」


 ・・・ここ、では、難し、いでしょ、うから、戻って、から、で、どうで、すか。


 そうだな。

 そうした方がいい。


 おれは、二人の子どもを抱えたまま、走り出した。


 アコンの群生地まではあと少し。

 飛ぶように、という表現があてはまる速度で、森の中を駆け抜けた。


 薬草を集めて、という治療方法は今回、選ばない。


 なんとしても、女神の神術を身に付ける!


 スキル獲得が、レベル上昇と直結しているこの世界で、手に入る可能性のあるスキルは、全力で手に入れるべきなのだから。


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