本論、ネタバレページ

帆高が傷つきながら陽菜を連れ戻そうとして必死に走るシーン。その諦めない姿、愛に生きる姿に、誰もがうるっときたのでは?

ハッピーエンドかどうかと聞かれたらハッピーエンドなのかもしれませんが、主人公たちに感情移入せずによくよく考えれば、多くの人にとって「そんなのありか!?」といった終盤だったのではないでしょうか。

主人公が警察に捕まる時点で異質なアニメなのに、まさか東京が、日本国の政治経済の中心が海の底に沈んでしまうなんて……。しかも、主人公たちの判断ひとつで。

皆様が穂高と陽菜で、九百万もの人々が暮らす東京の存亡と、大切な人ひとりの命を天秤にかけられたら、彼らのように決断できる自信はありますか?


こんな思考実験があります。まず、二股に分岐した線路を思い浮かべてください。わかれた一方の線路には一人、もう一方の線路には五人の人間が一列に立っています。そこへ列車がやってきました。あなたはレバーのそばに立っていて、あなただけが線路を切り替えて列車が進む線路を選ぶことができます。さあ、みすみす五人の命を奪うのか、それとも一人の存在を犠牲にしてより多くを助けるのか。

この条件下では、おそらく多くの人が一人だけが立っている線路を列車の進路に選ぶことでしょう。

では、ここに『天気の子』の状況を落とし込んでみましょう。一人だけの線路に立つのは、あなたの恋人、もしくは一生のパートナー、世界で最も大切な人です。対するは東京大都市圏です。日本国政治の中心である霞が関の機能はストップしますし、多くの人が職も住む場所も奪われ、偶発的に死傷者も出るでしょう。あなたは自分の愛する人間と引き換えに、見ず知らずの人間多数を救いたいと思えますか。


 僕には、正直それほどまでの決断力が備わっているのか怪しいです。そんな僕には、まだ「愛」が足りないのかもしれませんね。社会の常識や、規範を忘れうるだけの「愛」が。

 あの眼を見張るばかりの映像と、心に訴えかける音楽、二次元情報に落とし込まれた心理描写の中にあってもなお、客観的な目を持てた方なら穂高の決断は、「単なるエゴだ」「納得できるものではない」と思えるものであったと思います。そのせいで感情移入できず映画を心から楽しめなかったという方もいらっしゃるということは、風のたよりに聞いております。

 ですが、そんな物語の結末にこそ、僕がこの映画の主題だと読み取ったメッセージが隠されているように思います。

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