抱きし愛を壊してしまえ
愛しいと叫ぶこの心に従って、愛しいもの達を全てこの
願うばかりで終わってしまう。妄想の海に潜るだけで満足してしまう。
だって、現実にあり得る事など無いと分かりきっているのだから。暖かで優しい妄想の海へ、深く深く沈んでしまえたらいい。
そんな私とは対照的に、見つめるだけでは満たされない。触れられないなど耐えられない。
そんな風に思える、そんな感情を抱ける。そういう風に生きている人は、輝いている。
だから、私はそんな人達を見るのが好きなのだ。
輝いている彼女達を、彼らを眺めて、それだけで私は幸せになれるから。
だからもっと見せて。
輝いている皆の姿を。沢山の笑顔を。
でも、時々そんな輝きを邪魔するものが現れる。
そう言う輩は総じて、私達の事も詰ってゆく。
酷い言葉で、傷付けている事など気付かずに。それに愉悦を覚えているのだ。
そして、彼女達の、私の心に小さな棘を残してゆく。
「ああーーーーー! とう!! とい!!!!」
そう言ってアカネは顔を手のひらで覆い、空を仰いでいた。いや、顔を覆ってしまっているのだから彼女にはこの青い空は見えていないのだろう。
きっと彼女に見えているのは、眼前に広がる夢のような光景だけなのだ。
彼女の目の前には、フィロとロッティが隣り合って座りながら何かを話している光景があった。
ここはカフェだ。屋外でお茶が出来る、とても雰囲気のいいカフェだった。ちなみに、アカネとその連れ以外の客は全員カップルである。そういう層にニーズのある店なのだ。ここは。
さて、フィロとロッティには結構な距離があるので先程の雄叫びは聞こえていないだろう。そして、アカネの存在にも気付いていないに違いない。しかし、そうもいかない相手だっている。
「ちょっと! そんな大きい声じゃ気付かれちゃうかもしれないじゃない!」
そう言ってアカネを叱責するが、自分の声もかなり大きい事には気付いていないのだろう。銀髪とオッドアイが美しいエルフだが、推しのエロの事を語らせたら止まらない、エルサ。
「あっ! お二人とも注目してください! ターゲットが動きました!」
二人の大声など気にも留めず、彼女はターゲット、フィロとロッティを注視し続けていた。表情は読みにくいが感情は豊かであり、ボーイズラブを好んで嗜む麗しい元軍人ユマブラン、ティア。
「何で私まで……」
上品に紅茶を飲む彼女は、二人どころかこの場に共にいる三人に、ちらとも興味を示さず明後日の方向を向いている。豊かな胸と長い足を惜しげもなく晒して周囲の羨望の的になっているとは知らない美女、ヒサメ。
先程とは打って変わって身を乗り出してフィロとロッティを眺めている、可愛らしい外見の赤髪の女。主食は百合だが男女も薔薇もなんでもどんと来い! なカップリング大好き、アカネ。
そう、アカネ、エルサ、ティアの同人女同盟~ヒサメを添えて~の一行である。
ちなみになぜ同人女同盟だけではないかと言うと、暇そうにしていたヒサメをアカネが引っ張ってきたという経緯がある。
そしてなぜ彼女達が揃いも揃ってフィロとロッティを眺めているかというと、それには海よりも深くティースプーンよりも狭い理由があるのだ。
そう、彼女達の海よりも深くティースプーンよりも狭い理由、それは。
推しカプがデートするのにじっとしていられるか! 見逃して堪るものか! 同人女同盟の名が廃る! という、なんとも崇高なものだった。彼女達にとっては。しかしヒサメにとって、それは至極どうでもいいものだった。それこそ、使い捨てのマドラー一本と同程度には。
ヒサメは青空を眺めながら、紅茶をまた一口飲む。しかし共に来ている同人女同盟が騒がしいのだから、優雅なティータイムというわけにはいかなかった。
まあ、彼女達がこうしてフィロとロッティをストーカーのように、いや、訂正しよう。尾行中の探偵のように眺めていられるようになるまでは、涙ぐましい努力があったのだ。
まず、この街は観光地として人気の街である。ここは街全体が、デートスポットのような雰囲気なのだ。綺麗な石畳、レンガ造りの建物、道の脇に植えられた色とりどりの花々。とてもいい雰囲気の、特にカップルに人気の街だった。
この街に是非行きたい。そうアカネはコールに強請った。一人では断られるかもしれないという思いから、自分がなぜ行きたいかの考えを同人女同盟に共有した。そして三人でコールに強く、この街に行きたいと訴えた。案外あっさりと了承してくれたコールに多大なる感謝と愛を伝え、一行はこの街に訪れたのだ。
デートスポットとして有名な街という事もあり、二人で訪れやすい店が多い。ちなみに種族、性別関係なくカップルではなくとも二人で訪れると楽しめる場所が多いという。
なので、この街を存分に楽しむため、一行は二人組に分かれて行動する事になったのだ。組はクジで決めた。
同人女同盟は、そこも抜かりなかった。他のメンバーを出し抜く、というかズルをしてしまうのは心苦しかった。けれど、メンバーは皆仲良しなので許してほしい。
同人女同盟は楪に飴をもらい、AMEを釣ったのだ。AMEに頼み込み、フィロとロッティ、ルークとムクロ、コールとルナ、ポーズとシシーなどなど。自分達の好きなカップリングの二人が一緒に行動するようになるようクジを操作してくれと言ったのだ。AMEは最初こそ疑問を抱えていたようだった。けれど、この二人にもっと仲良くなってほしいのだと言い、楪の飴を渡したら笑顔で了承してくれた。
純粋なAMEを騙すのは心苦しかった。おばあちゃんと慕う楪の飴をだしに使うのも心が引き裂かれるように辛かった。
それでも、それでも彼女達にはやらねばならぬ事があった。なさねばならぬ事があった。
そして彼女達の望みは叶い、人数合わせとしてヒサメが選ばれた。ヒサメには災難だが、諦めてもらうしかない。ちなみに、AMEも楪と行動出来る事になってご満悦のようだった。
このような語るも涙、聞くも涙な経緯があり、同人女同盟~ヒサメを添えて~の四人はフィロとロッティの尾行をしているのであった。この後は他のカップリングの元へも行くつもりである。
そんな彼女達は、フィロとロッティを眺めては悶えたり、拝んでいたり叫び出したいのを懸命に抑え込んでいたりと三者三様に感極まっていた。ヒサメはセットのチーズケーキに舌鼓を打っていた。
そしてそんな同人女同盟の視線の先ではというと。
「フィロ、これすっごく美味しい! 連れてきてくれてありがとう」
「いや、ロッティが嬉しいなら俺も嬉しいよ。喜んでくれてよかった」
という風に、彼らのテーブルにあるケーキセットよりも甘い甘いやり取りをしていた。
「んふー。私、フィロ大好き!」
「ありがとう。俺もロッティが大好きだよ」
甘い。甘すぎる。そして二人の幸せそうな笑顔。
それを見た同人女同盟の反応はというと。
アカネは顔を覆って大きく長い溜息を吐いたかと思うと、公式公式と繰り返し唱え始めた。エルサは背凭れに体を預けてしゅき…… と呟いたきり動かなくなってしまった。ティアはテーブルに突っ伏し、己の出した鼻血で書道の先生もびっくりな達筆で結婚と書いた。ヒサメはアカネのショートケーキを自分のもとに持ってきて上品に味わっていた。全員とても幸せそうである。
そんなこんなでテーブルクロスを一枚駄目にしてしまった事を詫びて、四人はフィロとロッティが店を出る少し前に店を後にした。またお越しください、とは言われなかった。
そして、同人女同盟~ヒサメを添えて~の四人が次に訪れたのは服屋だった。男、物も女物も勿論置いてあり、手が複数ある人用、体に角がある人用、四つ足用など豊富な種類が取り揃えられていた。
その店には、ルークとムクロがいた。二人で、この服は誰に似合う、などというようなことを言い合っている。
「そこは! お互いの服を選んでよ! いや、こういう二人も可愛いんだけどさ!」
「実はすでに選び終えている説を推します。熟年カップル……っ」
「そんな美味しいシーンを見逃すなんてぇっ」
「あら、このデザイン素敵」
雄叫びを上げるエルサ。冷静に推す説を語るティア。悔しさに血涙を流すアカネ。のんびり服を選ぶヒサメ。それぞれに服屋を楽しんでいた。
そんな時、ルークとムクロに動きがあった。それを見逃すティアではない。彼女はそれを素早くアカネとエルサに伝えた。そして三人が注視したそこには。
「ねえ、ルーク」
「なんですか? ムクロ」
「私、他の場所に服を選びに行ってもいい?」
「勿論。店内でも我慢をして私と一緒にいる必要はありませんからね」
「ううん。無理をしているわけじゃないの。ちょっとルークに選ぶところを見られるのは恥ずかしいなって……」
「あっ。そうでしたか! 早とちりをしてしまってすみません……」
ほんのり顔を赤らめて言うムクロに、それ以上に赤くなり今にも霧と化してしまいそうなるルーク。甘酸っぱい。青春真っ只中の付き合いたてカップルもかくやと言った様子である。
「いいの。じゃあ、行ってくるね」
可愛らしく手を振ってムクロが去って行った後、ルークは霧と化した。
「アオハルじゃん……」
「結婚して……」
「式場建てます……」
アカネは手を合わせて、エルサは膝を付き、ティアは天を仰いでいた。推しカップリングの初々しさにそれぞれただひたすらに感謝の念を抱いていた。ヒサメは気に入った服を数着、レジに持って行っていた。全員、とても幸せそうな表情を浮かべていた。
他にもムクロが選んだものをルークに見せた時にも一悶着あったのだが、そこは割愛しておこう。ただ、退店時にまたのお越しをお待ちしています、とは言われなかった。
そして次の目的地に向かう途中、連れ立って歩くバルドとヨミのトラブルメーカーコンビを見かけた。まあ、ヨミは浮遊しているので歩いているのはバルドだけなのだが。二人はやいやいと喋りながら、目立たない裏路地に入っていく。そこには、いやにピンクやら黒やら紫やらがやたらに派手な看板の店があった。そして二人はとある一軒の店に入っていった。恐らく、おもちゃ屋さんである。どこの年齢層に向けた物かは言わないが。
そしてしばらく経った後、二人はずっしりとした袋をほくほく顔で抱えて帰ってきた。断片的に聞こえてくる話からは、ぼったくり、店主、泣いた、商品、ぶち込んだなどの言葉が聞こえてきた。何となく察した四人は、店主に同情を禁じえなかった。
そもそも、あの二人に対してただのおもちゃ屋さんの店主が何か出来るわけがなかったのだ。きっと。
「というか、やっぱりああいうお店もあるのね……。ちょっと行きたいわ」
と、エルサが呟いた事に三人で同意しながら、四人は次の店への道を再び歩き始めた。
閑話休題。
次に同人女同盟~ヒサメを添えて~が向かったのは、ふれあいカフェだった。犬、猫、兎、鳥、蛇に亀などなど。様々な動物と触れ合える人気のカフェだった。
そこにはコールとルナがいて、二人で色々な動物を眺めていた。撫でるでもなく、抱き上げるでもなくただただ動物達を眺めていた。
「コール姉さんは、抱っことかしなくていいの?」
「ん、それならルナはしなくていいの? こんなに可愛いのに……」
「えっと、寒がったりしたら可哀想だし」
「ああ、あたしも抱き上げた子が火傷したりしたら可哀想だからね。ちょっと勇気がいるね」
そんな風に言って、二人はやはり触れるのではなく眺めるだけに留めていた。その動物たちを見つめる視線には、触れたいという思いがありありと滲んであるのに。
「あなた達がいっちばん可愛いわ」
「同意しかないわ……。ここは天国ね」
「この可愛さは国宝に指定すべきです」
「それには同意せざるを得ないのが悔しいわ」
そして抱きかかえた兎越しに愛を叫ぶアカネ。しかし兎を驚かせてはいけないので声の大きさは控えめであった。アクロバティックな猫じゃらしの動きで、周囲の猫を独占しているエルサも溜息を吐いた。フクロウを頭に乗せたまま微動だにしないティアは大まじめな顔で大層な事を宣った。ヒサメも蛇の頭を撫でながら、今回は珍しく同人女同盟に同意した。まあ、彼女は元々可愛いものや可愛い女の子は大好きなので、当然といえば当然だ。
そんな風に思い想いに感情を高ぶらせている四人の事をどう思ったのか。それともどうとも思わなかったのかアカネに抱かれている兎が、その腕を抜け出してしまった。そしてその兎が向かったのは、コールとルナの元だった。
やばい、ここにいる事がバレてしまうかもしれない。
アカネはそう思い、咄嗟に駆け寄ってきていた犬を抱き上げて顔を隠した。
そして、コールとルナの元へ向かった一羽の兎はというと。
まるで撫でろと言うように、二人に向かってその真っ白な毛並みを差し出していた。その差し出された当人達はというと、戸惑いを隠しもせずに顔を見合わせている。同人女同盟~ヒサメを添えて~の面々はその動作すら可愛いと悶えていた。
そして恐る恐るといった風に、コールが兎の背へと手を伸ばした。ゆっくりと、優しくコールの手が兎の背中を撫でていく。その手つきはまさに、聖母ともいえる程だった。そして、兎が目を細めたのを見てコールも優しく笑みを浮かべた。ルナも、それを見てとても可愛らしく微笑んでいた。しかし、その微笑みに羨ましい、という感情が滲んでいるのを見逃すコールではなかった。
そっと優しく、壊れ物を扱うような手つきでコールは兎を抱き上げた。嫌がられなかった事に一番驚き、そして安堵しているのは紛れもないコール本人である。
そしてコールは抱き上げた兎をルナの方に向けた。
「ルナも撫でてごらん。あたしの事も嫌がらなかったんだ。きっとる何も懐いてくれるよ」
「ううん、私の手は冷たいから」
「大丈夫だって! あたしの温度で、この子もそろそろ暑くなってきているかもよ? ルナの手が心地いいかも」
「でも」
「大丈夫だって! この子はルナとお揃いでしょ?」
いまだ言い訳を探していたルナに、コールはにっと笑った。その笑みを見て、ルナもほんの少しだけ勇気が出た。ゆっくり、震える手で兎へと手を伸ばした。そして、手袋越しに柔らかな毛並みを撫でる。兎が気持ちよさそうに目を細めたのを見て、ルナはほうと息を吐いた。
「ね? やっぱり大丈夫だったでしょ」
「うん」
兎を抱いて快活に笑うコールに、ルナも小さな微笑みを返す。。そんな二人を見て、四人は感情が爆発しそうになるのを抑えるので手いっぱいだった。思わず、こんな言葉が漏れ出てしまうくらいには。
「可愛さで世界征服ができる」
「いや、むしろ銀河いけるでしょう」
「圧倒的わかりみすぎて辛い」
「可愛いは最強だものね」
四人とも、互いの言葉に深く頷き合い、固く手を握り合った。戦友、同士、それだけでは言い表せないような関係が、芽生えた瞬間だった。
「というかあの兎は元々私のところにいた……。つまり私は推しカプの背景になったも同然」
「うわ羨ましすぎる」
「それはいつ死んでもいいほどの誉れではないですか」
「ごめんそれは理解できないわ」
その友情は脆くも今崩れ去った。仕方のない事だ。美しいものは、花の命のように短く儚い。だからこそ、その美しさは際立つのだ。
そんなこんなでもふもふカフェを後にした四人の女達は、次なる尊さを持とめて目的地を目指す。今回も、またお越しください、とは言われなかった。なぜだ。今回は大人しくしていたのに。
次に同人女同盟~ヒサメを添えて~が向かったのは、ゲームセンターだ。カードゲーム、リズムゲーム、ダンスゲーム、クレーンゲームにホラーゲームなどなど。広い店内の筈なのに、歩ける道が細く感じる程に所狭しと色々なゲームの筐体が置かれていた。
そしてこの店には、ザインとポーズがいた。ポーズがクレーンゲームの前に立ち、ザインは一歩後ろからそれを見守っていた。ポーズはむむ、と眉根を寄せながらクレーンゲームをプレイしていた。
「うう、取れない……。これじゃあお小遣いなくなっちゃうかな」
どうやらポーズは大きな猫のぬいぐるみが欲しいらしかった。しかし、あの様子からはなかなか苦戦を強いられていたのだろう。財布とにらめっこをしていた。
「うーん、ポーズ。一回私がやってもいいかい?」
「え。父さん、もしかしてこういうの得意?」
「いや、やった事はないんだけど、ポーズがやってるのを見たらやりたくなってしまってね」
柔和な笑みを浮かべながらそう言うと、ザインは筐体にコインを一枚入れた。そしてにこにことしたままボタンを操作しアームを動かす。ザインがアームを止めた位置は完璧で、がっしりとぬいぐるみを掴むのが見て取れた。そして上がった時に一回緩むのが見えたがなぜか落ちずに、見事取り出し口の真上でぬいぐるみを手放した。
「うわあ! ザイン凄い!」
「はい、ポーズ。欲しかったんだろう?」
「え、良いの? 折角ザインが取ったのに」
「ああ。私はプレイしてみたかっただけだからね。このぬいぐるみはポーズにあげるよ」
「ありがとう。すっごく嬉しいや」
紳士的な笑みを浮かべるザインに、彼が差し出す猫のぬいぐるみを宝物のように抱きしめるポーズ。騒がしいゲームセンターだというのに、この二人の間にはどこまでも優しくて穏やかな空気が流れていた。
「はー。癒し……」
「この世の愛しさがつまってるじゃない……」
「浄化されてしまいそうです……」
「あら、APだわ」
同人女同盟は涙を流し、ザインとポーズという優しさの権化のような二人に圧倒的な感謝を抱いていた。ヒサメは適当なリズムゲームでオールパーフェクトを叩き出していた。人間には出来ないような腕の動きをしていたが、ヒサメは息一つ切らしておらず、腕もどこも痛めていないようだった。周りに女神と崇められていた事には気付いていない。全員、とても満足そうな様子である。
そんなこんなでゲームセンターも満喫した四人は、ほくほく顔でゲームセンターを後にした。ゲームセンターなので、またお越しください、とは言われないのは仕方がない。
さて、そんな風に街を満喫した四人は宿屋へ帰ってきた。宿屋も二人部屋で、今回もクジで組を決める事になった。今回はAMEに裏工作を頼む事はしなかったので、同人女同盟はバラバラになったし日中行動を共にしたカップリングも多くが別々の部屋になった。男女でクジを分けたので当たり前といえば当たり前だが。
しかし、日中の組とホテルの組が一緒になった二人もいる。
「何で宿屋の部屋までアンタと一緒なのよ……」
「いいじゃない。それにヒサメが他の女の子と一緒だと危ないでしょ」
「流石に同意のない行為なんてしないわよ。独りが気持ちいだけの行為なんて意味がないじゃない」
「それはそうだね。想い合ってこそ推しカプは尊さが増すのだし」
「それとは違うような気もするけれど」
アカネとヒサメは背中合わせにベッドに座りながら、そんな風にだらだらとお喋りをしていた。ちなみにダブルベッドである。流石カップルの聖地。
ベッドサイドのチェストにはそういう事に使うそういう物も入っているに違いない。まあ、見ないけれど。エルサは目を輝かせて見ているのだろうか。
ベッドに背中合わせで座り、顔も見ずに、特に何かを考えて喋るでもない。ただ、思った事をするすると唇に乗せていく。それが酷く、心地よかった。
アカネとヒサメ。彼女達は好きなものは違えど、何となく親近感があるのもまた事実だ。共通点なんて思いつかない。真逆とも思える存在なのに、互いに互いをどこか半身のように思っているのも、また真実であった。
何を考えているのか分かるわけでもない。口にしない思いを読み取れるわけでもない。ただ、互いが掛け替えのない存在である。そう漠然と思っていた。
ああ、そうだ。一つ共通点があった。
彼女達は、好きなものを譲らない。好きなものを好きと叫び、胸を張る。その生き様は、まるで同一のようによく似ていた。
彼女達の好きに、修正など効かない。好きを積み重ねて、彼女達は酸いも甘いも、全てを好きで包み込んで生きて来たのだ。
そんな彼女達は、互いに抱く感情も一緒だった。
互いが特別大好きなわけじゃない。そんなのはむしろ願い下げだ。大嫌いなんて言ったら、喧嘩になること間違いなし。
大好きじゃないし、大嫌いなわけがない。アカネはアカネでヒサメはヒサメ。
ただ、その想いを彼女達は大事に大事に抱えていた。
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