第153話 ワニおじはいい人?


 ゲートを潜ると別世界だった、ねじれたマングローブの様な木。透明度の高い水、今まで見てきた世界とはまるで違う風景。


「ほえー凄いな。綺麗な場所だなあ、人魚とかいるかな?」


「洋一君、人魚は海じゃないかい?」


「そうだった、河童はいるかなー」


 師匠と二人で馬鹿話をしていると


『ねえ、ヨーイチ向こうからなんか来るよ?』


 向こう? リュイが指差す方向を見てみると頭はワニ身体は人間の様な、奇妙な生物がこちらに走ってくる。


「おめえさんら、なにもんだ? 迷い込んだか?」


「神殿に行きたくて来ました」


 取り敢えず瘴気やらは伏せておこう。


「すんでんだあ? あったら所に行きたいなんて、お前さん達変わってるなあ。地元のオラ達ですら、いかねえど?」


「そうなんですか? 俺達は創造神教なのです!」


 ワニの人が、面食らったように目をパチパチさせている。あれ? 創造神の神殿だから、創造神教じゃないのか? 痛ッ! 足をアナスタシアに踏まれた、なんなんだよ……。


『馬鹿ッ! そんな名前の宗教ある訳ないでしょ! ブラフマン教よ!』


 ブラフマンってバンドマンみたいな名前だな。


「俺達の田舎じゃブラフマン教の事を創造神教って言うんですよ!」


「すんでんに悪さするつもりではねえな? いくらぼろぼろでも罰当たりな事はしちゃいかんよ?」


 うわあ、ワニおじさんにめちゃくちゃ諭された。このワニおじさんは100日以上生きてそうだな。強そうだし。


「貴方は何故僕等がいた場所に来られたんですか?」


 おお! 師匠良い質問! 確かになんでピンポイントで俺達がわかったんだ?


「そんなの簡単だあ。アンタらが使ってねえ、廃棄された門を潜ったから、警報がなったんだあ。んで迷い人なら、大変だからオラが来たんだ」


 廃棄された門? 通常の門があるのか?


「通常の門ってあるんですか?」


「あるぞ、大都市にしかねえがなあ。交流しなきゃやってけねえべよ」


 大都市に門がある? なら歩かなくても良かったんじゃないのか?


「アナスタシア? どう言う事だ?」


『知らない! 私知らないわよ、そりゃ最後に見たのは、人間の時間にしたら80年位前だけど……』


 情報が古過ぎる! 80年前ってお前先に言えよ!


「アナスタシアちゃん、情報はちゃんと言おうね?」


 アナスタシアにだだ甘い師匠が、真面目な顔して注意してる。イラッときたのかな。


「ワニおじさん、神殿って遠いの?」


「んにゃ? あの大きな神木が見えるだろ? あの下にツルベって街があるんだがそこにあるぞ」


 ツルベ? 名付けた奴は日本人か? だとしてもなんでツルベ……。


「神木には触ったらなんねえぞ? 神木に触るとどんな災いが起こるかわかんねえからな」


 フラグを立てるんじゃねえよ! このワニおじめ! ネズミを送り込むぞ!


「絶対に触りません!」


『あの神木! アースがいるわね』


「アース?」


『土の精霊! とろいけど良い子なの』


 リュイと話していると、ワニおじさんに肩を掴まれシェイクされる。やっやめろ! 吐くぞ! 


「坊主、アース様を知ってるだか? そったらアース様を助けてくれねえか? オラ達じゃなんにもできなくてなあ! なあ! 国主様のとこに連れてくからさ!」


 ワニおじさんがなにを焦ってるのがはわからないが、アースって言うリュイの友達が、ピンチなら助けにいかないと。


「皆んなワニおじさんに着いて行くって感じでいいか?」


『アースのピンチならアタチが助ける!』


 リュイはやる気満々だ。


「アースって男?」


『男よ!』


 あっ師匠のやる気がマイナスに……。


「男かあ……」


『葵お願い! アースを助けて!』


「任せてください! 相手がどんな奴でもぶち殺しますよ!」


 ぶち殺しますって怖すぎる宣言だぞ。


「あんたらさっきから、ぶつぶつと誰と喋ってるんだ? なにかいるんだか?」


 ワニおじさんにはリュイが見えないのか。そしたら、俺達の行動は奇行にしか見えないわな。蘭もワニおじさんが来てから静かにしてるし。


 アナスタシアは虎次郎の上で、楽しそうに辺りを見回している。呑気か!



 俺達はワニおじさんの後をついて行き、ワニおじさんが暮らす村に着く。


「国主様には連絡しとくから、お前等は今日この家でゆっくりしとくと良い」


 連絡? 連絡ってどうやるんだ? 手紙か?


「連絡ってどうやるんですか? 手紙ですか?」


「手紙? 人間の国はそんな古い物使うのか? ここ等では魔導盤まどうばんを使うんだで。どれ今からやっから見てろ」


 ワニおじさんはA4サイズの薄い板を取り出すと、手のひらを魔導盤に乗せる。魔導盤が光り起動する。まんま現代のスマホじゃねえか!


「スマホみたいだね」


 師匠が笑いながら自分のスマホを弄る。


「おお! おめえ最新版持ってるだか? こんな小型国主さんのとこでも見た事ねえど」


 ワニおじさんは師匠のスマホに夢中になっているが、魔導盤から声が聞こえる。


「おい! 国主である俺を無視か? ヒョウも偉くなったもんだなあ!」


 魔導盤から、ホログラムの様なおじさんが浮かび上がる。


「ワニおじさん! 国主さんが怒ってるよ!」


 師匠のスマホに夢中になっているワニおじさんの顔を国主さんのホログラムの方に向ける。


「今忙しいから後でな」


 ワニおじさんは素早く魔導盤の電源? を落とした。


「えっええ……」

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