第151話 腹黒天使の想い


 噛み締めるような表情で下を向き、首を振る玄同さん。

この時彼の中にどんな心境があったのかは、俺にはわからない。


「カッカッカッ。赤髪のガキい、お付きの天使に感謝しろよお? 地べたに這いつくばって、必死に謝って、命まで差し出そうとした天使になあ」


 天使ってあの腹黒さんかな? 腹黒さんはアナスタシアの事を心配して、嫌いな俺にアナスタシアをお願いしますって言ってたしな。


「カッカッカッ小僧はわかってるみたいだなあ? 天使が誰か、天使が何故お願いしたかって」


「……まあ想像になりますけど、嫌いな俺にお願いしてましたから。アナスタシアを大事じゃないと、嫌いな人にお願いなんて出来ませんから」


 アナスタシアの方を見ると、『嘘、いつも虐められて、馬鹿にされて、貶されて』とぶつぶつ言っている。


「腹黒天使さんは、ツンデレなんだろ。わかれよアナスタシア」


『そんな……』


 アナスタシアは泣いている。そんなアナスタシアに玄同さんが


「カッカッカッのう赤髪い、俺の孫がどうなったか知ってるよなあ。その後地球の神に頭を下げに行ったんだってなあ、下位の世界である地球の神になあ」


 下位の世界? ってかアナスタシア地球の神に頭を下げるってなんでだ? 地球にも迷惑かけたのか? 


『そっそれは、私が関わって、人の人生を、あの……』


「俺の孫に手痛くやられたらしいなあ」


『はい、お爺ちゃんを返せって言われました、当たり前ですよね……。それは、できないって伝えるとその』


 そりゃ理由はどうあれ、相手からすればアナスタシアは、自分の家族を奪った元凶だもんなあ。


「お爺ちゃん子だからなあ。孫の傷は消えなかったみたいだがなあ」


『それはその、すみません、私には貴方がこちらで生きて

るとしか伝えられなくて……』


 なるほど、それを伝える為に地球に行ったのか。あわよくば傷を治す為に。


『私は、怨まれても仕方ないと思います……』


 ポツリとアナスタシアが呟く。それを聞いた玄同さんは


「舐めるな」


 明確な怒気をアナスタシアに向けた。


「俺の孫を舐めるなよ。孫の優斗ゆうとはなあ、今は納得できなくても、足が動かなくてもなあ。必ず乗り越える、絶対になあ」


『ひっ……』


 強烈な怒気を受けて、アナスタシアはその場に尻餅をついてしまう。


「なあ、赤髪のガキい。俺の神、以外不殺を解除しろよ。面白い事になるからよお」


『そっそれは、私に、力があっても……貴方の魂に根付いたスキルなので、できないんです』


 アナスタシアの声は震えている。


「なら神を狩るしかねえか。あのピエロが言うように。孫の為に地球に無理にでも戻らないとなあ」


 玄同さんは地球に戻りたいのか、ん? 邪神を倒したら戻れるんじゃないのか? ピエロってまさか。


「あっあのお。発言を宜しいでしょうか?」


「ああん? なんだ小僧」


 丁寧に話しかけたのに怖過ぎるよ! 


「多分神様を殺しまわっても、地球に戻れない気がします……前に無理だって言われたので。ピエロって多分邪神の手先ですし……」


「で?」


 怖い、怖過ぎる! ションベンちびる……あっ、やばっまっまあいいか。バレてないし。


「邪神を倒したら地球に戻れるかもって言ってました! 魔王と創造神が!」


 漏らした俺は、もうなにも怖くない……!


「カッカッカッ、なるほどなあ。魔王に創造神、そうか、そうか邪神か。あのピエロの小僧は、邪神の手先か、成る程なあ」


 玄同さんは、髭を撫でながら笑っている。


『ちょっちょっとアンタ!』


 アナスタシアに服を掴まれ、玄同さんから少し離れる。服が伸びるからやめてほしいんだが。


『アンタ馬鹿じゃないの!?  邪神に無策で挑んだら玄同さんが、無事じゃすまないじゃない! アンタ人の命をなんだと思ってんのよ!』


 ああ、アナスタシアは優しいから玄同さんを心配してるのか。あのデタラメに強い玄同さんを。


「アナスタシア多分だけど、玄同さんって今の蘭や師匠より強いぞ? 大和さんとはどうだろ、大和さんのが強そうだけど」


 俺の言葉を聞き、一瞬驚いた表情をしたが、直ぐに俺を睨むアナスタシア。


『それはアンタの感でしょ! 根拠がないじゃない! アンタの無責任な考えに人を巻き込むな!』


 根拠、根拠なあ。


「蘭! ちょっと良いか」


 蘭が飛んできて俺の肩に止まる。


「どうしたの?」


「玄同さんに勝てるか?」


「無理。不殺状態の今でも勝てないよ。戦ってきた経験値が違うし、なにより強すぎる。大和並みに強いんじゃないかな? 葵も玉砕覚悟で、アナスタシア様を庇ってたみたいだし」


 蘭の言葉を聞き、アナスタシアは愕然としている。


「本気で命狙われなくて良かったな。多分一瞬で殺されてたぞ?」


『ひっひえええ』


 ちょろちょろちょろちょろ


「ちょろちょろ?」


 音の発生源を見ると、アナスタシアから黄金の水が流れている。


「おわっ! 漏らしやがった! 俺も漏らしてるけど!」


 蘭はサッと跳び立ち虎次郎の頭の上に乗っている。そんなに臭かったのかな?


『いやああああああ! 見ないでええ!!』


 アナスタシアの悲鳴が小玉した。

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