第126話 大人の力って凄くない?


 王様に説明を果たし、俺達は王城を後にする。王様の言葉は力強く、俺の胸を貫く。


「儂ら大人を舐めるでない。荒事は君らの方が遥かに上だが、国営は私達の両分だ。必ず国を建て直す、だから気兼ねせずにまた遊びに来なさい」


 王の器、王の覇気、王の威厳を見せられた気がした。普段は桜さん大好きなお爺ちゃんなのに、あんなにカッコいい姿を見せてくれるなんて。


 創造神も普段はふざけ倒している癖に、すげー事をやり遂げて……それを誇るわけでもなく、最後に世界を心配して俺達に託す事ができるなんて……流石は神様って事なのかな


「そういや、桜さんは?」


『あっちにいるみたい』


 リュイに連れられ、俺達は桜さんのいる場所を目指す。どんどん、街を離れていく。本当にこっちか? とリュイに聴くと


『ヨーイチは、良いから走って!』


 せかされるので、俺は全力疾走中。蘭は、俺達の走る速度に合わせて飛んでいる。レイ先生は、黙って前を見据えて走っている。

 師匠は、寝ながら走ってる。って寝ながら!?


「リュイ、俺には、師匠が、寝ながら、走ってるように、見えるんだが、気のせいか!?」


 息も絶え絶えになりながら、リュイに聞いてみると


『うーん寝てるね。どうやって走ってんだろ?』


 リュイにもわからないらしい。師匠に聞いてみたいが、怒られそうだし辞めとくか。


「リュイ、まだ着かないのか? そろそろ国を出ちゃいそうなんだが!」


 もう国の端の方に来ている。シェルターはこんなに遠いのか?


『あとちょっとよ! 手遅れになる前に急ぐの!』


 手遅れ!? なんの話だ!? リュイはなにに気づいて焦っているんだ? くそっ俺がもっと早く走れたら……


「手遅れっていったい!?」


 俺の質問に返事をせずに、リュイが急加速をする。


『間に合ったあああ!!! 桜あああ!!』


 リュイは桜さんに飛びつく。桜さんは、びっくりして固まっている。


「みっみんな、どうしたんでござるか?」


 桜さんは、酷く狼狽えている。顔には泣いていたのか、涙の跡が残っているし、目は赤くなっている。


「桜さんこそどうして、こんな場所に」


「せっ拙者は、さっ散歩でござあるよ」


 明らかに挙動不審で、嘘をついているのが丸わかりな状態。なんでわかるかって? 俺と全く同じだからだよ。


「桜、私達には強がらなくてもいいし、嘘もつかないでいいんだよ? 国から出て行こうとしてるんでしょ?」


 蘭の鋭い指摘に桜さんは、目線を逸らす。そんなところまで、俺に似ているなんて。


「桜さん、いったいなにがあったの? シェルターで子供達になにかあったの?」


 シェルター、子供達、この二つの言葉に桜さんの身体がぴくりと震える。


「子供達は、皆んな無事でござるよ。ただ、私を見て、魔人の事を覚えていた子供達が、怯え始めて、泣き出しちゃったんでござるよ」


 なるほど、子供達の言葉や態度か。子供は良くも悪くも純粋だから、余計に傷つくんだよなあ。


『なら国を出て、私達と森で暮らしましょ! 元々ヨーイチは、そうするみたいだったし』


 リュイの言葉に、桜さんは答えずに黙っている。


「子供達は怯えちまったかもしれないけど、桜さん王様の爺ちゃんはめちゃくちゃ心配してたよ? 俺に何度も手を出したら許さないって感じでさ。ライルだって心配してるはずだよ?」


「それは……そうなんだろうけど。洋一君にはわからな」


━━バシッ!


 蘭が翼で桜さんの頬を叩いた。桜さんは、叩かれた頬を摩りながら蘭を睨む。


「洋一はね、桜よりもっと酷い扱いを受けているわよ。こっちに来てから、見ず知らずの人に、憎しみや殺意を向けられ、襲われたり、仲良くしていた子に化け物だって、拒絶されたりしたわ。事故で亡くなった子の両親には責められ続けていた「はーい。ストップだ蘭」わかったわよ……」


 俺が止めたからか、蘭は拗ねてしまった。だけどまあ、桜さんを責めてもなんにもならないしな。桜さん泣き出してるし。


「洋一君は、なんで、そんな風に明るくしてられるの?」


 涙でかすれた声で桜さんに聞かれる。


「先ず、事故の話はずっと後悔してるし、俺のせいだって今でも思ってるからさ。否定できない事実って奴なんだよね。創造神のおかげで、俺は香奈ともう一度会って話せたし、前を向くって約束したからだよ」


 桜さんは、泣きながら俺の話を聞いている。


「次に殺されかけた正確な理由はわからんから、いくら考えても仕方ないんだよね。幸い怪我もなかったし、会わなきゃ良い話だしね」


 蘭やリュイは、思い出したのか渋い顔をしている。会う事もないから、気にしなくていいんだけどな。


「最後にアーレイな。邪神の因子で親を失っているんだよ。だから、邪神の力を持ってる俺が、憎かったり、怖かったりしちゃうのは仕方ない事なんだよ。最後にさ、小さな声で御礼を言ってくれたんだよ。ありがとうって。怖いのとか、全部我慢して言ってくれたんだよ。すげーでしょ?」


「洋一君やその子は強いんだね……」


 桜さんの手をレイ先生が握り声をかける。


「ヨーイチは、強くないわよ? ヨーイチは泣いて、叫んで、血を流しながら前に進もうと足掻いているのよ。ヨーイチは、人より弱い分、誰よりも痛みを知っているのよ。甘えん坊でスケベだけどね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る