第127話 女神の説教


 ちょっと俺のハートは傷付いたけど、とりあえず桜さんを連れて魔獣の森に転移した。俺達の話を聞いてから、桜さんはずっと塞ぎ込んでいる。話しかけても、生返事しかしない。


 アナスタシアが、俺達に気付き駆け寄ってくる。


『辛気臭っ! お通夜みたいな空気出してんじゃないわよ! なにがあったの?』


 桜さんの方をチラッと見て、俺を問い詰めてくるアナスタシア。


『ちょっときなさいよ』


「おい! 引っ張るなよ!」


アナスタシアにずるずると引きずられる。ズボンが破けるだろ! 歩けるから離せっ!


「洋一! 桜はリュイ様とレイと私に任せて事情を説明してきて」


 蘭の言葉を聞きながら、アナスタシアの小屋に連れられる。ドナドナみたいな気分だ。


『で、私の転移者になんで悪魔が混ざってるのよ。しかも魔王の手下の、チラッとしか見なかったけど、肉体レベルの融合されてるでしょ? どうなってんのよ』


 アナスタシアに床に押し倒され、睨まれる。チラッと見て、桜さんの状態を正確にわかるなんて流石は神か……。ただ、間違いは訂正しなきゃな。


「魔王の手下じゃないぞ? 四天王は退職してるから、正確に言うなら元魔王軍四天王だよ。本人はもう表に出る気はないみたいだけどな」


 俺の説明に、頭をガシガシと掻くアナスタシア。痒いのか? シラミか? 


『それだが理由じゃないんでしょ? ちゃんと話しなさいよ』


 今までの経緯をアナスタシアに事細かく説明すると、アナスタシアは大きなため息をつく。


『蘭が、怒った事はまあ仕方ないわね。貴方に対して過保護だから。でもね、貴方達の対応はだめよ。こんなに傷ついている人がいるんだから、元気出しなさいよって言われて、元気になる人がいる?』


 アナスタシアにめちゃくちゃ正論を言われてしまい、言い返せない。言い返す必要はないんだが、ちょっとシャクだな。


『こっちに連れて来る前に、王様に会わすべきだったわよ。王様を呼んじゃいなさい。私達の言葉より、王様の言葉の方が、桜の心に響くわよ。関係性、時間、器、どれを取っても私達よりも王様の方が上よ』


 俺達は、ただ桜さんを追いかけ、無理やり話しただけ。更には、俺はこんな傷があるんだぜって傷自慢をしただけなのかな……。


『あー! あんたまで辛気臭くならないでよ。別に貴方達が悪い訳じゃないのよ。タイミングと、桜との関係性の問題よ。それに、貴方達言うほど桜の事知らないでしょ?』


 アナスタシアの言葉が、胸を貫いていく。一言一言が重く、俺の心に圧をかける。


『だからー凹ます為に話したんじゃないっての! あんたは蘭や、さっきいためちゃくちゃ強い人に話をして、王様を連れて来なさい!』


 シッシッと、小屋から俺を追い出すアナスタシア。俺を追い出すと、直ぐにドアが閉まる。


 閉じられたドアの前で、俺はアナスタシアにお辞儀をする。


「ありがとうございました。正直、俺どうしたらいいかわからなくて、困ってたんだ。本当に助かったよ。アナスタシアが居てくれて、本当に良かった。薄っぺらく聞こえるかもしれないけど、本当に感謝しています」


 俺が礼の言葉を言い終わると


『良いから早く行きなさい! レディーを待たすもんじゃないのよ!』


 小屋の中から、元気なアナスタシアの声が響く。


「サンキュー! じゃ王様拉致って来るわ!」


 アナスタシアの提案を、蘭やレイ先生や師匠に話した。蘭とレイ先生は、王様を拉致って来る事に渋い顔をしていた。


「洋一、王様なのよ? 国が大変な時に……わかっているの?」


「一国の王様を拉致なんてしたら、それこそ重罪よ? ヨーイチ大丈夫なの?」


 二人してめちゃくちゃ正論を言ってくる。ぐうの音も出ないが、ぱっと行って、ぱっと攫って、ぱっと返したら大丈夫なんじゃなかろうか?


「洋一君! さあ行こう!」


 俺が葛藤していると、ニヤニヤした師匠に肩を掴まれ強制的に転移させられる。


「座標ぴったり!」


 師匠は王城に着いて、満足げな顔をしているが周りを見てほしい。兵士や王様が、皆んな唖然としてこちらを見ている。


「ささっ洋一君、王様を拉致るよ!」


 まるで俺が指示を出したような文言を言い、師匠は俺と王様の肩を掴み転移する。


 有無を言わさずとは、正にこの事だろう。


 兵士の皆様の最後の表情は、理解できないと言う表情をしていた。


「ちょっと儂に説明してくれないかな? 儂びっくりし過ぎて、なにがなんだかわからないんだけど」


 俺は、慌てて今の桜さんの現状を伝える。


「そうか、桜は……。いや儂が少し話をしてみよう。誰も近寄らせないようにしてくれ」


 王様は、そう言うと桜さんがいる部屋に入って行く。桜さんの大きな泣き声が、部屋から聞こえてくる。俺達は、そっと部屋を離れる。


「王様って凄いな……」


 俺は素直な感想を漏らす。


『バーニアから聞いたけど、あの人本当に凄い人みたいよ。難しい話は、アタチわからなかったけど、政治的に物凄い手腕の人だって、バーニアが褒めてたもの!』


 精霊のお墨付きって凄いな。バーニアって意外に物知りなんだな。普段の物臭なイメージからは、想像できないけど。


「精霊のお墨付きかあ。やっぱ凄いわ、アナスタシアもそうだけど、皆んな俺なんかより、色々な物を見て経験してるんだなあ。俺の40年なんかよりずっと……」


「洋一、凹まないの。アナスタシア様も言ってた様に役目が違うのよ」


 役目かあ、って蘭には聴こえてたのか。聴力も人間より、断然上だしな。


「俺の役目かあ。あるといいなあ」


 俺は、空を見上げて呟いた。

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