第125話 男にはわからない、女心


 桜さんは融合したままだった、なにが起こっているかはわからない。創造神は街も人元通りにしてくれたはずなのに。


「もしかして、浄化が関係あるのかな? 浄化した人と壊れた街は元に戻っているから……」


 蘭の言葉で、創造神の言葉を思い出してみる。


『儂、創造神だよ? 御主らが、きちんと浄化してくれたしのう。今回は儂のせいで、間に合わなかった節もあるから、大サービスしちゃうよ?』


 きちんと浄化・・・・・・あっ多分これだ……。それならロザリアさんや、戦いで死んでしまった人達が元に戻る事は多分無い。


「桜さん、ごめん。蘭や師匠に浄化された人達以外には、創造神の力が及ばなかったみたいで……だから、戦いで死んだ人や桜さんは対象外になってしまったみたいで……」


 創造神のせいではないんだけど、なんだか気まづい。あれだけの事をしてくれた創造神を責める気はないんだけど……。


「洋一君が、気にする必要はないでござるよ。私は、私は、仕方ないでござるよ!」


 桜さんは、俺達に向けて儚い笑顔を向ける。


「もう、この国にはいられないでござるが、お爺ちゃん達が元に戻ったなら大丈夫でござる。この国はなんとかなるでござる」


 俺達に背を向け、生き残った人達を眺める桜さん。桜さんの尻尾は、力無く垂れている。


『お偉いさん達にとりあえず伝えたら、魔獣の森に戻ろ? 次の神殿の事も考えなきゃいけないし』


 リュイの言う事はもっともだし、俺達は次の神殿の事も視野に入れて動かなければならない。


「師匠はそれでいいですか?」


「うーん。まあいいよー」


 師匠はなんだか、上の空な感じがする。なにか、不穏な感じがするけど……。


「桜さんとりあえず、王様とかに説明するけど桜さんはどうする?」


「私は……ライルとシェルターに行って、子供達を助けてくる」


 そう言うと、桜さんはライルさんの方に走っていってしまう。ライルは、こちらに向けてウィンクしている。


「あっ……」


『ヨーイチ、私達は王様のところへ行くよ。混乱は、早く納めないと』


 リュイに手を引かれ、王城へ戻る。蘭は先に王城の中に飛んでいく。


「洋一、桜の事はライルに任せましょう」


 ライルになら任せてもいいかな、きっと俺達より過ごした時間も長いし、ロザリアさんの死の痛みも二人なら分かちあえるはず。俺は相変わらず何もできないんだな……。



 混乱する王城の中、蘭が空から王様を発見し、俺達を案内してくれる。


「蘭、ありがとうな」


「私が探した方が速いからね。王様は、特別魔力が強い訳じゃないから目で見て探すしかないし、私は皆んなより目が良いからね」


 蘭の視力は、人間の倍以上ある。上空から森の中で動く野生動物を発見して、狩りを行っているから、探す事にかけてはピカイチだしな。


「蘭は狩りが、昔から他の鷹よりうまかったもんな」


「そう?」


「そうだよ! コンテストも全部蘭のおかげで優勝できてたしな。違法ドローンを狩る時も……」


「もう! 王様が待ってるから早く行くよ!」


 蘭は照れたのか、先に王様の元へ飛んでいってしまう。


「洋一君は、女心がわからないんだねえ」


 師匠に言われてしまった……。ん? 待てよ? 覗きをしていた師匠に女心がわかるのか?


「痛っ!」


 師匠に鞘で殴られた……。心を読んで殴るとか酷過ぎる。口に出してないのに、なんて理不尽なんだ!


『ホラ着くわよ! 王様はアタチの声聞こえないんだから、ヨーイチと葵と蘭が説明するのよ!』


 おっおう、そうか……改めて俺が王様と話すなんて、緊張するんだが。


 扉を開くと、めちゃくちゃ疲れた顔色をした王様が座っている。


 俺を見つけると、凄い速さで俺に近寄り肩を掴む。


「あー来たの? 桜は? 儂の桜は? 無事なのか?」


「アブぶぶぶアベべべ」


 めちゃくちゃシェイクされ、喋るに喋れない!


「あのー王様、その状態じゃ洋一が喋れないですよ?」


「あっそうか……そうじゃな。儂の桜は無事じゃろうな? 無事じゃなかったらこの命をかけても……」


 言葉を止めて、ギロリと睨まれる。めちゃくちゃ怖い! 俺が何をしたんだ! 娘に寄り付く彼氏を害虫扱いする親みたいだな!


「桜は絶対にやらんからな。魂に刻んどけよ? 儂の桜じゃからな。それとは別だが、国を助けてくれてありがとう。先程神獣様から、話は聞かせて頂いた。柊君、神宮君、感謝する」


「はっ! 有り難きお言葉!」


 師匠がめちゃくちゃ凛々しい敬礼をしている。俺はギョッとした顔で師匠を見てしまうと、師匠から何故か睨まれる。何故だ! 普段の師匠を見てたら、引くぞこのギャップ! アーレイのお義母さんの前じゃそんな態度しなかったのに!


「神宮君は、王宮での礼節の経験があるのかね? 完璧だよ。だが……桜はやらんけどな」


「過分な評価とお言葉をありがとうございます! 私がいた国での作法なので、お見苦しい点もあると思いますが、寛大な心でご容赦して頂けるとありがたいです」


 相変わらず、ピシッとした感じで受け答えする師匠。これじゃまるで、俺だけ場違いな村人感が満載じゃないか!

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