第100話 皇国を破壊した男


 俺達は、一度魔獣の森に戻る事にした。


「師匠は、魔獣の森って初めてですか?」


「僕が最初に落とされた国は、確かエルフが沢山いたよ? なんかさー人間だからって、攻撃してきたんだよね。仕返ししまくったら、大人しくなったけど」


「しっ仕返しとは?」


 嫌な予感がめちゃくちゃする。絶対にただの仕返しじゃない、下手したら国が滅んでいるかもしれない……。


「うん? 軍と首都をぶっ潰しただけだよ? 二度と逆らえないようにしてやったさ」


 はい、きたー。エルフの国に入れない事が確定だよ。


『あんた、人の良さそうな顔をしてとんでもない事するのね……』


 ほら、リュイも引いてるぞ!


「えっ? エルフの国に入れるかなあ……」


 蘭も、不安になってるよ……。はあ、レイ先生になんて説明したらいいのやら……。


「とりあえず、戻るか」



 何度も見た、懐かしい我が家。落ち着くわあ。師匠は、キョロキョロと辺りを見ている。


「おー! 懐かしの我が家!」


「ヨーイチ! 帰ってきたのね?」


 ああ、眩しい! レイ先生の笑顔が眩しい! 久々に会うと、笑顔の破壊力がやばい。惚れてまうやろ! エプロンに、お盆がめちゃくちゃ似合う!

 だけど、だけど素直に受け入れられない。師匠がした事を考えると、素直に再会を喜べない……。


「ヨーイチ? こちらの方は?」


「あっああ。こちらは、神宮葵さん。同郷の人で、俺の師匠です」


「ヨーイチが、お世話になっています。レイ・コーラルと申します。元探索者で、今は此処に住んでいます」


「へえ。君、エルフにしては強いね。ただ、成長限界が近いね」


 師匠! 恥ずかしいから、ちゃんと挨拶してくれ!


「えっ? あっ、ありがとうございます?」


 ほら、レイ先生が困惑してるじゃないか! 


「うんうん。周りの森にいる魔獣は、エルフの国の軍隊よりは強いけど、だめだね。面白い気配が、一つもない。つまんないなー。この国には勇者っていないの?」


 うわー。師匠が、飽きはじめてやがる。


「勇者ですか? 勇者は大昔にいたとしか……」


「あれ? おかしいな? 勇者の気配は、この世界に落とされた時に、感じたんだけどなあ」


 勇者の気配ってなんだ? 勇者がこの世界にいるのか?


「あっあの、お話を戻してしまい申し訳ないんですが、エルフの軍隊って? 皇国の軍隊ですか?」


 ゲゲゲッ! 聞こえてたのかよ! やばい……冷や汗が止まらない……。


「皇国? うーん。なんかエルフの軍隊がさー。めちゃくちゃ絡んできたからさー。戦える奴は一人残らず、叩き潰したんだけど、大将首の奴が、余りにもしつこくてさー」


━━━ガシャン。


 レイ先生が、持っていたお盆を落とした。


「えっ、それは、あの、本当でしょうか?」


「なんなら、大将の首出そうか? 好戦的だし、弱いくせにうざったいから、刈り取ったんだけど」


 あっ師匠が、アイテムボックスから生首を取り出そうとしている……。


「刈り取っ? えっ?」


「見る?」


 チラッと、耳と金髪が……! ひえっ! やばいやばいやばいやばい! 怖い、怖すぎる! 


「いっいえ、チラッと見えましたから……。本当に皇国の軍隊を潰したんですね……」


 あばばばは、どっどうしたら、やばい……どうしよう……。


「いっよっしゃああああああああ!!」


 レイ先生が、ガツポーズと雄叫びをあげた。


「これで、私の里帰りの邪魔者はいなくなった! YES! YES! ヨーイチ、今夜はパーティーよ!」


 皇国の軍隊を、潰して、エルフの大将首を刈り取ったら、パーティーなのか? 


「あっあの? なんで? え?」


「私にフラれた事を腹いせに、私を皇国から追放しやがった、クソ野朗なのよ! そいつが、死んだらパーティーじゃない!」


 異世界の価値観がわからない! 死んだらパーティーって怖すぎるし! フラれた腹いせに、国外追放とか色々酷すぎだろ!


『パーティーね? パーティーなのね?』


 リュイは、パーティーって言う単語だけで、お祭りモード全開になってるし。


「洋一、ツッコミは任せた。私、見回りして来るから」


「蘭! 俺を置いて行くなー! ちょっと! 俺には、荷が重過ぎるのよおおお!」


「なんじゃい、うるさいの。おー! ヨーイチ、帰ってきたのか! 装備の不具合はないか? そこの剣、異世界の物じゃな? 鉄の比率もそうじゃが……素材が珍しいの! 見せてみい!」


 ふぎゃっ! 


 エレン爺いに、突き飛ばされた。いつもなら、レイ先生が、優しく助けてくれるのに今回は……。パーティーの準備にウキウキしてて、俺を見てくれない。酷い! パーティーの準備より、俺の心配をしてくれ!


「僕の装備が見たいの? そろそろ何処かに、研ぎに出そうかと考えてたから、研げるならやってほしいんだけど」


「儂の工房に来い! 精霊が窯にいる工房じゃ!」


「へー。楽しみだな」


 みんな、いなくなってしまった……。


『ヨーイチ、ドンマイだね。葵とエレン爺いが、直ぐに仲良くなってびっくりしたね』


「あっああ。師匠達より、レイ先生の喜び方に、びっくりしてたよ。国に追放された理由もそうだけどさ……」


『レイのあんなにはしゃぐ姿初めてみたね』


 レイ先生もやっぱり異世界人なんだなあ。恨みがあるとは言えなあ……。価値観の違いって凄いな。

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