第99話 小さな声 小さな御礼


 しかし、アマルナはなにしに来たんだ? 手術費用のカツアゲか? 確か、自分でも商売してたんじゃないのか? 儲かってないのか?


「アマルナ、儲かってないのか?」


『ちゃうわぼけ! 右肩上がりや! アンタに与えた加護の力や! 金貨一枚で、呼びくさりおって! 殺すぞボケ』


 こりゃー、事業に失敗したパターンだな……。可哀想に。


『後伝言や、エロスの愛が爆発しそうだから、早く呼んだりや。ウチらは、アンタが呼ばないと、こっちの世界に顕現できんのや』


 エロスの愛は知らないが、この二神がこちらに来れるかどうかは、俺次第なのか。


「エロスは呼ばないけど、アマルナはいつでも呼べると」


『ウチをデリヘルみたいに言うなや!』


 仮にも、女神様がデリヘルとか言うなよ。幸い、師匠と俺しか、言葉の意味は知らないだろうけど。


「ふむ、女神デリバリーか。洋一君、お店の名前は?」


『違うって言うてるやろがー! ちょっと神獣と大精霊のアンタら、コイツら二人なんとかしーや!』


 アマルナが、蘭とリュイに文句を言いだした。わがままな女神だな。いや、女神だからわがままなのか?


「洋一は、なんとでもできるけど……葵に関しては、無理です」


「フッフッフ、僕は強いからねえ」


 師匠が、腕を組みながら、ドヤ顔をしている。正直、めちゃくちゃダサい。ダサいが、突っ込んだら腕を切り落とされる!


『ダサっ』


 ばっ! やめろリュイ! 師匠に変な事を言うんじゃない! 殺されるぞ!


「グハッ! 可愛い女の子に言われると、凹むわー。すごい凹むわー」


『かっ可愛いだなんて、もう! ヨーイチ聞いた!? アタチ可愛いって!』


 リュイが、顔を赤くしてキャッキャッしている。


「リュイ様、葵にアマルナ様を帰らせる様に説得して貰えますか?」


『オッケー! 葵、アマルナ様帰らせてあげて? モテる男なら余裕を見せなくちゃ! アマルナ様に嫌われちゃうぞ?』


 師匠が、すごい速さで姿勢を正した。


「洋一君、なにをしているんだ。アマルナ様に金貨をお支払いして! なんなら色をつけるんだよ? アマルナ様ありがとうございました。次は、パットを外して来てくださいね」


 わー、見事なまでの変わり身だ。手のひらクルクルだだよ。ドリルもびっくりだよ。乱回転だよ。


「はい、アマルナ。手術費用の足しにするんだぞ? 無駄遣いするんじゃないぞ?」


 金貨をアマルナに手渡そうとすると、アマルナに分取られた……。ちゃんとあげるのになあ。


『うっさいわボケ! カス! 後アンタ、きいつけや!邪神側の動きが活発になっとるからな!』


 憎まれ口を叩きながらも、最後にアドバイスをくれる当たり、アマルナは良い神なんだろうな。神らしい登場もしてくれたし。


「アマルナー! ありがとなー! またなー!」


 俺は、天界に帰って行ったアマルナに向けて、手を振る。師匠は、涙を流しながら敬礼をしていた。


「なあ蘭、アマルナって口は悪いけど良い神様だよな」


「良い神様って、言い方は変だけど優しいよね」


『アタチ、アマルナ様好き! 威圧してこないし、優しい匂いがした!』


 リュイも、アマルナが好きなのか。アマルナ大人気だな。


「神様もお帰りになられましたし、柊様と葵様と大精霊のリュイ様には、この国の歴史からお話しましょうかね」


 アマルナが来たから、忘れてくれたかなーと思ったけど、アーレイのお母さん、ばっちり覚えてたわ……。


 それから半日、この国の成り立ちから、城の重要性などを説明された。寝たり、逃げようとすると妖を嗾けられた。めちゃくちゃ怖かった、何回も漏らしてしまった……。


 リュイは楽しそうに聴いてたが、師匠は目を開けながら寝ていた……。ずる過ぎるってばよ……。俺にもその技を教えて欲しかった、切実に。


「手紙は預かりますが、あの子が読むかどうかはお約束できませんよ?」


「わかってます。ただ、怖がらせて、謝れないまま出て行くのもなんだか、悪い気がするので。せめて手紙だけでも……」


「そう言う事なら、お預かりします。貴方達の旅の無事を願っています、神殿の開放と邪神の眷属の撃退、本当にありがとうございました。半日待ちましたが、娘はきませんでしたね」


 アーレイのお母さんが、半日かけて授業をしてくれたのは、アーレイがここに来やすくするためだったのか。だけど、一度受けた恐怖心は消えないよな。


「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」


『ヨーイチ、手紙読んでくれたらきっと仲直りできるよ!』


 リュイが、励ましてくれる。


「おう! じゃあ蘭、リュイ、師匠、次の神殿に出発するか!」


 俺達は国を出て街道を歩き出す。蘭が、後ろの林を気にしている。


「蘭、どうした?」


「アーレイ、いるんでしょ? 私達はもう行くけど、隠れたままでいいの?」


 アーレイは木の影から出てきたが、こちらに近づいて来る事はなかった。


「むう……気づかれてたのじゃ……。粗チン、ありがとなのじゃ……」


 アーレイは、小さな声でお礼を言って、国の方へ戻って行った。


「あはは、なんだよ……ちきしょう、泣かすんじゃねえよ……」


「洋一、よかったね」


 俺は、蘭を抱きしめた。アーレイの小さな御礼は、俺達にきちんと届いた。その事が、嬉しくてたまらなかった。

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