第92話 振り返りって大事だよね?
師匠は照れてるのか、俯いている。褒められ慣れてないからどうしていいのか、わからないんだろうな。アーレイのお母さんは、国の舵取りをしてるだけあって立派な立ち振る舞いをしている。
「僕は、別に大した事はしてないからあの、その」
馬鹿みたいに強くて、バトルジャンキーな師匠だけど、あんな一面もあるんだな。
「葵様、本当にありがとうございました。柊様、蘭様、精霊様も本当に助かりました」
「俺は、本当になんにもしてないので、頭を上げてください」
「私達が、招いた可能性もありますので」
蘭の言葉に、アーレイのお母さんの視線が俺に向く。
「その小さな身体に、およそ釣り合わない様な使命を受けて、命まで狙われて、柊様はお辛くはありませんか?」
うーむ。どうなんだろ? 邪神の瘴気に、囚われている、神獣達を解放してやりたい。
それに蘭が、ファンキー爺いの眷属に慣れば、豪爺い
のお孫さんも助かるしな。
邪神の因子を消せるのは俺だけなら、俺がやるしかない……尻を触るのは嫌だけど。
それに邪神を、ぶっ飛ばしたら光一を地球に帰せるかもしれない。
道化師に囚われている勝利君を、助けてあげられるかもしれない。
「かもしれない運転ばかりだなあ」
「洋一、真面目に考えてるかと思えばなに言ってんの?」
「いや、独り言だよ。アーレイのお母さん、辛くないかって言われたら辛いですよ。命を狙われる事は、めちゃくちゃ怖いし。だけど、俺が動いて助かる命や救われる神獣がいるなら助けてやりたいんです」
「洋一がやると決めた事なら、必ず2人でやり遂げます」
蘭の力強い言葉。それを聞いて、思わずニヤけてしまう。ありがとう蘭、いつも俺を支えてくれて。
「今は僕がいるからね。死にかけるギリギリになったら、助けるよ」
それは……死にかけるギリギリまで、追い込まれる、もしくは放置されるのかな? 師匠、スパルタ過ぎませんか?
「出来れば、アーレイと歳がそう変わらない、柊様には、無理をして欲しくないと思うのは、私の身勝手な思いでしたね。差し出がましい事をしました」
「洋一は、強いですから。大丈夫ですよ、洋一はいつも私を護ってくれますし」
蘭がいきなりデレた? 嬉しいけど、凄く恥ずかしいな。
「そ……そりゃ蘭は、家族なんだから護るのは当たり前だろ! 現実は力が足りてない部分が多過ぎるけど「よく言った! 洋一君、流石だよ。僕の修行を、うけるだけあるね」
食い気味で、師匠に遮られた。
「先ずは体術だね。銃を使うにしても、使い手がお粗末じゃ困るし」
「いやあ、あはははは。まだアーレイのお母さんとの話が終わってませんし、次の神殿にも行かなきゃいけないし……」
師匠は不敵な笑みを浮かべ、手のひらサイズの、気色悪い色をした、箱を取り出す。
「ここに取り出すは、なっなんと!……あの試練のキューブ(改造ver)です!」
━━シーン。
師匠はドヤ顔だが、皆んな試練のキューブを知らない。もちろんの事だが、俺も初めて見た。アーレイのお母さんとアーレイも、揃って首を傾げている。
「あれ? 知らない? 向こうじゃ、メジャーだったんだけどな。試練のキューブの中は時間が停止しているんだ」
「はい! 師匠、いきなりですが質問! 時間停止とか、物理法則的に大丈夫なんですか?」
師匠はにっこりと笑い、俺の言葉を無視した。
「試練の最中に死んだら、もちろん死にます! 注意してね!」
「えっ死ぬの?」
「試練のキューブの中に、洋一君と蘭ちゃんを放り込みます。あっ蘭ちゃんは、回復以外の魔法は禁止ね」
俺達が放り込まれる事は、師匠の中で決定した事らしい。
「色々なフィールドで、色々な敵とひたすら戦って貰うよ。やっぱり実戦が一番だからね」
実戦有りかー。死んだなきっと。
「試練のキューブの中では、通常よりレベルが上がりにくいから気をつけてね」
レベルが上がりにくいのは今に始まった事じゃないから、受け入れられるけど……。
「リタイアは、僕が判断するよ。見込みがなければ、別の修行にした方が良いからね」
「師匠も一緒に行ってくれるんですか?」
「当たり前だよ。体術や射撃は、変な癖がつく前に仕込まないと、意味がないからね。剣術は教えて貰った型を使っていいよ」
「いいよって……。まあ、いきなり違う事やれって言われても無理だけど……」
「強くなりたいんでしょ? 悔しい思いをしたんでしょ? それに時間もあんまりかけれないんでしょ? なにを迷う必要があるのかな? 迷ってる場合なのかな?」
いまいち覚悟が決まらなかった俺に、師匠からの鋭い指摘が入る。
「━━そうだよな。迷ってる場合じゃないよな。行こう蘭! 一緒に強くなろう!」
「洋一が、死なない様にしっかりサポートするからね」
「そこは、おー! 頑張ろー! とかでよくないかな? 死なない様にって縁起が悪くないか?」
「じゃあ、試練のキューブに3名様、ご案内ー!」
師匠が、試練のキューブを掲げると、鈍色の光りが輝き、俺と蘭を包んだ。
そして俺達をキューブの中へと吸い込んだ。
「さあ、洋一君。ここからが正念場だよ!」
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