第91話 敵の為に祈る事は……


 師匠に対して質問で質問を返すのはやめよう。顎を割られて、石抱きさせられる。


「この人なんで襲ってきたんだろ?」


「さあ? 名前を名乗らないクズだからねえ」


 名乗らないのは最初だけで、今は顎を割られて名乗れないんだろうけど。


「顎が割られていたら……喋れないんじゃないですか?」


 おお、蘭が切り込んだ……。凄いな、俺は言えなかったぞ。


「あっそうか! 回復させよう」


 師匠がそう言うと、青い色の液体が入った試験管を懐から取り出した。


「師匠それは?」


「ん? 僕が作った薬なんだけど効き目が強くてねえ。僕、怪我しないから、中々使いどころがなくてね」


 なんか変な臭いがするな?


「蘭、なんかあの試験管臭くないか?」


「臭いね、私は洋一より鼻が良いから辛い……」


「くらえ! 回復だ!」


━━━バシャッ!


 激臭が辺りに蔓延する。


「くせええええ!」


「ぐぎゃああああああああああ!!」


 半裸のオッサンが絶叫している。うわっグロッ。スプラッタ映像を、逆再生で見てるみたいだ……。

 半裸のオッサンは白目を剥き、眼から血の涙を流しながら痙攣している。

 あっ痙攣が止まった……。


「師匠、この人回復どころか死んじゃったのでは?」


「いやそんな筈は……あっ!」


 師匠がやっちまったーて、顔をしてる。


「いやーどの種族の魔人かまでは聞いてなかったからね。失敗失敗。まさか回復薬が弱点だなんてシラナカッタナー」


 棒読みで、知らないフリをしようとしている。


「葵、鑑定使えたよね?」


「いやードウダッタカナー」


 やめろ蘭! 追求するな! 嫌な予感がビンビンだ!


「その半魔族の人、死んでるけど……」


「ありゃりゃ? おかしいなあ。邪神の加護付きだから簡単に死なないと思ってたんだけど……」


 邪神の仲間を回復薬で殺すって、怖過ぎだよ。邪神より師匠の方が怖いよ。


「まあまあまあ! 良かったじゃないか! 煉獄魔法れんごくまほう地獄猛火ヘルファイヤ


 師匠がボソッと呟いたと思ったら、半魔族の死体から青い炎が立ち昇る。


「師匠、強敵感を散々出しまくって、回復薬で殺すのはダメだと思いますよ……」


「コイツは、きっと下っ端のゴブリン的な奴だったんだよ! いやーよかった。幹部とか四天王が来たら、僕でもやばかったよ!」


 多分さっきの半魔族は幹部とかそう言う人なんだろうな。師匠に目をつけられたのが最後だったな。ナンマダブナンマダブ、成仏してね。


「洋一君? 敵の為に祈るのかい?」


「いやまあ、死んだら敵も糞も無いですから……」


「ふうん。大切な人が殺されても同じ事ができるかい? 誰かの仇だっとしても、君は祈れるのかな?」


 師匠の言葉に俺は、黙ってしまう。香奈を殺した猪に祈れるかって聞かれたら、俺はきっと祈れない。


「今は、僕と蘭ちゃんしかいないけど、他ではしない事だよ。誰が見てるかわからないからね。とりあえず城に討伐報告をしよう」


 そうだよな……。軽率だったなあ。


「洋一、行こう。葵はもう行っちゃったよ。それに私は殺した命に対して、なにも思わないような人にはなってほしくないな」


 蘭に優しくされて、泣きそうになる。


「見える様に祈らなくても、心の中でこっそり祈るならバレないよ」


 悪戯っぽく言う蘭。思わず頬が緩んでしまう。


「よし! アーレイのお母さんに報告して一揉みさせて貰おう!」


「それはダメでしょ……」



 城に着くと、師匠が妖怪達に武器を向けられ、困った様に笑っていた。


「だからあ……。神殿や城をちょこっと壊したのは悪かったって。だけど半魔族は倒したし、結果オーライじゃないの? それともあの炎を君達にどうにかできたの? 無理だよね? あんまりイラつかせると、全員殺すよ?」


 師匠の言葉に間違いは無いんだろうけど、師匠が開けた穴はちょっとやそっとの被害じゃない。

 妖怪達がワーワー騒いでる……。師匠がイラついたらヤバイ、おっぱいさんが消されてしまう!


「しっ師匠、ここは俺と蘭に任せて貰えますか?」


「良いよ。弱い人が勝手なのは今に始まった事じゃないからね。前の世界でも良くある事だったし、でもムカつくなー」


 師匠がシリアスな事言ってるんだけど、後ろで騒ぐ様々な妖怪達が見えて怖過ぎる。リアル百鬼夜行だよ。


「みっみなさーん! とりあえず俺と蘭が直しますから、お鎮まりくださーい!」


 鳴り止まぬブーイング。


「えい!」


━━ズガンッ!


 師匠が軽く脚を振り下ろすと、大地が揺れ地面が裂けた。


「鎮まらないと、物理で鎮めちゃうぞ?」


 師匠の言葉と行動を皮切りに、蜘蛛の子散らす様に皆んな逃げて行った。


「あっ……直すところ増やしちゃった。ごめりんこ」


「はあ。大丈夫です、私が直しますから」


 蘭が土魔法と創造魔法を使い、壊れた地面と、師匠が開けた穴や壁を修復する。


「ふー。終わりました」


「蘭、お疲れ様。ありがとな!」


「いやー凄いね! 僕は壊す事しかできないから、直すのは苦手なんだよね。回復魔法も上手く使えないから、回復薬頼みだし」


 壊すだけの勇者? それって破壊神とかじゃないかな?


「粗チン! もう敵はいないのじゃ?」


 アーレイがおっぱいさんと共に城から出てくる。


「いないよ。師匠が、倒してくれたからな」


「━━ワッチ達の城を壊したのは……」


「城なんて壊れてないぞ? なあ蘭?」


「アーレイ、城のどの辺が壊れてるの?」


「あれ? でもでも……」


「勇者様、この度は結界による防御と、敵の討伐ありがとうございました。国を代表して御礼を申し上げます」


 師匠は、困った様に頬を掻きながら笑った。

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