第65話 黒い狼


 アリアが居なくなった後、俺達は街の中を歩き始めた。


「なあ蘭、多分この街に神殿あるぞ。頭の中で、ピコーンピコーンってめっちゃなってる」


「(じゃあ洋一、神殿の方に歩いてくれる?)」


「おう、だけどこれマジでうるさい……。今まで、こんなに反応しなかったのに」


 頭の中はピコーンのオンパレード。マップは親切なのか何なのかわからないけど、矢印でグイグイ目的地を示してくる。


「あーこのスキル消したい。うざい事この上ない。ゲームなら糞ゲーだぞ」


 矢印の通りに歩いて行くと、賑わっていた街並みから遠ざかり、スラム街のような寂れた街並みになっていく。


『(ヨーイチ、こっちで良いの?)』


「矢印はここぞとばかりに進行方向を示してるぞ」


 歩く人も居なくなり、怪しい雰囲気が漂う


「あっ……。あそこのぶっ壊れた建物が、それっぽいんだが」


 天井は無く、壁も所々壊れて穴が空いてる。


『(ここなの?)』


 リュイが、疑わしげにしているのも当たり前だ。仮にも創造神の神殿がこんなにボロいとは思えないし。


「うーん? とりあえず入るか。こんちゃーす」


 礼儀として声をかけてみたが、当然誰もいない。


「この神殿で、なにすりゃ良いんだ?」


「(洋一、そこの石像の影になにかあるよ。魔力が漏れてる)」


 蘭に言われて、石像の裏を見てみるがなにも見つからない。


「なにもないぞ?」


「(洋一、離れて。石像を壊すから)」


 ━━━━ズズン!


 蘭が、風の魔法を使い石像を脇にどけると、下り階段が現れる。


「地下への階段?」


「(とりあえず行ってみよ)」


「ああ。ここでこうしてても、仕方ないしな」


 地下は暗く、リュイに雷魔法を使って貰い灯り役をやってもらう。階段を降りて行くと、開けた場所に出た。


「地下にこんな広い空間があるって、急にファンタジー感が出てきたな」


「(洋一、奥に何かいるから気をつけて)」


「おっおう、リュイ、アレをやろう!」


 俺は空間収納から、雷砲を取り出し構える。


「(洋一、まさかそれを撃つつもり? こんな地下で?)」


「えっダメか?」


「(私は、生き埋めになりたくないからやめて。私が先に行くから、リュイ様と一緒に後ろから着いてきて)」


 おうふ、生き埋めはやだな。俺は雷砲をしまい紅夜叉を取り出す。


 10m程、進むと


「(洋一! 多分魔物がいる!)」


 蘭の声で、奥に目を凝らすとそこに黒い狼がいた。


「グルルル! グルルル!」


 狼が、俺達に気付き唸り声をあげる。


「でかっ!」


 狼は、大人の像のような巨躯をしていた。


「(リュイ様、洋一をお願いします!)」


『(任せなさい!)』


 蘭は、狼に向けて魔法を放つ


「(疾風撃しっぷうげき!!)」


 極大の風の刃を、蘭は狼に向け飛ばした。狼は、それをギリギリで回避する。


「(回避されるのは、読んでいたよ! 氷針 千本サウザンドアイスニードル!)」


 狼が避けた先に、千本の氷の針が出現し、狼の身体を刺し貫いていく。


「グゥアアアア……」


 黒い狼は煙となり消えていく。


「なんだったんだあれ?」


「(わからないけど、多分良くない物だと思う)」


『(この世界にあんな魔物はいないと思うけど……)』


 狼が死んで倒れた地面は溶けた様に黒ずんでいた。


『答えを知りたいか?』


 背後から声をかけられ、振り向くと


「えっ? ああファンキー爺いか」


 アロハシャツにグラサンの、ファンキー爺いがいた。


『ちょっとはのってくんなきゃ、儂つまんなーい』


「であれはなんだ?」


『ぶーぶー!! まあ良い。アレは邪神の瘴気に当てられ魔獣と成った、過去の神獣のなりの果てじゃ。当時の様な力は無く、ただ死を待つ事しかできぬ……哀れな神獣じゃよ』


 いきなりシリアスモードに入りやがって……。しかもやっぱり邪神関連かよ。


『邪神の力に囚われ、悪しき物となってしもうた、神獣達を倒し鎮めるのが、此度の試練じゃ』


「なんでファンキー爺いの神殿に、神獣はいるんだ?」


『そりゃ、昔は儂の眷属じゃっだからな。儂の神殿を護っていたが、年が経つたびに邪神の力が大きくなり瘴気を抑えられなくなったんじゃろうな』


 こいつの神殿を護るためだけに、さっきの狼は瘴気を浴び、死を待つ事しか出来ない存在になったのかよ……。


『納得いかないと言う顔じゃな? 神殿には邪神を抑える役割がある、此奴が護らねばこの都市は既に滅んでいたろう』


 英雄だって、言いたいのかよ……。


「それは物語に出てくる様な英雄って事ですか?」


『神獣ちゃん、英雄では無いのじゃよ。彼等は世界の守護者・・・、英雄には決してなり得ぬ存在よ』


「そうですか、ありがとうございます」


『ホッホッホ。さあ次の神殿へ向かうと言い。儂は此奴の弔いをしていくからの』


 世界を守護する為に自身の身を捨てるなんてそんなの辛すぎるだろーーー。


 他の神殿でも同じ事が起こってるのか? だとしたら、俺はどうすれば……。蘭と同じ神獣達を、俺は蘭に殺させるのか?


「洋一、私は大丈夫だからね」


 俺は、蘭の頭を撫でた。


「俺達はパートナーだ。だからこれから瘴気に当てられた神獣は俺が倒す━━━━! 任せてくれ!」


『アタチも一緒に倒すわよ! 同族を斬るのは、辛いもんね! だから蘭、アタチとヨーイチをもっと頼りなさい!』


「蘭、一人で背負う必要はないからな!」


「ありがとう洋一。リュイ様」 

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