第51話 洋一の必殺技!? 紅い蹴撃


 ファンキー爺いさんに言われなくても、俺が弱い事は……俺が一番知っている。

 そして誰よりも恥じている。

 だから努力した。いや、努力した気になっていた。


 俺は、唇を噛みしめ下を向いていた。


「洋一……」


『蘭ちゃん待った! ダメだよ今は。柊君の真価が問われてるんだ、創造神も人が悪い、いや神が悪いと言ったところか。それに、眠れる獅子を叩き起こす事になるかもね』


「でも……」


『まあ見てなって』


『先も言うたが、御主が弱ければ神獣ちゃんが死ぬ、御主はまた、なにも護れないぞ? 御主は、また失うぞ? また繰り返すのか?』


 爺いの言葉と共に、あの時の思い出がありありと脳内に蘇る。


 やめろ━━━━見せないでくれ━━━『コロセ』『ころセば楽になる』


『怒鳴り散らして、喚き散らして黙り込む。なにも変わっとらん。御主は、あの頃のままなにも』


 もうやめてくれ!!! 『コロシてヤる』『殺してやる!』


「ああああああああ!! 頭の中でうるせえんだよ! 糞爺い! てめえが、俺のなにを見てきた! なにを知ってる! これ以上……そのふざけた口を開くなら、この拳を、その汚え口の中にねじ込むぞ!」


『ホッホッホ、やってみるがいい』


 突如、俺の視界が真っ赤に染った。


 俺は、爺いの話が終わる前に飛びかかっていた。


 脚に力が集まるのを感じ、俺は、その場で跳躍し爺いの顔面に、ライダーキックをかます。


『ぶべらっ!!!』 


「ぶち殺す!」


 倒れた爺いの腹に乗り、マウントポジションを取る。《必殺! 馬乗りバルカンパンチ》を繰り出す。


『ぶべっ! へぶ! ばぶ!』


 爺いの顔が、みるみる腫れていく。血反吐を吐き、鼻からは鼻血が出ている。爺いの血が、俺の顔にかかるが、構う必要はない!


『柊君ストーップ!! 老人虐待だよ、ニュースに出ちゃうよ!』


「洋一! お願いだから落ち着いて!」


 蘭と堺さんが、止めに来るが俺は止まらない、止まるわけにはいかない。


 『ヤレ! カミヲ殺せ!』頭の中で不快な声もヒートアップしている。


「ぶっ潰す!」


『ちょ強っ! 柊君、落ち着きなさい! 飲まれるんじゃない!』


 蘭と堺さんが、重力魔法で俺をその場に押さえつける。


『ひい、ひい、しっ死ぬかと思ったわい……』


 身体が重くて動けねえ。口も開けねえ!


『全く……。人のトラウマを蘇らせて、奮起させようなんて、どう考えてもやり過ぎでしょ』


 だがおかしいぞ? あの脚に集まった妙な力は。それに俺あんなに強かったのか? 身体がいつもの倍以上動いた気がするぞ? 変な声もしてたし……


『いやー! 儂びっくり。神様やってて初めてじゃわ。儂の結界無視して、突っ込んでくるし、蹴り入れられた時頭がはじけ飛ぶかと思ったわい』


 俺の蹴りごときで頭がはじけ飛ぶ? あり得るわけないだろ。だけど堺さんと蘭が、爺いさんを助けなければ、スプラッタよろしくな事になっていたのか。


 爺いさんを殺しかけてたのか……。


『咄嗟に、回復と結界を僕が、重ね掛けしなかったら、創造神でも死んでたねー。余裕こいて、油断しまくってたし』


「堺さん、俺のステータス何て村人位ですよ? 流石に無理がありますよ」


 堺さんは、俺を見て苦笑いをした。


『あの時の蹴りは僕に匹敵してたよ。凄い威力だったよ』


 俺、堺さん並みのキックが出来るの? 最強の蹴り使いなの?


『ふーすまんかった。儂がやり過ぎたわい』


「堺さん俺、あの力は……」


『儂を無視するな! 儂が解説する! 解説役は渡さんぞ! 先の力は、太古に居た破壊を司る邪神の力じゃ。使えば使うだけ飲まれるぞ? アルテミスが適当に御主を子供にして、この世界に放り出したじゃろ? その時、邪神の因子が混ぜられたんじゃろうな』


 解説役って何だよ、ヤム○ャかよ。それに混ぜられたって……明らかに、混ぜるな危険だろ!


「堺さん、邪神の因子ってなんですか?」


『いやー。僕が、答えてもいいんだけどね? 創造神が凹んでるから、聞いてあげて?』


 俺、キレてんだけどなあ。だけど、俺がやらかしかけた事を考えたらなあ……。それに恩人である堺さんの頼みを無碍にするわけにはいかないし。


「邪神の因子ってなんだよ、ファンキー爺いさん」


『邪神の因子なー。邪神の遺伝子的なやつう。多分御主を子供にするのに、力が足りなかったんじゃない? それで、太古の邪神のどっかの毛を御主に、混ぜ込んだんじゃなーい?』


 仕方なく聞いてやったのに! ファンキー爺いの説明が偉く適当になりやがった! って言うか邪神の毛!? 身体の一部とか、血とかじゃなくて毛かよ! 髪の毛だよな? 下の毛じゃないよな? 


『御主の、内に秘めた邪神の力を測ってやろうと、ちょっと刺激したらこれじゃよ。御主危ないやつじゃな、まさにキレる10代! おー怖っ! 誰か! テレビカメラー呼んでー!』


 俺のボケにボケをかぶせやがって!


「頭の中で喚いていたのが、邪神の毛か、なるほど」


「洋一! なるほどって頭は大丈夫なの!?」


「頭って……頭は大丈夫だよ。ファンキー爺いが、昔の俺の無力さをご丁寧に映像付きで流すって言う、悪逆非道な行いをした時にな」


 ファンキー爺いめ。下手な口笛を吹きやがって、ごまかせる訳ねえだろ! 最強のライダーキックかますぞ!


『ねえ、気になったんだけど、柊君があんなに怒るなんて珍しいよね? 僕が知る限りだとピエロの時以来じゃない? なにがあったのさ? 僕知りたいんだけど』


 出来れば思い出したくないし、口にしたくないが堺さんには話しといた方がいいか。


「あーまあ良いか、蘭もいいよな?」


「━━うん」

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