【第2話】__災難の始まりなのかい__

 本日も晴天なり、スズメのやかましい鳴き声で起こされる事、十数年。


 寝起きが余りよくない俺は体をベッドから引きずり起こすと、何時ものように着替え始める。



「あぁ、非常に面倒だ、今日から地獄の始まりかぁ」



 昨日から色々と言っていると思うが俺は本当に嫌なのだ、たぶん大半の男子なら飛び上がりて頭を天井に打つのだと思う。

 だがな、俺はごく普通の女子がいいのだ、いらぬ属性を追加した心が暗殺者みたいな女子に好かれたくはないのだ、まぁ好かれてはいないが。



「あ、もうこんな時間かよ、遅刻確定だな」




____そしていろいろとあって今、俺は教師の集まる巣窟に呼び出されていた。


 遅刻の事が原因だよ、母親は自衛官を退職してからというもの過酷な訓練のせいなのか反動で無気力な母へと進化した、つまり妹の朝ご飯を俺が作るのが日課になっている。

 遅刻した原因の根本的な部分はただの寝坊なのだから、妹は関係しない。



「どうした、どこみてるんだよ?」



 目の前で俺を下から睨む教師、担任の小野寺先生は美人なのだが、なんというのか、非常に怖い。

 小野寺先生の後ろの体育教師が頷いているが、それが非常に不愉快ではある。

 話が脱線しかけているので戻そうと思う、つまり今の段階では謝ってもそう安々とは教室に帰してくれないだろう。



「小野寺先生って美人ですよね」


「言われなくても分かってるぞ?」



 はい、この方も美人なのに内面が残念な方なのですね、多少の恥じらいすら見せずに表情を一切変えはしない。



「総賀、キミはもう二年生だよな? 少しは気を引き締めたらどうなんだよ」



 それなら言わせてもらおうか先生、貴女は胸の部分までボタンをしっかりとめましょうね、目のやり場に困るのだから。

 一方的に頷いていると、東城がこちらの方に歩いてきているのが視線に入った、相変わらず不愛想な顔をしているな。

 先生、暗殺者が来ていますよ、気が付いてくださ~い、後ろですよ。



「小野寺先生、話の最中ですみません、総賀くんを借りていいですか?」


「居たなら声をかけろよ、驚くぞ?」



 本当に東城は気配を遮断しているのか、忍者の末裔か何かか。

 まぁそれはいいが、借りるって、せめて俺の居ない場所で使う言葉じゃないのかな。



「総賀くんに頼みたい事があるのですが」


「んー、まぁいいか、おい総賀__明日は気をつけろよ?」


「え__はいぃ」



 空返事をすると睨まれるが見なかった事にして、暗殺者__じゃなかった東城について行く事にする、すると何故か職員室を出て直ぐの廊下で立ち止まり。

 なにを怒ってるのか知らないが暴言の雨を俺に浴びせるのだが、どれも身に覚えの無い事ばかりだ。



「本当にあなたはどうしようもないのね、挨拶もできないのかしら、昨日のあの子は誰よ」


「ん? 挨拶ってなんのだよ、昨日......なんだ」


「頭の中に何を詰めてあるのよ、あなたは」



 まぁ少なくとも脳みそは入っているよね、そんな事より本当に挨拶の件には心当たりが無いのですが。

 しばらく歩いて行くとDクラスの教室まで辿り着いた、何やら騒がしい声が聞こえてくる。



「さて、覚悟はいいかしら」



 覚悟か、朝のあの空気を思い出すだけで口から朝食の目玉焼きが出てきそうになる、男子のあの目つき。

 そもそもひっそりと学生時代を送ろうとしていたのに、とんでもない事に巻き込まれたものだ、東城に見られる事がなければ。

 待てよ、別にいいんじゃないのか、告白した事なんか男なら一度や二度ぐらいあるだろ。



「東城......俺はやっぱり修羅の道にはいけないぜ」


「あらそう、まぁいいわよ?」



 いいのか、なら洗いざらい言って冗談で済ませば俺の高校生活も安泰だ、皆ぁ今行くからね~特に男子は朗報だよね、だって嘘なんだもの。



「いいけど、遊ばれたなんて口が滑って言ってしまうかもしれないわね」



 東城の言葉が耳に入る前に教室の入り口で俺は、数人の男子が此方を睨んでいるのに気が付いた。

 遅れてやって来た東城の言葉の意味を俺の脳みそが整理している、簡単に言えば脅しだ、このご時世に脅しに屈服したらダメなはずなのに。



「東城、オーケイだ、さっきのは無しの方向でよろしくお願いします」


「あら、いいのよ。別にあなたの高校生活だもの__無理に言えないわよ」



 急に耳元で言うな、悪寒がするだろ。

 成程な、ただでさえ不利な上に、ダメ押しをされて手を打たれたか。

 つまりは、貴方が決めたのだから私が悪いわけじゃないと、それなら最初の一言をいわなければ俺にはこの先、逃げるチャンスがあったのかもしれない。

 時期を誤ったな俺、だがこうなった以上は演じ続ける必要があるわけだ。



「総賀明人行きま~す!!」



 勢い良く教室に入ると不思議な事に男子ではなく一人の女子が話しかけてきた、誰だか忘れたな。

 あぁと、たしか氷山彩夏ひやまあやかだったか、栗色の短く切られた髪で襟足が跳ねているが寝グセだろうか、俺を見るその澄んだ瞳は何を期待しているのだろう。



「明人くん、聞きたいことがあったんだけどいい? ねぇいい? ねぇ__」



 元気いいな、てか、うるさいんだけど、壊れたラジオの化身か何かか。

 今、名前で俺を呼んだのか、距離を詰めてくるタイプか、その上で此方が気を持つと私は関係ないと言わんばかりに態度を変える女。

 このタイプも出来ることなら関わりたくないのですが、てか東城はどこ行ったんだ。

 あっ、一人だけ何食わぬ顔で席に座ってるし、おいおい、まさか面倒事を押し付けようとしているのか、だが取り合えずは氷山がうるさいからこっちが優先か。



「どうかした? 氷山さん」


「むぅ、名前で呼んでよ」



 氷山が言うように名前で呼んでみろ、東城の精鋭部隊みたいな奴等に俺が亡き者にされかねない。

 ここで答えを間違えはしない、デメリットが倍に増えるからな、そして俺はもう一人厄介な人物に絡まれ始めたのであった。

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