俺の気持ちを理解して!!残念少女と行進曲

家ノ犬

【第1話】__対象外の対象、望まない関係なんだが_

 夕方の寒空の下で俺は公園にいた、何故か、それは告白をするために。

 だが目の前から去る女子を見送ったのはもうこれで何回目か、何時も同じ事の繰り返し、他人に良く思われようとしたツケなのだろうか。

 想いなんてモノが簡単に伝える事が出来たらどんなに楽なのだろう、好きの言葉が頭の中で何度も空回りする。



「ハハハ、またダメだった......」



 これで幾度目かの告白を失敗した俺はヨロヨロ歩き出すと、近くのベンチに腰を下ろす。

 そしてふと視界入る、遠くで嬉しそうな表情を浮かべて歩いているカップルを眺めるが、不思議と妬む気持ちは浮かばない。



「いいなぁ......愛を感じるな、俺__虚し!!」



 本当は爆発しろだとかなんとか言うのがお決まりなのだろうが、俺は幸せそうにしている男女を眺めるとそんなに嫌な気持ちにはならない、むしろデート中でスマホをいじりだすカップルを見る方が無性に腹立たしくなるのだ。

 だって二人でいる必要無いだろ、いや、まてまて、恐らくこの謎の考えが諸悪の根源なのかもしれないな。



「あの? 二年D組の総賀くんよね?」



 いきなり声を掛けられて、びっくりして反射的に声のする方に視線を向けると、見慣れない女子が立っていた、恐らく俺の学年とクラスまで知っているのだから同じ学校の奴か、まぁ制服も同じだしな。

 返答を渋ると彼女は勝手に自己紹介を始めた、聞いてないのだが。



「私、東城美夜子、クラス同じだったよね?」



 あぁ、そうか確かに見覚えがある、数週間前のクラス替えの時に教室で自己紹介してたな、第一印象はお金持ちのお嬢様、正に俺が一番近付きたくない人類ベスト5に値する人間だ。


 で、持たざる者の裏の世界の人間が、俺になんの用があると言うのか。




 「あぁ、そうだったな、えぇと東城さんは俺になんか用があるのかい?」


 「いえ、ただなんか哀れそうな男の子が寂しく座っていると思ったから声を掛けてみただけよ」



 ほら見ろ、こういう奴は自分より下と思った人間をすぐに蔑む、だから俺はこういう人間には近づきたくないのだ、それに見てみろ、このふてぶてしい立ち方を、腕を組んで見下ろすその面を、それで次の返答を待ってやがる。

 だがお前が望む答えを差し出しはしないぞ、礼なんか言うと思うなよ。



「ふ~ん、で結局なんのようなんだよ? お金持ちのお嬢様が哀れなこの俺に何」


「いいわね、その反抗的な目つき、総賀くんがさっき何をしていたのか......」



 見られていたのか、最悪だ、弱みを握るこの女は俺に何をさせたいのか、しょうがないが聞く事にするしかないか、嫌だけど。



「何が望みだよ、言う事を聞いてやるからさっきの事は黙っておいてくれよ」


「あら、なら堂々と言うわよ? これから一年間私の偽装の恋人になりなさいな」


 まてよ思考が停止する、ええと、もしかしたら一番最悪な事に巻き込まれた気がするな。



「てか、なんで俺なんだよ? 他にいるだろッ__たとえば同じクラスの奥山とか!!」



 奥山は学年一のイケメンだ、彼を取り合う女子達で血の雨を降らしたとかいないとか、まぁこれはただの嫉妬した男子達の戯言が生み出した産物か何かだが。

 そんな事を考えていると、目の前に立つ東城は俺の脇に座って溜め息を吐く。

 微妙な距離感だが、離れると何を言われるかわからんから我慢か。



「そもそも、あのイケメンくんと一緒にいて楽しいと思うの? 年がら年中、他の子の視線に耐えられるわけないでしょうに」



 いやそれは知らんよ、てか奥山が可哀想だろ、存在意義を奪うなよ。



「それにアナタのそのやる気のない目つきとか、整える気があるのか分からない髪型とか、まさにモテないを全力で生かした男の子って感じがいいわね」



 この女は失礼極まりないな、つーか、人を何だと思ってるんだろうか。

 見た目は恐らく学年一、いや下手したら校内一の可能性もあるな、艶やかな長い黒髪、鋭い視線だが愛嬌もある、因みにスリーサイズなんか知った事ではないので割愛しようと思う。




「何? さっきからジロジロと、気持ち悪い」




 んー、やっぱ無理です神様、この人は無理です。


 例えばですよ、例えばおいしそうな料理がありますよね、でもその料理の中身がゴミ箱の中身のあり合わせで作られた料理を食べますか。


 俺は食べないね、食べたくないし店にすら近寄りたくないです。



「まぁほら、恋人になるんだったらさ、その言葉使いを何とかしないかな~なんて」


「無理ね、だって見た目が可愛くない犬に愛情をそそげないでしょ?」



 まさかこんな所に俺と似たような発想をするお方に会えるなんてね。

 てか不快になるような男を何故に選ぶのか、それに偽装で付き合う意味が分からないし分かりたくない、だが聞く権利だけはあるはずだ。


「まぁなんでもいいけどね、てか説明ぐらいしてもらっていいか?」


「何故かしら、必要が無いわよね?」



 もうやめよう面倒だ、取り合えず俺は帰ろうかな、帰ろう。

 よし、何食わぬ顔で立ち上がり歩き出すだけで完了だ、我、帰還せし。



「ちょっと、どこ行く気よ? 私を送りなさいよ」



 ご遠慮願います、バス停はあちらになります、帰りたい、帰してくれ。

 心の叫びも届かないこの女に付き合う事になると思うと生きた心地がしない、そして俺はこの女を好きになる事はないだろうから一緒に居たくない。



「何だよ......面倒だな、あぁ面倒だ」


「二回も言わなくていいわよ、聞こえるわ」



 まぁ二回も言えば引き下がると思った俺が馬鹿だったねごめんね、謝るよ。



「家までな、家まで送ればいいんだな」


「は? 誰も家にまで来てほしくないわよ......気持ち悪い」



 あれか、取り合えずこの女は俺の事を罵倒して一日の恨み辛みを発散しようとしているのかな。


 さてとそれじゃ帰るか、さっさと適当な所まで送ればこの女も満足するだろ。



「さて行くか東城? 取り合えず帰ろうぜ、寒いし、いたくないし」


「気をつけてね、たぶん、来るから」



 何がだ、何が来るんだよ、いきなりオドオドし始めてるし。

 え、まさかのまさか、ストーカー的な何かに狙われてるのですか、それなら辻褄が合うな。

 いや、それこそ俺へのデメリットが大きいじゃないかよ、刺されたらどうするんだよ。



「ほら、あそこで立ってるじゃない、同じ学校の三年生なの」


「あぁ、たしか柔道部の片山先輩か、あの人ってそんな事なんかしないと思うぞ」



 視線に気が付いたのか片山先輩が此方に向かってくるのだが、俺を見るなり掴みかかるのだが、あぁ面倒だ。



「お前、総賀!! なんで美夜子ちゃんといるんだよ?」


「え?、あぁ__今日付き合い始めたんすよ」


「なんだと? お前のような奴が、ふざけるな!!」



 先輩は俺を投げようとするが、地に腰を打つのは先輩であった。

 俺はこの女なんかどうでもいいんだが、今回はこの男が気に入らないので使わせてもらった、ありがとう母さん。

 そう、幼少の頃から母親に自衛隊格闘術を教え込まれた俺に隙など無い、それと言っておくが柔道とかの技は実戦で使えるようになるには経験が必要で、帯の色自体は関係ないのだ。



 「すいません、でもこれだけは言いますね、簡単に手を上げるような男に東城美夜子は付いては行かないと思いますよ」



 東城は先ほどから震えているがよほど怖かったのだろうか、もしかしたら普通の女の子なのかもしれないな。



「総賀くん、ズボン落ちてるわよ......趣味悪いわね」



 やっぱり違うか、それと人の下着にケチつけるな、何だ今日は厄日か何かですか神様。

 こうして俺、総賀明人【そうがあきと】は東城美夜子【とうじょうみやこ】の偽装の彼氏になりました。


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