カクヨムで中堅作家やってたら学校一の美少女にバレて、なんか付き合うことになった件 〜最高級お嬢様()と放課後喫茶店でダラダラ仲良くする日々って良くないですか?〜
第8話 男は睾丸で、女は子宮で考えなければ
第8話 男は睾丸で、女は子宮で考えなければ
「ところで桐島くん。
鬼滅の刃はお好きかしら?」
静謐で瀟洒な雰囲気の喫茶店。
いつもの放課後。いつもの場所で。
クラス一、いや学校一のアイドル。
黒雛(くろひな)アスカはいつものように僕に問いかける。
「いいや、黒雛。
不勉強の極みで恐縮だけど、あまり詳しいとは言えないな」
いつもの台詞。いつもの調子。
クラス一、いや学校一の陰キャ野郎。
不詳僕こと、桐島カズトはいつものように回答する。
「あら意外ね。
仮にもエンタメ小説を書いてる桐島くんのことだから、あれほどのヒット作、チェックするものだと思っていたけれど」
「ああ、一応読んでみたんだけどな。
話題になってたから最初の1巻を読んだんだけど、なんとなく自分には合わないかなって。
その後空前の大ヒットみたいなニュースを見たから、一応3巻まで読んでみたんだけどなかなか盛り上がって来なくてさ。
えーと、猪みたいのかぶっている人が出てきたあたりだったかな」
マスター謹製のブレンドコーヒーを啜る。
ああ、相変わらず爽やかな香りだ。
五感が覚醒するよ。僕、今日一日眠っていたようなもんだったな。
紅茶シフォンケーキにたっぷりとホイップを付けてほおばる。
うおぉぉ……美味しい。
このしっとりした食感。控えめな甘さ。
美味しい、というよりは口の中が気持ちいいといった方が正確かな。
で、鬼滅の刃か。
僕の読んだ範囲だと、なんか矢印出す鬼とか太鼓叩く鬼とかと戦ってたような。
あの辺のバトルもわかるようなわからんような感じだったなー。
主人公の子が矢印を刀で巻き取って鬼に斬りかかったときとか「あ、そういう感じの奴なんだ。こう、刀で巻き取るとかできる系の感じの奴なんだ」って思っちゃって入り込み切れなかったというか。
絵も独特で好みが別れそうな感じがするしね。
「それは惜しいことをしたわね。
そんな人にこそ、是非アニメ版を見てもらいたいわ。
あのUfotableが制作しているだけあって、特に戦闘描写の迫力たるや見事なものよ。
動画配信サービスは入会しているかしら。大抵のサイトで見られたと思うから。
そうね……先にYoutubeかなにかで名シーン集的なものを見てもらった方が興味を持ってもらえるかしら。
戦闘なら、”霹靂一閃”のシーンを見てもらえば「見てみたい!」と思ってもらえると思うわ。
3巻まで読んだなら、吾妻善逸ってキャラは登場していなかったかしら」
「あ、あの仲間の子?金髪の。
正直あいつの喋りが一番キツかったんだよな。
だいぶ寒いだろあれ。あれがなかったらもうちょっと我慢して読んでたと思うレベル」
「いいキャラなのよ……本当に。本当に。
とにかく一度アニメ版の霹靂一閃を見てみてほしいわ……。
なんにせよ、序盤が人によってとっつきづらいのは私も認めるわ。
かくいう私もアニメから入ったにわか組だもの。
でもアニメ版の続き、原作で言えば7巻くらいからは絵もストーリー展開もかなり落ち着いて読みやすくなるわよ。
アニメで一度あの世界観を脳内にインストールしているおかげも大きいと思うけど。
それに、その辺りで「柱」とか「十二鬼月」とかが出てきて王道の少年漫画的に楽しみやすくなるんじゃないかしら」
「あ、知ってるぞ。その柱ってやつ。
前にネットで恋柱って人が話題になってなかったか?」
「甘露寺さんね。
いいところに目をつけているじゃない。
私のイチオシよ。かわいくてかっこよくて優しくて、とても好きだわ」
「いや、なんかバッシングの対象として話題になってたんだよな。
確か、柱なのに胸が大きいのは女性蔑視の表れだとかなんだとか。
僕は普通に可愛いキャラデザだと思ったけれど」
「……いわゆる“おっぱいぶりんぶりん柱“の件ね。
ジェンダー論に敏感な人たちには気になるようね。
確かに女性に対して愛嬌やセクシーさを強要する風潮は望ましくないけれど、創作物の中での表現くらいはある程度寛容になって欲しいものだわ。
そもそも甘露寺さんは性的抑圧なんかに流されないような強さを持った女性なわけだし。
それはそれとして、”おっぱいぶりんぶりん”という表現は凄いと思うのよ。
いいえ、決して批判ではなく。
これが、”ぷりんぷりん”ではダメなのよ。
それだとなんだか、あったかくて柔らかくて、甘くて優しくていい匂いがしそうで、ちょっと触ってみたい好ましい感じがするじゃない?
でも“ぶりんぶりん“なら。
なんだか汚くて醜くて、気持ち悪くて冷たそうで、何なら病気でも移されそうな、触りたくない感じがするじゃない。
この表現が秀逸だと思うのよ。
ただ胸が大きいことを言ってるだけではなくて、それがとても悪いことだというような、話し手の嫌悪感、心情を見事に表現しているわ。
“嫌い“という言葉を使わずに嫌いであることを示す。
これぞ表現の本懐だと思うのよ。
安っぽいJ-Popなんかでは、切ない心情を歌いあげるときに、本当に“切ない“という言葉をそのまま歌詞に使ってしまったりするじゃない。
あれほど陳腐な事はないと思わないかしら?」
「そんなことを考えたことがなかったけれど……。
あ、そのぶりんぶりん柱の件で面白い話があるぜ。
僕、音声入力をよく使うだろう?
ぶりんぶりん柱って言葉を検索しようと音声でタイプしてみたらさ。
Bling Bling柱って出てきちゃったんだよ。
で、Blingて言葉を検索してみたらさ、宝石とかを大量に身に付けているような、ギラギラと輝いているような様を意味する言葉らしいんだ。
この感じってさ、”ぶりんぶりん”発言の人のフィーリングにも合致してる所があると思わないか?
眩しくてギラついて嫌味を感じる、みたいな。
これって結構凄いことだと思うんだよ。
日本語と英語で全然言葉が違うのに、同じ発音に同じようなフィーリングが乗ってるんだから。
なんとなく、人間のDNAや本能と言語の関係性について、何らかの考察が残せそうな気がしないか?」
「それは……面白いわね。
やはり本能と結びついた言葉って強いと思うのよ。
それはきっと、言語や人種を超えるほどに。
少し前に“だいしゅきホールド“という言葉の元祖の方がネット上で発見されていたけれど、彼が剥き出しの本能で創造した言葉はどれも強烈なインパクトだったわ。
どすこい肉ボンバー、幸福エネルギー無限発生臀部、ドラゴンズオナホール、エロスの龍脈、カレーパン美味しいです、ハイエナ舐めたい。
どれも凡百の作家には一生生み出せない破壊力よ。
天才の一打は凡人の十打を凌駕する、という福本漫画の名言を想起したわ」
「ああ、それは僕も見た。
才能の違いに絶望した。一生勝てないと思ったよ」
「本能に結び付いた言語というなら、さっきも触れたジェンダー界隈も強いと思うのよね。
ジェンダー論自体、女性の本能的な権利意識に強く訴えかける性質があるから。
敵とみなした存在に対しては実にユニークでクリエイティブな攻撃を仕掛けてくれるのよ。
以前、こんなことがあったわ。
共にそれぞれのジェンダー論を持つ2人の女性の意見が対立して、論争になったの。
片方が10代女性で、芸能活動をこなすくらいにビジュアルも美しい子。
もう片方は、詳細にはわからないけれどおそらく30代か40代以上の独身女性。
前者の意見は、徒に男女対立を深めるのではなく、男性側の事情や立場も理解したうえで協調して双方の幸福を追求すべき、という穏健派意見。
後者の意見は、現在の女性蔑視の風潮は全て男性に責任があるので、女性が男性の事情を理解するなど言語道断。全ての男性は断罪の対象であり女性の地位向上に献身する義務がある、という過激派意見。
どちらが正しいかという議論はさておき、男性を含む世間に受け入れられやすいのは前者になるわよね。
男性たちの支持を集める10代美少女に対して、後者の女性は激しく憤慨したようだわ。
男性に媚び、女性の社会進出を阻む敵対者と断じ、強烈な罵倒を浴びせたの。
その表現が凄くてーーーー”ちんぽよしよし王女様”と言い放ったのよ。
フェミニストを自称する女性が。
凄いと思わない?
”ちんぽよしよし王女様”よ。”ちんぽよしよし王女様”。
見ようによってはこの発言自体が性的抑圧というか、性暴力に片足を入れている気もするけどーーーー正直、「天才かな?」以外の感想を持つことができなかったわ。
”ちんぽよしよし王女様”……強い表現よ。これは。
私には一生生み出せない。才能には勝てないわね。
真実から出た真の行動は決して滅びはしない、というジョジョの名言があるけれど。
本能から出た魂の発言は決して滅びはしない、とも言えるのではないかしら」
「……すごい、な。
物書きとしては、考えさせられるところがあるよ」
「勿論同等の存在の男性バージョンもあるわよ。
女性、特にジェンダー的価値観に反感を持つタイプの男性も、日々強い言葉を生み出しているわ。
以前も触れた、インセルと呼ばれる非モテ層の創造性は侮れないわ。
最近のお気に入りは、アレね。
鬼滅の刃のファンの中でも40代独身女性を揶揄して放つ、”無産様”という単語。
お美事!と膝を打つ思いだったわ。
女性への敵愾心を知的なウィットで包む乾坤一擲と言って過言ではないでしょう」
「こんなところで鬼滅に戻ってくるのか」
伏線回収のつもりかもしれないが、とばっちりもいいところだろう。
「後世に残る名言を生み出したければ、頭で言葉を考えてはいけないということね。
男は睾丸で、女は子宮で考えなければ。
そしてそれは、報われない人間ほど強い。
童貞ほど、処女ほど強い情念を保つことができる。
良かったわね、桐島君。
貴方のWeb小説家としての才能が生涯にわたって保証されることになったわ」
「誰が一生童貞だ!」
ていうかお前が一応僕の彼女なんだろうが!
こんな感じで、毎日のようにオチに使われる日々だった。
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