第7話 垢BAN待ったなしだな

 カチャカチャカチャ、ッターン!



 今夜も僕のキーボードが快調に火を吹く。


 連載作品の最新話を書き上げ。

 誤字脱字や表現的におかしなところがないかを上から下まで3度ほどチェックし。

 投稿ボタンをクリック!



 この瞬間は、何度やっても緊張するぜ。

 不思議なことに、何度チェックしても誤字はあるんだよなぁ。

 しかもベース部分を音声入力で書いてからキーボードで清書するようにしてから、誤字率は急速に向上しているし。


 それでも便利すぎるから手放せないけどねー。音声入力。


 なろうだったら読者さんが誤字を直接修正してくれるんだけどね。

 カクヨムも早くその機能を実装してはくれないものか。



 などと現実逃避じみたことを考えながらも、実は内心バクバクだ。

 大丈夫かな。面白いかな。

 僕の書いてる小説って、実はクソつまんなかったりしないかな。



 こればっかりはね。

 何作書こうが。ランキングで何位を取ろうが。

 プレッシャーや不安がなくなる事はないだろうな。



 更新後、数分おきにワークスペースをF5ボタンで更新してしまう。

 こんなことをしても何のメリットもないことはわかっている。

 その労力で次の1話を書き始めたり、もしくはさっさと寝ちゃった方がいいのは間違いない。


 でも無理だわ。

 執着しちゃうわ。


 誰か……誰か早く、感想を書いてくれ!

 フォローを、星を。

 そしてできれば、レビューを書いてくれ!


 上手い文章じゃなくていい。

 レビューを見た人が作品を読みたくなるような名文を寄越せなんて言わない!

 面白かったです、の一言だけで作者は死ぬほど救われるんだ……!だから、早く誰か!



 などと思いながらF5ボタンを連打することしばし。

 遂に感想第一号が書き込まれた。



『今回も最高に面白かったです!流れ星先生の作品、本当に大好きです!次も期待しています!無理のない範囲で頑張ってください!』



 おお……おお……。



 許した。もう全部許した。

 人生を。社会を。この腐敗した世の中を。


 なぜ人は戦争などするのだろう。

 許し合い、分かち合い、敬い合うことこそ人間という種の最高の特権ではないだろうか。



 この世界に光あれ。

 この宇宙に調和あれ。



 何よりも大切なことは感謝。

 全ての人たちに幸せが訪れますように。


 今なら中学時代のあの連中のあの言動さえも許せるような気が……しないな。

 それはしないわ。あいつらはダメだ。



 ともあれ嬉しい。

 こんな素晴らしい感想を書けるのは一体どこの偉人だろうかとユーザー名を見る。



「また君かぁ、壊れるなあ」



 ユーザー名、ハープ・テンプル。

 前作の終盤くらいからほぼ毎回更新ごとに応援感想をくれる、僕の熱狂的ファンだ。

 ふふふ。僕にも、熱狂的ファンぐらいいるんだぜ?


 こんなにも熱心に応援してくれるのが凄く嬉しい反面、できれば他の人からの感想も欲しいなぁ、なんて不遜な考えが頭をよぎる。

 いや贅沢な悩みだってことはわかってます。



「しかしこの人も、作品を投稿してるんだよなぁ。

 それもたくさん」



 あまりにも感想くれるもんだから、気になってユーザ名からハーブ・テンプルさんの作者ページを見に行ったことがある。


 彼(彼女?)自身も作品をいくつも投稿している書き手さんだ。

 ちなみに自分では作品を書かずに読むことだけに専念している人のことを、読み専と言うらしい。


 しかしこう言ってはなんだが……お世辞にも人気を博しているとは言えないようだ。


 異世界転生、現地主人公ファンタジー、異世界恋愛、現代ダンジョン。

 いろいろと売れ線のテンプレートを試しているようだが、気の毒なほど読まれていない。



「まずタイトルの時点でなー。

 流行りの長文タイトルに乗っかってるつもりなんだろうけど、長いだけでフックになる単語もないし、この作品を読む事のメリットかま伝わらない。

 これじゃ初見の読者がクリックする理由がないな。


 内容も読者層を想定していないな。

 完全に男子向けの主人公最強ものと見せかけて、速攻で女師匠や姉弟子が登場して実力的にも精神的にも主人公を圧倒してどうするんだよ。

 主人公君……また姉弟子のお使いに駆り出されてる……主体性がないよ……。


 ああ、謎ポエムが始まってしまった。

 伏線のつもりなのかもしれないけど、今これを読んでる人には意味不明だし。

 そもそもそれを回収するまでにエタるリスクが高い以上、読者はわざわざ興味を持ってくれたりはしないよ……。


 で!

 ヒロイン非処女!なめとんのか!

 いや、僕はいいよ!僕は別に気にしないけど!

 別にその設定が意味を持ってるわけじゃなくて、ただ『このほうがリアルでしょ?』みたいなノリでやってるだろこれ!

 あー、もー、ホントにわかってないよこの人!」



 ついつい偉そうな講釈を垂れてしまう。

 いえ、気持ちはわかるのです。

 読者置いてけぼりの自己満足展開、僕も気を抜くと余裕でやっちゃうしね……。


 やたらに恋愛脳な展開多いし、この人女性なのかな?とか邪推しちゃうね。

 近況コメントを覗いてみると、クラスがどうとかテストがどうとか同年代っぽい事かいてるけど。


 とかプロファイリングみたいなことしてる僕キモいね。

 自分でキモいって気付いてるからセーフの範疇だし自分でちゃんと言ったから他の人は絶対キモいって言わないでね!(必死)



 いや、別にあれだよ。

 ウケを狙わないなら何かいても自由なんだけど、作者マイページに『ラノベで一発あてたいです!夢はアニメ化!』とか書いてるしなあ。


 普通に文学的な技量はある……というか僕よりはセンスありそうだけど、Webでウケるのって割と独特な方法が必要だからね。



 なにかアドバイスしてあげたい気もするけど、僕も偉そうなこと言える身分じゃないしな。

 向こうもいきなりそんなこと言ってきたら驚くだろう。


 大体なんて言って提案するんだよ。



 ヤッホ。今日も暑かったね( ;∀;)

 感想貰ってチョー嬉しかったなー( *´艸`)

 次もハープ・テンプルさんのために頑張るぞ~!笑

 ところで貴方の作品読んだけど、よく頑張ってるね( ^^) _旦~~エライエライ笑

 でもちょっとだけ、アドバイスしたいことがあるんだけど……聞きたい?

 連絡先を教えてくれたら手取り足取り教えてあげるよ!……色んな事をね(#^^#)ナンチャッテ!(*_*)

 もう寝ちゃったかな?明日もいい日でありますように。



 みたいな?(クソリプおじさん)

 垢BAN待ったなしだな。



 まあ、下手に反応して周囲の誤解を招くのも厄介だ。

 作者同士で交流するのは良いことだしカクヨム運営も推奨してるけど、示し合わせてポイントを入れ合うようなことをするのは規約違反だし、そんなつもりがなくとも疑り深い人達に変に邪推されても面倒だ。

 ノーレスポンスでいいか。



 寝るか。

 明日も学校だ。


 クラスのみんなとも少し話せるようになってきたし、黒雛の用意してくれる食事もすごく美味しいからな。

 もちろん喫茶店のお茶やケーキも素晴らしいし。

 正直、最近はちょっと学校に行くのが楽しいぜ。

 こんなこと、中学時代は思ったこともなかった。



 欲を言えば、女子とも仲良くしたいけどなー。

 特に琴寺さん!彼女といい感じになれたら最高なのに!


 いや。黒雛と付き合ってる以上、誰とも進展しようがないんだけどね。

 ちなみに黒雛は女子にカウントしません。

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